▲ 絵付けの鑑賞のため画像を逆さまにしています
街あるきで必ずといっていいほど覗いてしまうのは「せともの屋」さんです。それも昔ながらの家族経営というようすのお店を覗いてみたいのです。私の場合、昭和や「前現代」の匂いや味のあるものが、売れ残ってはいないかな?というのがねらいです。
徒歩というスピードで歩いてみると、容易に気がつくことですが、昨今はこの家族経営と想われるさまざまな業種の商店の店じまいが非常に多い。しばらくぶりで通りかかると、ここなんのお店だったっけ?という状況、多くはコンビニエンスストアになっていて、それが伝統ある商店街のまん中だったりすることもしばしばです。いずれも大きな資本のチェーン店の進出・浸透が影響していることは明らかと思います。写真屋さん、電器屋さん、クリーニング店、そば屋さん、文房具店、書店など…類を挙げたらキリがありません。
「せともの屋」さんも例外ではなく、ご店主が店の奥に座ったきりにしていて、お客は一人もいないというようすがあちらこちらで目につきます。食器類の販売に最も影響を与えているのは、やはり百円ショップなのかなぁとは想いますが、実際に百円ショップの食器売り場をあちらこちら見て廻っても、ほぼ機能本位で「味」というものとは縁遠い品揃え。飲食業の一部や学生、それに若い家庭には受け入れやすいのかもとお見受けしますが、中高年の家庭にはそれほどではないのではないかなどと思ってみたり。もしかすると、二十年ほど前のバブル景気の時代の購買、贈答がゆきわたり、いまも飽和状態になっているのかなどとも想像します。そういえばリサイクルショップに陳列されている未使用贈答品の種類と量の多さに目をみはることもよくあることです。
いずれにせよ狭い日本、体力のある流通が全国の地方・地域のすみずみにまでネットワークを張りめぐらせることで、グローバルな経済による商品やサービスの均質化・合理化が進んでいくというメリットはあるのでしょうが、同時にどこを切っても同じ『金太郎飴』状態化が浸透し、街の表情が薄らいでいくことに危惧を覚えます。反面、このような状況が進むなかにこそ、手の味を持つ工芸品たちが、くっきりと日本本来の彩りを放つことのできる局面が、ますます拡大しているのではないかとも思います。そんな気がかりなことを含めて考えながら歩きまわるのも、街あるきの醍醐味なのでしょう。
昭和や「前現代」の匂いや味のあるものは、地方の「せともの屋」さんに多いのではないかなどと思い込んでいました。ところが、先日出会った画像の茶漬茶碗は、なんと町内のスーパーへ行く三つのルートのうち最も遠まわりな、郵便局経由の道にある「せともの屋」さんで待ち受けていました。以前からその存在は知っていましたが、なんとなく敷居が高そうな気がして覗いたことがない、結構な広さのお店でした。灯台もと暗し。ガレージ側にセールワゴンが出ていて、その中から真っ先に手を上げていたのがこのうつわです。店内に入るとご店主が照明を点けてくれ、全品割引だというのです。はっきりとはいいませんが、残念ながらどうも店じまいの雰囲気がありありと伺えました。大方の品揃えは磁器で、圧倒的に有田焼のプリント柄のうつわ、メインは愛知県の某大手メーカーのティーセットのようでした…。
過多発注ミスで在庫となってしまったというこのうつわ。高台尻に「千峰」と呉須で手描きされていました。ネットで調べると有田焼ではあるようですが、現在の事業所リストには見あたりません。フリーハンドの鉄絵具のめりはりの利いた線描き(つけたて)が躍動しています。この褐色の線と青色は青味がかった透明釉(青磁釉)の下にあり(下絵)、上絵の紫色と黄色の絵具は釉薬のすぐ上に、緑色は黄色のさらに上に焼き付けられています。生地の素焼きを含めると、合計4回の焼成を経て完成した、手の込んだうつわです。かつスピード感のある筆致で、時間をかけないことで製造単価を抑えようとした意図がうかがえます。高台の釉薬のかかっていない裾の内外には鉄絵具を引いていて、現在のようなデザイン最優先の意匠とは明らかに異なった、昭和か「前現代」のつくりです。モチーフのぶどうといい、4色の色使いといい、ヨーロッパの雰囲気が漂うアイディアです。これらと達筆なつけたての技術があいまって、質の高い日本の美しさを表現しているといえます。炎天下のぶどう棚の日陰で、たわわに実ったぶどうを涼しく見上げている気分に浸れます。青磁釉を使われたのは、日陰感を演出するためだったのかもしれません。あぁむかしはよくあったものだね。と安易にいってしまうには、あまりにもったいなさ過ぎる企画ではないかと思います。
