その理由はいくつもあります。日本で一番高いところにある舗装路であること、森林限界の先にある絶景、マイカー規制がかかっており自転車が走りやすいこと。それらに加えて、交通が不便で簡単には行けないことが憧れにつながり、乗鞍の価値を高めているように思えます。
首都圏から輪行で乗鞍に行く場合、松本から松本電気鉄道に乗り換えて、終点の新島々駅からバスで乗鞍観光センターに向かい、そこから走るのが一般的だそうです。しかし始発で東京を出ても乗鞍観光センターに着く頃には11時を過ぎてしまい、日帰りでのアタックはかなり無理があります。
松本で一泊する手もありますが、早い時間のバスは登山客で混雑が予想され、そこに自転車が持ち込めるか怪しいところです。鉄道と違ってバスは大きな荷物を置く場所が限られるので、断られる可能性がないとは言えません。加えて、バス輪行は横倒しにされて自転車が傷むリスクが高いという難点もあります。
ならば松本から自走すればよさそうですが、これはこれで考えもの。
途中、梓湖近辺で8kmに渡ってトンネルが連なっているのですが、このトンネルが揃いも揃って狭く、長く、しかも登り。車から見ればそんなところを走る自転車は邪魔以外の何者でもないし、自転車側もかなり怖い思いをするようです。ここを通って乗鞍に登ったブログはたくさんありますが、やはり不快な思いをしたのでしょう、ほとんどはここの自走を推奨していません。
とまあこんな具合で、乗鞍に輪行で行くのは課題が多く、どう考えても車で行くほうが簡単です。俺は車を持っていませんがレンタカーを借りれば済むことで、それが一番確実な方法でしょう。
しかしそうと解っていても、輪行であちこち行ってきた身としては引き下がるのは何か悔しい。なんとか車を使わずに乗鞍を満喫する方法はないものだろうか。地図や時刻表を眺めながらそんなことを考えていました。
そこで思いついたのがこちら。松本ではなく岐阜県の高山で一泊し、乗鞍を横断して松本に降りるルートです。乗鞍というと松本側のエコーラインが有名ですが、岐阜側のスカイラインも絶景で知られており、このルートならば両方を楽しめるメリットがあります。帰り道で問題のトンネル地帯を走ることになりますが、下りでスピードが出るので何とかなるでしょう。多分。
高山駅近くのホテルで一泊し、出発したのは朝6時半ごろ。大型のサドルバッグをつけていますが、一泊するための着替えのほかに防寒装備を多めに持ってきているためです。天気予報では今日の乗鞍は晴れ・気温も高いはずですが、山の天気は移り気なもの。多少過剰なくらいがちょうど良いでしょう。
今の時点では、夏用ジャージ上下にアームウォーマーだけで足りていますが、標高2700mの世界を甘く見ることは出来ません。
しかし・・・今日の天気予報は晴れだったはずなのですが。まさかずっとコレじゃないだろうな。
高山を出てしばらくは3%程度の緩い登りが続きます。しかしここで緩いということは、後半でガツンと激坂になるのでしょう。楽だからと喜んでいる場合ではありません。まあなんとなく晴れ間が見えてきたのはありたいことですが。
途中にあるほおのき平スキー場は、乗鞍に登るバスのターミナルになっており、人と車で賑わっていました。ここから先、乗鞍畳平まで店などはないのでトイレに行けるのはここが最後になります。特に催してなくても、いちおう寄っておくのがいいでしょう。
そしてこの辺りになるとすっかり青空になりました。これは期待できそうです。
ここが乗鞍スカイラインへの分岐。真っ直ぐ行けば上高地、そして松本へ。左に行けば乗鞍です。ここまではせいぜい6,7%の傾斜でしたが、ここから先は10%前後の坂が続く難コースに変わっていきます。
スカイラインに入っても、すぐに絶景ゾーンが訪れるわけではありません。この辺りはまだ標高1700m前後で、時おり見晴らしの良いところに出るものの、普通の山道が続きます。
傾斜はさっきから10%前後をウロウロ。先は長いので抑え気味で登ってはいますが、それでもこれだけの傾斜になると脚にかなりのダメージが溜まってきます。せめて絶景が広がってくれれば気も紛れるのですが・・・
もちろんこの時期を狙ったのですが、ちょうど紅葉の季節。点描のような赤と黄色が鮮やかです。
ぼちぼちと背の高い樹木が少なくなり、見通しが良くなって来ました。もうちょっとで写真で見たあの光景が見れる!そう思った途端に足取りが軽くなりどんどん速度を上げてというのはもちろんウソで息も絶え絶えになりながら何とか前に進んでいきます。
標高が2300mを超えるとかなり視界が開けてきました。荒涼とした山肌と青い空、そして・・・
眼下に広がる雲が醸し出す非日常感。まだ先は長いので忘れそうになりますが、ここは既に富士山五合目に匹敵する高さ。高山病になってもおかしくない領域なのです。
いかにも乗鞍っぽい、樹木がなく、岩肌が露出する荒々しい風景。それが広がるのは標高2500mあたりからです。
