「その日のまえに」2008/9/3
重松清
連作短編集です。
最後にすべてがつながって、あ!あの時のあの人がここに!!と感動したりしましたが
個人的な感想を言うと、まるで美しい物語を見ているようで
現実感があまりありませんでした。
「その日」とは人の死を意味しています。
本書で共感できた部分は「その日のまえに」の話の中で
余命宣告を受けた和美が、夫とともに結婚して初めて住んだアパートを訪ねるシーンです。
思い出の地を回ること…
もし私が同じ状況になったら、たぶん同じことをするんではないか?
別にどこか遠くに旅行へ行きたいとか、そういう願望はない。
過去の思い出にしばし浸り、あの時は楽しかったねって言いたいな。
あまり共感できなかったところは、
「その日のあとで」の看護師長の山本さんと和美の夫との会話
(本文より)
「終末医療にかかわって、いつも思うんです。『その日』を見つめて最後の日々を過ごすひとは、
じつは幸せなのかもしれない、って。
自分の生きてきた意味や、死んでいく意味について、ちゃんと考えることができますよね。
あとにのこされるひとのほうも、そうじゃないですか?」
「でも、どんなに考えても答えは出ないんですけどね」
「考えることが答えなんだと、わたしは思ってます。
死んでいくひとにとっても、あとにのこされるひとにとっても」
(本文終わり)
『その日』を見つめて最後の日々を過ごすひとは、じつは幸せなのかもしれない…
この文章は、なんか納得できないなあと思いました。
こんなきれいごとではない気がするんですが…
だって、最初から末期がんにさえなっていなければ、もっと長生きできたかもしれないんですよ。
和美は息子2人の成長をきっと見守りたかったにちがいありません。
自分の生きてきた意味や、死んでいく意味についてちゃんと考えることって
そんなに大切なことでしょうか?
人それぞれでしょうが
死にゆく人に対して「幸せなのかもしれない」なんて簡単に言ってほしくないなあと思いました。
本書を読んで、当たり前の日常がずっと続くわけではないのだ、ということを
理解するにはいい小説なんだと思います。
(毒舌失礼しました)