夫の母が倒れたら

ある日、突然。備忘録。

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2019年07月12日 | 日記
某月某日;

翌朝6:00に、携帯の目覚ましをセットしておいた。

少しずつ音量が大きくなるアラーム音。
最大のボリュームになったところで、ようやく手を伸ばす。
隣で眠る夫はと見ると、身じろぎひとつせず目覚める気配はない。
ギリギリまで寝かせておくか、と静かに体を起こすと、
首の後ろと肩に痛みが走る。
昨夜の緊張と、長時間病院の廊下に座っていた疲れが堪える。
体全体が硬くて重い。

でも、そんなことを言ってはいられない。
数分前にA叔母のラインが入っていた。

『カオルはもう少し寝かせておきます。私はできるだけ早めに病院に行くから』


自分の化粧まで済ませて声をかけると、夫はうーん、と覇気のない伸びをして
ベッドを降りた。

「おばさん、もう向かってるみたいよ、」

「…なんか食べるもんある?」

「今!?」

叔母が朝一で見舞うのに、私たちがのんびり後から顔を出すわけにはいかない。
夫の食べる分くらい、病院の売店で買ったってかまわないと考えていた。
いい嫁ぶろうと焦る妻の心を見透かして夫が言う。

「そんなに急がなくても。おばさんは、自分が心配だから行くんだろ?」

「そりゃそうかもしれないけど…」

私の身にもなってほしい。
今回は緊急事態だ。温厚なA叔母だって、普段とは違う心境に違いない。
姑も、慣れない病院の個室で不安になり、苛立っているだろう。
姑の貴重品や携帯はすべて実家に持ち帰ったので、様子は想像するしかないけれど
やり場のない感情をぶつけられるのは、嫁なんだよ。

「わかったよ、急ぐから」

トーストしていないスライス食パンをかじり、新聞のスポーツ欄をめくりながら
シュガースティック3本入りカフェオレをすすったあと、夫がつぶやく。

「トイレ。」


顔には出さず、そっぽを向いて溜息。
個室のため、姑の面会時間に制限はないとナースさんの説明を受けて、
7:00に出発しようと言ったのは夫なのに。

居間のレトロな柱時計がボーンと鳴って、7:30を告げる。
寝不足でむくんだ顔の私とは対照的にスッキリした顔の夫が、「行くか」と立ち上がった。