夫の母が倒れたら

ある日、突然。備忘録。

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2019年07月13日 | 日記
救急入口ではない自動ドアから入っていくと、院内は昨夜と全く別の場所だった。
子どもの泣き声や順番を待つ人たちでザワザワする外来。
チェックのベストに黒いパンツスタイルで、案内担当の方が行き交う。

夫とふたり、北側の病棟エレベーターに向かい無言で乗り込んだ。
6階で降りて無人のナースステーションを通りすぎ、
姑の名前が書かれた小さなプレートを確認して個室のドアを開けると、
予想に反しA叔母の姿はなかったのでホッとする。
姑は白い部屋の中で、点滴のバッグを二つもぶら下げて眠っていた。

「お義母さん、まだ寝てるんだ…」

正月でも早寝早起きの姑が。
珍しいこともあるんだなぁと寝顔をのぞいて、パイプ椅子に腰かける。


かすかにノックの音がしてドアが開き、背の高いナースさんがおはようございます、
と頭を下げた。今どき回診もパソコン同伴らしい。

「お世話になります、いかがでしょうか」

会釈して姑の様子を伺うと、ナースさんは点滴を指さしながら言った。

「昨日はなかなか吐き気がおさまらず、点滴で吐き気どめを入れています。」

「あれから、まだ吐いていたんですか?」

「そうですね、明け方も…」

音は立てずにテキパキと手を動かしながら、パソコンに何やら打ち込んでいく。
昨夜も思ったけれど、この病院のナースさんは綺麗だなぁ、と
徹夜明けだろう色味のない頬に見とれた。

「もうすぐ日勤の者と交代しますので」

仕事に集中しているせいか見られるのに慣れているのか、動じない態度で
最後に点滴の目盛りを見ると、夜勤のナースさんは静かに出て行った。


「今のも美人だったなぁ。昨日の人は、黒い下着が透けてたし」

ニヤついた夫がひとりごちる。こんな時に。いつものことながら呆れる。


「お義母さん、ずっと吐いてたんだね」

「悪いもんでも食ったのかな?…デパ地下で、何買ってたっけ」

あっけらかんと夫は言い、スマホのゲームを始めたその時…


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