沖縄・壷屋のやちむん(やきもの)には、あらやち(荒焼)とじょうやち(上焼)のふたつの表情があります。
あらやちは鉄分の多い粘土で作る無釉の焼締め陶器で、安南=ベトナム方面から伝わり、じょうやちは器体の表面に白っぽい化粧土を掛け、釉薬の下、ときには上に絵付けを施して焼き上げる陶器で、中国・清や朝鮮の技法が導入されました。沖縄の窯業は屋根瓦に始まりましたが、壷屋焼の始まりは、水や泡盛の貯蔵用の甕類やシーサーなどのあらやちでした。
画像のあらやちの大ぶりなカップは、20年ほど前に現地、沖縄・那覇の「やちむん通り」の小さなお店で出会った「けやぐ」です。狭い店内の展示台にあふれるほど並べられた大小のじょうやちのうつわの奥の方で、黒ぐろとして、スッと瀟洒な姿で、しかも堂々と静かに手を振って迎えてくれました。
大ぶりな割りに薄手に仕上げてあり、タンブラーの陶器版といったアイデアと見ました。ただ、ガラスと違い、あらやちの土肌には温もりがあります。手にとってよく見ると、器体の両面に手で挽いた「ろくろ目」が控えめに残っていて、表面に極めて細かな銀色の粒子が薄く浮き出ています。あらやちの土の粗さが、指のスリップ止めとなっていて、あたかもベルベットの布のような触感があります。
ずん胴のうつわは洗いにくいものが多いのですが、この大振りはスポンジの握りこぶしが楽々入るので、酒盛りのあとでも楽しく洗物ができます。洗物の楽なことは、うつわのデザイン上のとても大切なアイテムだと思います。
手ろくろ・手しごとであることは、胴部の )( 状のくびれでも解りますが、外見と同じように内側面の基部までもが、末広がりの「逆勾配」となっているので、いわゆる「型抜き」によるうつわではないことが、ひと目でわかります。何気ないようですが、このことは手しごとにとって大変重要な意味を持ちます。
効率化や経済性の追求が最優先される21世紀文明の渦中にあって、敢えて大量生産によらず、ひとつずつ熟練した技能を発揮した作品は、おのずとその価値が区別されなくてはなりません。せっかく手しごとで作った愛着ある作品と、型抜きのように規格化・量産化された商品とが同列に扱われることは、日本の伝統文化価値の喪失にほかなりません。
21世紀の今日、作り手は、文字によって「手しごと」であることを表示するばかりではなく、ひと目で作品そのものが規格化・量産化では不可能だとわかるデザイン・造形を心がけることが肝要です。作り手本人のことを知っている関係者なら、名前を見れば「手しごと」であることはわかるでしょうが、作品はひとり歩きするものです。縁もゆかりもない使い手にも、ひと目で「手しごと」であることを理解し、信頼してもらうことが大切です。大げさにいえば、受け身の/defensive/ものづくりから、攻撃的な/aggressive/ものづくりへの発想の転換とでもいいましょうか。作品こそ最大・最良のPR媒体なのですから。
このマイカップには、形や素材のほかに嬉しい「取柄/とりえ」があります。それは、腰の周囲に焼き付いている黒褐色の「自然釉」です。焼締めの焼成工程で自然に被ったものなのでしょう。当然作者の狙ったものだと思います。オーバーハングしている上方にはなく、斜面になっている裾には被るはずだと。長い間使っているうちに黒味と艶が増し、じわじわと「育って」くれています。 これがわずか3cmほどの幅でほどよいグラデーションを見せています。近くに寄って見ていると、まるで月面の荒野の景色のようで、音のない静かな夜を想わせる風情です。
冷たいビールを注ぎこむと、緩やかな抜き勾配の口縁部に集めた細かい気泡の炭酸ガスを、ほどよく開放してくれます。ガラスと違って、器体自体の熱伝導率も相当小さいと思われます。側面には周囲の空気から凝結した水分の「汗」が発生し、これが蒸発する際に気化熱を奪う作用が働くと思われます。「アイスボール」の大きめなものを作って、泡盛や焼酎やウィスキーなどをやってみるのは、今後の楽しみな課題です。心残りは、出会った2個のうち1個は夢の島へ見送ったことです。
なお、ケヤキ材でできているコースターは、富山の庄川挽物木地/しょうがわ・ひきものきじ/です。確かイベントの制作実演で作られた半製品を3個ほど分けていただき、折を見て自分で何度かサンドペーパーをかけ、荏油(えのあぶら/エゴマの種子からとった油)を綿布で摺りこんだものです。
使うたびに水気を拭き取ったり、手のひらで撫でてやったり、長い間つきあうことで仕上がってきた好例です。時間とともに樹の味わいが増してくるので愛着が湧きます。表面の浅い凹面にうつわが線で接することですわりもよく、熱の伝導を妨げる効果があります。このコースターと出会った瞬間にいだいたインスピレーション=あらやちのマイカップとの取り合わせ=が、外れていなかったことを、今も楽しんでいます。
あらやちは鉄分の多い粘土で作る無釉の焼締め陶器で、安南=ベトナム方面から伝わり、じょうやちは器体の表面に白っぽい化粧土を掛け、釉薬の下、ときには上に絵付けを施して焼き上げる陶器で、中国・清や朝鮮の技法が導入されました。沖縄の窯業は屋根瓦に始まりましたが、壷屋焼の始まりは、水や泡盛の貯蔵用の甕類やシーサーなどのあらやちでした。
