夫の母が倒れたら

ある日、突然。備忘録。

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2019年07月11日 | 日記
実家の重いドアを手前に引くと、しんと冷えた空気に包まれる。


・・・「『こんにちは』じゃなくて、『ただいま』と言いなさい!」

帰省するたび、この玄関で聞いた言葉。
姑本人は無意識ながら、口調や語尾はいつも断定的で圧が強い。
私が『ただいま』と自然に言えるようになったのは、子どもを産んでからだ。
いつも伏し目がちになるのは、ささやかな抵抗。

新婚当初、急激に距離を縮めようとする夫の両親に驚き、支配されるようで辛かった。
私は人見知りする方ではないけれど、義理の親子という大切な間柄だからこそ
じっくりと関係をあたためたかったのに。

「ヨウコのとこ(の嫁姑)は、韓国のドラマみたい」と憐れむ、私の母。
「でも長男の嫁だから、しかたないね」と続けるのは、母も苦労したひとりだからか。
「昭和か!ってね笑」私も陽気なフリで答える。・・・


厚底の靴をぬいでホッとした夫が、軽口をたたいた。

「お・つ・か・れ・さん♪ だいじょーぶ、今日は襲わないよ♡ …俺もつかれてるからさ」

冗談じゃない。
日中も姑の顔を見て、夜も呼び出された。とてもじゃないけど、そんな気になるか。
色よい反応がないのを見た夫、上目遣いで口をとがらせる。

「悪かったよー、ホント冗談。一本飲んで寝よう」

そうそう、いつも冗談か聞いていないかどっちかだ。
ずーっと隣にいても、一度も姑舅さんの小言から私を守ってくれなかったわ。

「…これから飲むんなら、明日の運転は私ね。」

こんな時間に飲み始めたら、アルコールが朝までに分解されない。
そのくらいわからないのかという腹立たしさと、
息子としては、飲まなきゃやってられないだろうなという同情心。
これ以上口を開けばケンカになる。
洗顔と歯磨きして眠ろうと、気持ちを切り替えた。