わが家の鉄瓶「なぎさ」くんを紹介します。
黒く底光りのする鋳鉄肌の美しさと存在感。
わが家にやってきて四半世紀以上。
でも当初からそのほとんどは不遇をかこつ状況でした。その機能をステンレスケトルに奪われ、仕事らしいことといえば、この間6・7回にわたり南部鉄器の本場・盛岡の学びやへ伝統的工芸品の標本として連れて行かれたことぐらいだったからです。
そこで、この春からのかくも長き在宅を想定し、鉄瓶を手許に置いて向き合おうと一念発起、街歩きで見つけたIHヒーターの指定席に鎮座してもらいました。
キッチン台の下での長年にわたる不使用のため、瓶の内部に2カ所赤錆斑が出ていましたが、緑茶葉をたっぷり投入し30分ほど煮込んでその湯を捨て、これを2回繰り返すと湯の色と臭いが収まりました。
以来、お茶、紅茶、コーヒーを楽しんでは水を注ぎ足し注ぎ足し、あの猛暑の夏も乗り越え半年を通じてがんばっています。
家族で家を空けるときは、お湯を捨て熱源にかけて中を完全に乾燥させて出かけます。
そのお茶のなんとも丸みがあってうまいこと。
ケトルのお湯とは比べものになりません(当家比較)。
お湯を使うたびにもとの水位まで水を足して沸騰させ、あとは80℃▲にセットしておけば、いつでもまたすぐお茶が、コーヒー紅茶の場合には、2・3分の再沸騰で楽しめます。
「なぎさ」くんのつぶやきでもあるお湯のふつふつと沸騰する音をそばで聴くのも、せせらぎの音と同様のリフレッシュ感があります。
ただ、どう聴いてもチンチンとは聴こえません。
「なぎさ」くんと水道の蛇口との間の水のピストン輸送は、2リットル入りの水指しの担当。
水位が透けて見える塩化ビニールのものが軽量安全で快適。
主役は鉄瓶です。
鉄瓶はキッチンから遠ざけることが肝要です。
今回、鉄瓶は居間(リビング)の、ヤカンが台所(キッチン)の道具であることを実感しました。
IHは電磁波が鉄瓶自体を発熱させることによりお湯を沸かすので、ガスや電熱線を使用した器具のように鉄瓶に不要なダメージを与えることがありません。
鉄瓶に限らず日本の伝統工芸、日本の自然には温かな思いやりが大切です。
「なぎさ」くんの手入れといえば、ときどき表面を綿布で拭いてあげること。
なにより毎日毎日使い続けることこそが一番の手入れ。
おいしいお湯を味わうことがイコール鉄瓶を育てることになるのです。
こうして「なぎさ」くんは日々じっくりじっくりと艶を増して強く美しくたくましく育ち、今や15年前にわが家にやって来て立派なかすがいとなったトラ猫以来の大切な家族となりました。
鉄瓶と楽しむくらし、おすすめです。
「なぎさ」くんのデザイン的な魅力は、鉄瓶の伝統にとらわれないすっきりとした形。
小振りながらその単純で広さのある曲面が、鉄という素材そのものの表情を豊かに感じさせます。
いわゆる末広がりな形は、熱の吸収効率の高さを想像させますし、同時に重心が限りなく低いことは、まさに東京駅のような「耐震構造」でもあります。
大震災以来頻繁に余震が続いていますが、振動による転倒で熱湯を浴びせない安心安全なデザインは当節特に重要なこと。
また縁起のいい末広がりは、慶事の贈答品としても適材でしょう。
それにつけても「なぎさ」くんが四半世紀以上前の仕事であることに敬服します。
鉄瓶とIHとの今後について、鉄瓶側はIH対応であることを、IH側は鉄瓶対応であることを、互いに共通のキャッチコピーやマークで明確にアピールすることで相乗効果が期待できますし、鉄瓶専用のデザイン開発が待たれるIHヒーターとのカップリングは、日本の美と英知を海外にも示し、新たな市場開発への展開にも希望が持てます。
NHK「ためしてガッテン」が取り上げた鉄瓶の効用以来の好況が待たれます。
この際失念していた商品名の確認のため、産みの親である作り手へ電話で「あの円錐台の…」と尋ねると「あぁ、なぎさがぁ…」とのこと。
そう、「なぎさ」くんは愛称ではありません。本名なのです。
「なぎさ」の名の由来は、完成後眺めていると側面に引いた筋の線と円錐台の形が印象づける遠近感が、海辺に打ち寄せるさざ波のように見えたから……ということでした。
鉄瓶が座って生きる I H 蝉坊
▲ 画像data;鉄瓶「なぎさ」/南部鉄器/なんぶてっき/
七ッ森工房・佐々木健太郎/伝統工芸士/
岩手・雫石
全H=180㎜/上Ø=105㎜/下Ø=190㎜/
W=1,700g/C=1,060㏄
《 関連ブログ 》
●けやぐ柳会「月刊けやぐ」ブログ版
会員の投句作品と互選句の掲示板。
http://blog.goo.ne.jp/keyagu0123
●ただの蚤助「けやぐの広場」
川柳と音楽、映画フリークの独り言。
http://blog.goo.ne.jp/keyagu575
七ッ森工房・佐々木健太郎/伝統工芸士/
岩手・雫石
全H=180㎜/上Ø=105㎜/下Ø=190㎜/
W=1,700g/C=1,060㏄
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川柳と音楽、映画フリークの独り言。
http://blog.goo.ne.jp/keyagu575
vol.26「北東北に行こう。」拝見しました。第一、第二のふるさとをとても素敵にとりあげていただいてありがとうございます。こまやかなフットワークのよさと視線の低さがとてもよかったです。
これからもがんばってください。応援しています。蝉坊
そう言っていただけると、少しだけほっとします。
今回の出張は私にとっては初めての青森上陸で、
本当に楽しい充実した3泊4日の取材でした。
クリスマス前では珍しいという吹雪の洗礼も受け(笑)、
美しい雪景色を撮影することができました。
ただ、今は積雪量が心配ですね。
少しでも早く状況が改善されるといいのですが。
ですから、ニドさんの今回の特集企画の意義も大きいと思います。蝉坊