****** BLOG ******

エッセイ,
活動記録,
その他いろいろ,

 ♪♪♪ H.Tokuda

我が家のネコ

2017-07-26 20:40:50 | エッセイ


 ホントのこと言うと、僕は猫なんてそれほど好きではないのだ。でも、家族の一員としていっしょに暮らす、こいつとだけは仲良くしたいものだと思っている。
 それだのに、彼のほうは僕のことが嫌いなようで、いつも敵意剥き出し。僕がフレンドリーに話し掛けても、こんな不機嫌な目で僕を睨みつける。

 どうやら彼は、我こそが一家の主だと思い込んでいるらしく、家の中で偉そうに振る舞う僕のことが気に入らないのだ。昼間はいつもどこかへ行ってるくせに、帰って来て好き勝手するなよ。わしゃ、ずっとこの家を守ってやってるんだ。そんなふうに彼は考えているに違いない。
 猫のくせに規則正しい生活を好み、朝はいつも決まった時刻に起きる。家族全員を起こしてまわり、その後はあちらこちらの窓から外を覗いて、侵入者がいないかパトロール。



 家族が食事をしているときは、一段高い場所に上がり、狛犬のような姿勢でじっと家族を見守る。夜遅くになると、「そろそろ寝ろや」と、家族一人一人にうるさく声を掛ける。まったく、お節介な奴だ。
 名前は「サスケ」という。御年15歳。人間でいえば70歳は過ぎているのだろう。まあ猫でよかったけど、家にこんな爺さんがいたら、ほんとにうるさくて仕方がないだろうな。
 現在東京で暮らしている息子の空き部屋をねぐらとしている。暑くてもエアコンの入っている部屋をあえて避け、彼は自分の部屋で寝る。昼寝のときも、めちゃ暑い自分の部屋へわざわざ上がっていく。なかなか気骨のある奴だ。



 彼は僕の妻のことが大好きで、すぐそばに寄りたがる。二人きりのときはすごく甘えるらしいのだが、そこへ僕が帰って来ると、何事もなかったかのようにすました顔で部屋を出ていく。甘えている姿を僕に見られるのが恥ずかしいらしい。
 そのくせ、僕が妻と話していると、間に割り込んで邪魔をしにくる。僕のことを恋敵とでも思っているのか。
 妻がいないとき、僕が食事を与えてもなかなか食べようとしない。「おまえに食わせてもらうほど、わしゃ落ちぶれてないわい!」とでも言いたそうな感じだ。それでもいずれは空腹に勝てず、食事の入った皿をチラチラと見るようになる。僕が気を利かせて別の部屋へ行くと、その隙にこっそりと食べる。

 そんな彼も、時おり僕に話し掛けて来ることがある。僕の目の前に座り、僕の顔を見て「ニャオニャオ」と何やら話を始める。「おい、たまには男同士で語り合おうや」と言ってるように聞こえる。
 彼の話はやたら長い。おそらくは、「家の前を通った野良猫を追っ払ってやった」という自慢話をしていたり、「お前は休みの日になると黒いケースをいっぱい抱えてどこへ行ってるんだ」と尋ねたり、「タバコが煙い」と文句を言ったり、「早寝早起きで規則的な生活を送れよ」と説教したりしているのだろう。



 ルックスは若い頃とあまり変わらず、なかなかの男前だ。毛並みも、まだツヤツヤしている。僕と見つめ合うと、いつまでも目をそらさない。いや、見つめ合ってるのでなく、彼は睨み合ってるつもりなのだろう。妻に対しては子供っぽい目でニャーンと甘えるくせに。

 こうしている間にも、下のリビングからニャアニャアという声が聞こえて来る。妻と娘に、早く寝るよう促しているのだろう。皆が寝た後、彼は本日最後のパトロールをしてから自分の部屋で寝る。真面目で責任感が強い猫のようだ。うるさい爺さんだけど、憎めない奴。
 彼と僕との間の家庭内権力抗争は、明日もまた続くのだろう。互いに好きにはなれないが、一目置く存在ではある。いずれ彼がもっと老いぼれたら、一緒にツナの缶詰でも食べながら、静かにゆっくり語り合いたいと思う。
  