このうつわの具体的な商品名は不明ですが、きちんと品物を観察すると、日本陶磁器卸商業協同組合連合会(愛知・多治見市)が昭和56年(1981)11月に設定した陶磁器の「統一呼称」のセオリー、
を基に、次のように「戸籍上の本名」を復元することができます。
ちなみに「統一呼称」では、「飯茶碗」を次のように分類しています。「形状」は丸型、反形、平形の三種類。直径のサイズによる「名称」は、11cm未満=小茶碗、11cm以上=中茶碗、12cm以上=大茶碗、13cm以上=特大茶碗、14cm以上=「茶漬茶碗」とされます。ですから、下の画像の左側のうつわの名称は、
となります。ただ、商慣習として「夫婦飯茶碗」などとペアで販売される場合があります。その場合においても「戸籍上の本名」が表示されたカードを同梱すれば信頼度も高まると思われます。なお、「統一呼称」は産地や事業所によってバラバラになっていた陶磁器の商品名を、整理・統一する指標で、こうすることが望ましいというルールのようなものです。
また、メーカー名(または作者名)はこの商品名の前または後に記載されることになります。このうつわの場合は「千峰作」と付きます。しかしながら、現代においてはメーカー名だけでは、情報不足のように思います。高度な技能を保持する作り手による、手作り手描きの場合はなおさらです。とくに磁器の場合は分業により製造されるのが通常ですので、
を表記してはいかがでしょうか。商品ばかりではなく、製造工程や各担当者名を公開することにより、工場のなかが見えるように親近感が湧き、使い手の理解と信用を得、その担当者の手による他の商品や、リピーターの形成が促進されると思われます。技巧の点だけではなく、チームワークがよさそう、楽しそうな会社だからという面からの発注も期待できるでしょう。また、自社内で「はい土」や釉薬などの原料を調整している場合には、その担当技術者も同様に公開することにより、勤労意欲の増大にも繋がると思われます。やきものに限らずほかの業種でも、マニュファクチャー業態の事業所においては、従業員の技能ばかりではなく気持をも思いやり、従来の商慣習を見直す時期にきていると思います。
日本では毎年、約百万人の人が生まれ、それより多少少ない人数が社会人になると考えられますが、逆にそれより相当多くの人が亡くなっていきます。伝統工芸品の使い手は急速に減少していると考えなくてはなりません。そのような今日、情報をじょうずに管理・公開して、若者中心である情報化社会・ I T 社会の波に対応することが、伝統工芸業界の容易かつ大きな課題だと思います。
たくさんの商品のなかから、こちらに向かって手を振るうつわと出会うことは、歓喜・至福の体験であり、小さな楽しいイベントです。毎日何度となく手に持ち、口にあてるけやぐだからこそ、お気に入りのうつわを求めて歩きまわる価値があるのだと思います。のびのびとしたサイズの、涼しげな色合いの飯茶碗を愛でながら、うつわを作った方々のプライドの力もお借りし、この暑い夏の食欲を減らさぬよう、食卓に向かい続けて乗り越えたいものです。
§
徒歩というスピードで歩いてみると、容易に気がつくことですが、昨今はこの家族経営と想われるさまざまな業種の商店の店じまいが非常に多い。しばらくぶりで通りかかると、ここなんのお店だったっけ?という状況、多くはコンビニエンスストアになっていて、それが伝統ある商店街のまん中だったりすることもしばしばです。いずれも大きな資本のチェーン店の進出・浸透が影響していることは明らかと思います。写真屋さん、電器屋さん、クリーニング店、そば屋さん、文房具店、書店など…類を挙げたらキリがありません。