森林がなく見通しが良いという共通点があるためか、乗鞍は渋峠と比較されることが多いですが、両者はあまり似ていません。比較的なだらかで植物が多く優美な光景が広がる渋峠と、険しい岩肌が露出し周囲の山々を睥睨する乗鞍。
どちらが良いというわけではありませんが、標高の高さからくるのであろう非日常感は乗鞍のほうが上です。キザな言い方をするならば、神様の領域に来ている感とでも言えばいいでしょうか。
そしてようやく目的地・畳平に到着、ここが日本で一番高い舗装路!いやなんというか感無量です。
結局、ここまで夏ジャージ+アームウォーマーだけで登ってきてしまいました。自転車を降りると少し肌寒さを感じるものの、ウインドブレーカーを着てしまえば十分という程度です。これ以上ないほど天候に恵まれました。正直ネタにならない
ここ畳平には山荘が二軒あります。高山ではなくここで一泊する案もあったのですが、三連休に空き部屋があるはずも無く、今回は断念しました。平日なら割と空いてるみたいなので、機会があったら泊まってみたいですね。
今日のお昼は銀嶺荘の自転車定食、980円也。マジでそういうメニューなのです。
こんな場所の割には安いと思いますが、やはり道路が通じていて物流コストがさほどかからないからなのでしょうね。舗装道路は偉大です。
さて。ここ畳平は乗鞍周辺の登山の拠点です。俺は登山の経験も無いし装備も持っていませんが、せっかくここまできたので一番簡単そうな魔王岳に登ってみることにしました。これを想定してSPDシューズを履いて来たのです。
畳平から魔王岳への登り口は階段になっていますが、それを登り切ると頂上らしきものが見えました。距離的には近いけど山頂が石だらけです。SPDシューズで登れるかなぁ?・・・まあ幼稚園児としか思えない子供が登っているので何とかなりそうですが。
近づいてみると、石で階段ぽいものが作られており、思ったよりは登りやすい斜面でした。でもSPDだから言えることで、SPD-SLだったらかなり怖かったかも。
そしてこちらが頂上、わずか13分で登れてしまいました。
畳平とここの標高差は60m程度。それだけでこんなに風景が違ってくるんですね。
さっき俺が走ってきたスカイラインがあんなに下に見えます。その向こうには北アルプスの山々。こんなプチ登山でこれだけの光景が見られるとは。乗鞍は素晴らしいですね。
まだ時間があるので、調子に乗って別の山に登ってみることにしました。目指すは富士見岳です。
これは剣ヶ峰に行く道でもあるので、登山装備の人がひっきりなしに行きかいます。SPDシューズ・リュック無し・水のペットボトルを1本持っているだけの俺はさすがにちょっと場違いな感じ。
富士見岳の登り口から見上げると、さすがに斜面が険しくサクサク登るというわけにはいきません。勾配40%くらいかな?などと考えてしまうあたりが自転車脳。
慎重に登りましたが、それでも30分程度で頂上に着きました。
写真を撮ってくださった方は普通の登山装備でしたが、今日は剣ヶ峰に行くのは諦めるそうです。せっかくここまできたのにもったいない、と正直思いましたが、バスが混んでいるので早めに畳平に戻らないと帰りが深夜になってしまうのだとか。
剣ヶ峰はこちらの方向。往復三時間かかるというし、途中に岩場もあるらしいので、さすがにこんな装備ではね。「大丈夫だ、問題ない」とはとても言えません。
さて登山はこれくらいにして自転車に戻ることにしましょう。エコーラインが待っています。さらば乗鞍、また来るぜ!
松本側のエコーラインもご覧の通り、はるか先の道路まで見通せる絶景ルート。何度も停車して撮影しながら降りているので、ダウンヒルであるにも関わらずペースが上がりません。これはまた来たいですね・・・今度はエコーラインを登ってスカイラインを降りてみたいです。
次第に見通しが悪くなってくると、替わりに紅葉が目立ち始めます。こういう低木の紅葉はスカイラインでは見られませんでした。エコーラインとスカイラインの優劣はつけ難いですが、スカイラインに比べてエコーラインの風景は少しやさしい印象。いずれにしても、片方だけ見て折り返すのはもったいないかな。
段々と樹木が増え、普通の山道になって来ました。ああもう終わりか・・・
乗鞍観光センターに着いて一息入れると、思いのほか消耗しているのを感じて食堂へ。そばやカレーなんかもありましたがそんなメニューでは面白くないので、「山賊バーガー」なるものを頼んでみました。挟んであるのは鳥の唐揚げっぽいのですが、意外とあっさりしていて予想以上に美味かったです。
元気を補給したところで、松本までひとっ走りすることにしましょう。しかしその手前には難関があります・・・
それが冒頭で触れたトンネル群。ごらんの通り、路側帯が無いに等しい自転車殺しです。松本まで緩やかな下りなので速度はそれなりに出るのですが、路面が予想以上に悪くて走り心地は最悪でした。
登りか下りかを問わず、やはりこのトンネル群を自走するのはお勧めしません。次に乗鞍に来る時は、アプローチの手段を再検討しなくちゃいけませんね。
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