夜ふかしの日々

2017-07-01 01:07:04 | エッセイ


 自慢するような話ではないが、僕はめちゃくちゃ寝つきが良い。ベッドに入ると、たいてい2~3分で夢の中。生まれてこのかた、眠れなくて困ったことなんて一度もない。しかも眠りが深く、ちょっとやそっとのことでは目を覚まさない。最近は歳のせいか朝起きが良くなったが、夜中に目を覚ましたりすることはない。寝相が悪く、ときどきベッドから落ちるが、落ちたまま床の上で眠っていることさえもある。
 思えば小学生の頃は、毎晩8時に寝ていた。早寝早起き、いや早寝遅起きの良い子で、睡眠時間が異様に長い。中学生の頃から夜ふかしをするようになったが、そもそも睡眠要求量が多いので、その分、素早く、また深く眠りに入るという体質に変わっていったのではないかと思っている。

 幼い頃、夜ふかしをするとマメダがやって来て子供を連れ去ってしまうのだと教えられていた。マメダがどんな物なのか分からなかったが、とにかく怖いので、夜8時には必ず寝ることにしていた。大阪の親戚の家(母の実家)へ行くと夜ふかしが許された。親もうるさく言わないから、ここにはマメダが出ないのだと勝手に思い込み、安心して夜の時間を楽しむことができた。夜の9時台は僕にとって未知の世界で、何だか胸がわくわくするし、そこに淡い眠気が加わって、うまく言い表せないが何か神妙な世界へ誘い込まれるような気がした。少しあとになって、これは京都からマメダの霊気が漂ってくる感触ではないだろうかと考えるようになり、また少し怖くなった。そのように怖さと好奇心とがクロスしたところに、夜ふかしの魅力がある。

 この歳になってもやはり夜ふかしは楽しいもので、深夜23時を過ぎた頃になると次第に気分が高揚し、ついつい遅くまで時間をつぶしてしまう。何もせずにぽかんと物思いに耽るのもよいが、適当に物を考えながらパソコンのキーボードを叩いているのも楽しいものだ。趣味で小説やエッセイを書いているが、ものすごく調子の良いときは、自動筆記のような状態でどんどん文章が生み出され、ふーっと一息ついたときに現実の世界へと戻る。なかなか先が進まないこともあるが、そんなときにはパソコン相手に将棋を指したり、youtubeで動画を見たりする。原稿の締め切りも何もないから、ほんとに気楽なものだ。

 ただ、文章を書こうとするときにどうしても必要なものがコーヒーとタバコ。一種の薬物依存である。長い時間書けば書くほど薬物の摂取量が増える。若い頃は今よりも十倍くらいニコチン含有量の多いタバコを吸っていたし、カフェソフトなんていう眠気覚ましの薬も愛用していた。それに比べると今はずいぶんマシなのだが、歳を取り、体のあちらこちらにガタが出始めてきた。さすがにもうマメダは怖くないが、心臓発作や脳梗塞は怖い。もうちょっと体を労わってやるかなぁ。・・・そんなことを考えながら、今日も夜ふかし。

 限界ギリギリまで好きな時間を過ごし、その後ストンと眠りの底に落ちる。夢の中で僕は、時空を超えた様々な世界をさまよい、いろんなことを考え、時には怖い目に遭ったり、寂しい思いをしたり、幸福感に耽ったりする。眠りの世界を十分楽しむために、僕は夜ふかしをしているのではないかと思うことがある。ビールを美味しく飲むために、わざわざ喉を乾かせるのと同じように。活動するために体を休めるのでなく、眠るために体や頭を疲れさせる。本末転倒のような理屈だ。

 現実と夢とがクロスオーバーする夜ふかしの時間。かつてこのゾーンにはラジオの深夜放送がいつも流れていた。その頃に聞いたフォークソングなどは、脳細胞の敏感な所に深く刻み込まれていて、今もしっかり思い出すことができる。夢の世界から呼び起こしてくる懐かしい歌詞やメロディーを、いま現実の世界で再構築し、ギターを弾いて再現してみる。これはもう「懐かしい」といった感情をはるか通り越し、大げさに言えば脳内タイムトラベルとでも呼ぶべき貴重な体験なのだ。
 こうして夜ふかしの日々は続く。ニコチンとカフェインとマメダの霊気に助けられ、不健康ながらも充実した毎日。こうしている間にも少しずつ寿命が削られていくのかもしれないが、夢と現実で人生2倍楽しんでいるのだから、まあ良しとしよう。