「せともの屋」さんも例外ではなく、ご店主が店の奥に座ったきりにしていて、お客は一人もいないというようすがあちらこちらで目につきます。食器類の販売に最も影響を与えているのは、やはり百円ショップなのかなぁとは想いますが、実際に百円ショップの食器売り場をあちらこちら見て廻っても、ほぼ機能本位で「味」というものとは縁遠い品揃え。飲食業の一部や学生、それに若い家庭には受け入れやすいのかもとお見受けしますが、中高年の家庭にはそれほどではないのではないかなどと思ってみたり。もしかすると、二十年ほど前のバブル景気の時代の購買、贈答がゆきわたり、いまも飽和状態になっているのかなどとも想像します。そういえばリサイクルショップに陳列されている未使用贈答品の種類と量の多さに目をみはることもよくあることです。
いずれにせよ狭い日本、体力のある流通が全国の地方・地域のすみずみにまでネットワークを張りめぐらせることで、グローバルな経済による商品やサービスの均質化・合理化が進んでいくというメリットはあるのでしょうが、同時にどこを切っても同じ『金太郎飴』状態化が浸透し、街の表情が薄らいでいくことに危惧を覚えます。反面、このような状況が進むなかにこそ、手の味を持つ工芸品たちが、くっきりと日本本来の彩りを放つことのできる局面が、ますます拡大しているのではないかとも思います。そんな気がかりなことを含めて考えながら歩きまわるのも、街あるきの醍醐味なのでしょう。
§
昭和や「前現代」の匂いや味のあるものは、地方の「せともの屋」さんに多いのではないかなどと思い込んでいました。ところが、先日出会った画像の茶漬茶碗は、なんと町内のスーパーへ行く三つのルートのうち最も遠まわりな、郵便局経由の道にある「せともの屋」さんで待ち受けていました。以前からその存在は知っていましたが、なんとなく敷居が高そうな気がして覗いたことがない、結構な広さのお店でした。灯台もと暗し。ガレージ側にセールワゴンが出ていて、その中から真っ先に手を上げていたのがこのうつわです。店内に入るとご店主が照明を点けてくれ、全品割引だというのです。はっきりとはいいませんが、残念ながらどうも店じまいの雰囲気がありありと伺えました。大方の品揃えは磁器で、圧倒的に有田焼のプリント柄のうつわ、メインは愛知県の某大手メーカーのティーセットのようでした…。
過多発注ミスで在庫となってしまったというこのうつわ。高台尻に「千峰」と呉須で手描きされていました。ネットで調べると有田焼ではあるようですが、現在の事業所リストには見あたりません。フリーハンドの鉄絵具のめりはりの利いた線描き(つけたて)が躍動しています。この褐色の線と青色は青味がかった透明釉(青磁釉)の下にあり(下絵)、上絵の紫色と黄色の絵具は釉薬のすぐ上に、緑色は黄色のさらに上に焼き付けられています。生地の素焼きを含めると、合計4回の焼成を経て完成した、手の込んだうつわです。かつスピード感のある筆致で、時間をかけないことで製造単価を抑えようとした意図がうかがえます。高台の釉薬のかかっていない裾の内外には鉄絵具を引いていて、現在のようなデザイン最優先の意匠とは明らかに異なった、昭和か「前現代」のつくりです。モチーフのぶどうといい、4色の色使いといい、ヨーロッパの雰囲気が漂うアイディアです。これらと達筆なつけたての技術があいまって、質の高い日本の美しさを表現しているといえます。炎天下のぶどう棚の日陰で、たわわに実ったぶどうを涼しく見上げている気分に浸れます。青磁釉を使われたのは、日陰感を演出するためだったのかもしれません。あぁむかしはよくあったものだね。と安易にいってしまうには、あまりにもったいなさ過ぎる企画ではないかと思います。
§
このうつわの具体的な商品名は不明ですが、きちんと品物を観察すると、日本陶磁器卸商業協同組合連合会(愛知・多治見市)が昭和56年(1981)11月に設定した陶磁器の「統一呼称」のセオリー、
【産地/素地・釉薬/文様・絵柄/形状/品名/寸法・容量】
を基に、次のように「戸籍上の本名」を復元することができます。
「有田焼 色絵 青磁釉 葡萄絵 平形 茶漬茶碗(径14.6cm)」
ちなみに「統一呼称」では、「飯茶碗」を次のように分類しています。「形状」は丸型、反形、平形の三種類。直径のサイズによる「名称」は、11cm未満=小茶碗、11cm以上=中茶碗、12cm以上=大茶碗、13cm以上=特大茶碗、14cm以上=「茶漬茶碗」とされます。ですから、下の画像の左側のうつわの名称は、
