今にも雨が降ってきそうなホコ天の銀座。
銀座奥野ビルへ。
銀座奥野ビルは昭和7年(1932年)に竣工した銀座の残る貴重な近代建築のひとつ。
当初は銀座アパートという名前の高級アパート。今は事務所やギャラリーが入る。
306号室へ。
306号室は昭和7年のまま残る唯一の部屋。
ビルの竣工と同時に306号室に入居した須田芳子さんはここで美容室を開いた。
美容室は1980年代に廃業したものの、その後も須田さんは306号室に住み続け、平成21年(2009年)に100歳で大往生された。
銀座奥野ビル306号室プロジェクトは、この部屋の変化を惜しんだ有志が集まり立ち上げた非営利プロジェクト。
経年劣化に意図的介入はせずに、劣化を受け入れながら当時のまま維持していくことを試み、展覧会など様々に活用されている。
「押田美保陶展-都会の飛べない鳥たち-」。
会期は11月19日~11月24日。
押田氏は写真家なのであるが陶芸もされている。
コロナで家から出られなかったからいっぱい鳩作っていたの!
押田氏は高齢の母君と同居されているのだ。
というわけで、306号室は鳩だらけ。
しかも売る目的で作っていたわけでもなくただただひたすらに作っていたらしい。
疫病は人口の密集する都市で特に猛威をふるう。
この鳩たちはあまり住宅事情のよろしくない家に籠らざるを得なかった都市住民そのもの。
でもね。ストレス解消になったのよと押田氏は屈託ない。
確かにコロナ禍に突入したばかりの頃は様々に翻弄されたけど、いつの間にかウィズコロナ。
もうひとつ立ち寄った先では、洒落たビルの中庭にサギが飛来していた。こんなとこにサギと思っていたら、池の中に入って金魚に襲い掛かっていった。
真っ白なサギに真っ赤な金魚が飲み込まれる様はなんとも芳年の浮世絵のよう。
人に追い払われても追い払われてもしつこく居座るけど、その後はとれない。
いつの間にか金魚の方も全部隠れていた。
結局、一羽につき野口英世氏1枚とお志を募金箱に入れて二羽の鳩がウチに来た。
足は自分で付けてねとのこと。
そうだ。この鳩の餌も陶なんだよな。
さすがにこの餌は、アンタそんな一円にもならないことに情熱注いで馬鹿じゃないのとお母様は呆れていたという。
私も呆れた。
銀座奥野ビル306号プロジェクトの運営も非営利で一円にもならない。
でもきっとそこんとこがヒトとサギの違いな気もするのだった。