画像のあらやちの大ぶりなカップは、20年ほど前に現地、沖縄・那覇の「やちむん通り」の小さなお店で出会った「けやぐ」です。狭い店内の展示台にあふれるほど並べられた大小のじょうやちのうつわの奥の方で、黒ぐろとして、スッと瀟洒な姿で、しかも堂々と静かに手を振って迎えてくれました。
大ぶりな割りに薄手に仕上げてあり、タンブラーの陶器版といったアイデアと見ました。ただ、ガラスと違い、あらやちの土肌には温もりがあります。手にとってよく見ると、器体の両面に手で挽いた「ろくろ目」が控えめに残っていて、表面に極めて細かな銀色の粒子が薄く浮き出ています。あらやちの土の粗さが、指のスリップ止めとなっていて、あたかもベルベットの布のような触感があります。
ずん胴のうつわは洗いにくいものが多いのですが、この大振りはスポンジの握りこぶしが楽々入るので、酒盛りのあとでも楽しく洗物ができます。洗物の楽なことは、うつわのデザイン上のとても大切なアイテムだと思います。
手ろくろ・手しごとであることは、胴部の )( 状のくびれでも解りますが、外見と同じように内側面の基部までもが、末広がりの「逆勾配」となっているので、いわゆる「型抜き」によるうつわではないことが、ひと目でわかります。何気ないようですが、このことは手しごとにとって大変重要な意味を持ちます。
効率化や経済性の追求が最優先される21世紀文明の渦中にあって、敢えて大量生産によらず、ひとつずつ熟練した技能を発揮した作品は、おのずとその価値が区別されなくてはなりません。せっかく手しごとで作った愛着ある作品と、型抜きのように規格化・量産化された商品とが同列に扱われることは、日本の伝統文化価値の喪失にほかなりません。
21世紀の今日、作り手は、文字によって「手しごと」であることを表示するばかりではなく、ひと目で作品そのものが規格化・量産化では不可能だとわかるデザイン・造形を心がけることが肝要です。作り手本人のことを知っている関係者なら、名前を見れば「手しごと」であることはわかるでしょうが、作品はひとり歩きするものです。縁もゆかりもない使い手にも、ひと目で「手しごと」であることを理解し、信頼してもらうことが大切です。大げさにいえば、受け身の/defensive/ものづくりから、攻撃的な/aggressive/ものづくりへの発想の転換とでもいいましょうか。作品こそ最大・最良のPR媒体なのですから。
このマイカップには、形や素材のほかに嬉しい「取柄/とりえ」があります。それは、腰の周囲に焼き付いている黒褐色の「自然釉」です。焼締めの焼成工程で自然に被ったものなのでしょう。当然作者の狙ったものだと思います。オーバーハングしている上方にはなく、斜面になっている裾には被るはずだと。長い間使っているうちに黒味と艶が増し、じわじわと「育って」くれています。 これがわずか3cmほどの幅でほどよいグラデーションを見せています。近くに寄って見ていると、まるで月面の荒野の景色のようで、音のない静かな夜を想わせる風情です。
冷たいビールを注ぎこむと、緩やかな抜き勾配の口縁部に集めた細かい気泡の炭酸ガスを、ほどよく開放してくれます。ガラスと違って、器体自体の熱伝導率も相当小さいと思われます。側面には周囲の空気から凝結した水分の「汗」が発生し、これが蒸発する際に気化熱を奪う作用が働くと思われます。「アイスボール」の大きめなものを作って、泡盛や焼酎やウィスキーなどをやってみるのは、今後の楽しみな課題です。心残りは、出会った2個のうち1個は夢の島へ見送ったことです。
なお、ケヤキ材でできているコースターは、富山の庄川挽物木地/しょうがわ・ひきものきじ/です。確かイベントの制作実演で作られた半製品を3個ほど分けていただき、折を見て自分で何度かサンドペーパーをかけ、荏油(えのあぶら/エゴマの種子からとった油)を綿布で摺りこんだものです。
使うたびに水気を拭き取ったり、手のひらで撫でてやったり、長い間つきあうことで仕上がってきた好例です。時間とともに樹の味わいが増してくるので愛着が湧きます。表面の浅い凹面にうつわが線で接することですわりもよく、熱の伝導を妨げる効果があります。このコースターと出会った瞬間にいだいたインスピレーション=あらやちのマイカップとの取り合わせ=が、外れていなかったことを、今も楽しんでいます。
使われてうつわの顔が仕上げられ 蝉坊
● 壷屋焼荒焼臼型カップ
縁径=100mm/胴径=90mm/底面径=86mm
胴厚=3mm/底厚=5mm
高=93mm/重=265g/容=480cc
■ 庄川挽物木地ケヤキ板目凹面コースター
径=110mm/高=14mm
縁径=100mm/胴径=90mm/底面径=86mm
胴厚=3mm/底厚=5mm
高=93mm/重=265g/容=480cc
■ 庄川挽物木地ケヤキ板目凹面コースター
径=110mm/高=14mm
《 関連ブログ 》
● けやぐ柳会「月刊けやぐ」電子版
会員の投句作品と互選句の掲示板。
http://blog.goo.ne.jp/keyagu0123
● ただの蚤助「けやぐの広場」
川柳と音楽、映画フリークの独り言。
http://blog.goo.ne.jp/keyagu575
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