「有田焼 色絵 青磁釉 葡萄絵 丸形 中茶碗(径11.3cm)」
となります。ただ、商慣習として「夫婦飯茶碗」などとペアで販売される場合があります。その場合においても「戸籍上の本名」が表示されたカードを同梱すれば信頼度も高まると思われます。なお、「統一呼称」は産地や事業所によってバラバラになっていた陶磁器の商品名を、整理・統一する指標で、こうすることが望ましいというルールのようなものです。
また、メーカー名(または作者名)はこの商品名の前または後に記載されることになります。このうつわの場合は「千峰作」と付きます。しかしながら、現代においてはメーカー名だけでは、情報不足のように思います。高度な技能を保持する作り手による、手作り手描きの場合はなおさらです。とくに磁器の場合は分業により製造されるのが通常ですので、
成形者名/下絵付(つけたて,こつがき,だみ)者名/
上絵付者名/焼成(窯焼)者名
上絵付者名/焼成(窯焼)者名
を表記してはいかがでしょうか。商品ばかりではなく、製造工程や各担当者名を公開することにより、工場のなかが見えるように親近感が湧き、使い手の理解と信用を得、その担当者の手による他の商品や、リピーターの形成が促進されると思われます。技巧の点だけではなく、チームワークがよさそう、楽しそうな会社だからという面からの発注も期待できるでしょう。また、自社内で「はい土」や釉薬などの原料を調整している場合には、その担当技術者も同様に公開することにより、勤労意欲の増大にも繋がると思われます。やきものに限らずほかの業種でも、マニュファクチャー業態の事業所においては、従業員の技能ばかりではなく気持をも思いやり、従来の商慣習を見直す時期にきていると思います。
日本では毎年、約百万人の人が生まれ、それより多少少ない人数が社会人になると考えられますが、逆にそれより相当多くの人が亡くなっていきます。伝統工芸品の使い手は急速に減少していると考えなくてはなりません。そのような今日、情報をじょうずに管理・公開して、若者中心である情報化社会・ I T 社会の波に対応することが、伝統工芸業界の容易かつ大きな課題だと思います。
§
たくさんの商品のなかから、こちらに向かって手を振るうつわと出会うことは、歓喜・至福の体験であり、小さな楽しいイベントです。毎日何度となく手に持ち、口にあてるけやぐだからこそ、お気に入りのうつわを求めて歩きまわる価値があるのだと思います。のびのびとしたサイズの、涼しげな色合いの飯茶碗を愛でながら、うつわを作った方々のプライドの力もお借りし、この暑い夏の食欲を減らさぬよう、食卓に向かい続けて乗り越えたいものです。
食卓に涼風を呼ぶぶどう棚 蝉坊
▲ 画像data;
右)有田焼色絵青磁釉葡萄絵平形茶漬茶碗 千峰作
径;146mm/高;67mm/重;215g
高台径;60mm/高台高/12mm
左)有田焼色絵青磁釉葡萄絵丸形中茶碗 千峰作
径;118mm/高;64mm/重;150g
高台径;46mm/高台高/9mm
※寸法はまとめて表記しています。
《 関連ブログ 》
● けやぐ柳会「月刊けやぐ」電子版
会員の投句作品と互選句の掲示板。
http://blog.goo.ne.jp/keyagu0123
● ただの蚤助「けやぐの広場」
川柳と音楽、映画フリークの独り言。
http://blog.goo.ne.jp/keyagu575
▲ 画像data;
右)有田焼色絵青磁釉葡萄絵平形茶漬茶碗 千峰作
径;146mm/高;67mm/重;215g
高台径;60mm/高台高/12mm
左)有田焼色絵青磁釉葡萄絵丸形中茶碗 千峰作
径;118mm/高;64mm/重;150g
高台径;46mm/高台高/9mm
※寸法はまとめて表記しています。
《 関連ブログ 》
● けやぐ柳会「月刊けやぐ」電子版
会員の投句作品と互選句の掲示板。
http://blog.goo.ne.jp/keyagu0123
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