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「生まれてこないほうが良かったのか?」森岡正博

2024年06月03日 | 本 レビュー

「生まれてこないほうが良かったのか?」2020/10/15

森岡正博

ーあらすじー

「生まれてこないほうがよかった」という思想は、人類2500年の歴史をもつ。

本書では、古代ギリシャの文学、古代インドの宗教哲学、ブッダの原始仏教、

ゲーテやショーペンハウアー、ニーチェなど近代の文学と哲学、

そして「誕生害悪論」を説くベネターら現代の分析哲学を取り上げ、徹底的に考察。

人間がこの世に生まれてくることは誤りであり、

生まれてこないようにしたほうがよいとする反出生主義を世界思想史の中に位置づけ、

その超克の道を探っていく。

 

☆感想☆

この本を手に取るきっかけになったのは、

たまたまパソコンで調べ物をしていた時、東京新聞の「東京すくすく」という読み物の中で

反出生主義を知ってますか?ある35歳の女性の告白

「生まれなかった方が幸せ。子供は持ちたくない」

(公開日2023年7月12日付 東京新聞朝刊)

という文面を見つけたことでした。

そして、すくすくボイスという掲示板に、反出生主義についてどう感じているか?

いろいろな人からの意見を聞くコーナーがあり

そこの掲示板を読んでいたら、あまりにも自分と同じ考えの人が多くてびっくりしたと同時に、

私がずっと心の中に持っていた、回りの人々との違和感の正体がわかった気がしました。

「生まれなかった方が幸せ」と考えざるを得ない生き辛さを抱えた人が

こんなにもたくさんいるんだと分かっただけでも、かなり私は救われました。

 

気が付いたらこの世に生まれていた..

生まれてしまったら生きていくしかないし、寿命がくるまで生きるしかない..

残りの人生、どうやって生きていったらいいのだろう?

そこで手に取ったのが「生まれてこないほうが良かったのか?」という本でした。

 

この本は哲学初心者の私でも、わかりやすく読めました。

ただ、結局私が求めている答えは見つかりませんでした。

 

文中P321より

私は「生きる意味」の問題を、「生まれてきたことの肯定」の問題へと変換して

哲学的に追及していくことを提案する。

 

最後のほうで、作者はこう言っています。なるほど..と思うけれど、全然答えになっていない..

東京すくすくの2023年9月13日付では、作者の森岡氏はこう言っています。

「既に生まれてきてしまっている人が、誕生否定的な考えを持ったまま死んでいくのはすごく残念。

有限の人生を生きようとする人が、残りの人生をどうしたらいいか考えるヒントや、

議論の下敷きにしてほしい」と期待すると書いてありました。

 

結局答えは自分で見つけるしかないし、あるいは答えなんてないのかもしれない..

探し続けることに意味があるのかないのか?

わからないけれど、いつか答えが見つかったらいいなあと思います。

 

この本でいちばん印象に残った文章を書き留めておきます。

誕生否定を高らかに謳った思想家のエミール・シオランの言葉です。

50歳半ばに、地中海のイビザの海岸で実際に自殺を試みようとするも

海に身を投げることをせず、そこに数時間とどまり、

すべては「非現実」であるという世界観に至ったとあります。

文中P46より

「日が昇る前から、美しい風景、道に茂るリュウゼツラン、波の音、そして空、

すべてのものが私には美しく思われ、自分の計画にはなかったもの、

いずれにしろ性急すぎるものと見えるほどだった。

もしすべてが非現実だとすれば、この風景もそうだ、と私は思った」。

 

これは生にも死にも現実性はないから、あえて自殺を試みる必要はなく

シオランの自殺念慮は消えていくことになります。

自分で死ぬという事を、世界の側から美しく拒絶され

生の領域へと連れ戻されてしまった...

 

私も経験があるんですが、たまにものすごく美しい夕焼けに出会うと

この世のものでない、非現実の世界に迷い込んだ気分になります。

実は私はもう死んでいるのかもしれないとか、ちょっと怖い気分になります。

そして自然の織りなす風景って、心を癒す力があるんだと思います。

考えてみれば人間も自然の一部なんですよね...

 

最近はあまり夕景写真を撮っていないので

去年の4月に撮ったきれいな夕焼けを一枚載せておきます✨

 



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