
ユジンとチンスクは、チェリンのブティックにいた。今日は出来上がったウエディングドレスを試着する日だった。チンスクが試着ブースのカーテンを開けると、マネキンに着せたられたウエディングドレスが姿を現した。


その時、チェリンのオフィスに誰かが入ってくる気配がした。それはミニョンだった。ミニョンはチェリンに会いに来たのだった。韓国を離れてアメリカに帰るために、別れの挨拶をしにやってきたのだ。ユジンはそんなことは知らずに、試着室のカーテンを開けてチンスクを呼んだ。すると、カーテンの隙間からミニョンの顔が見えた。ミニョンは珍しくスーツを着てネクタイまで閉めている。この前会ってから数日しかたっていないのに、その姿はまぶしくて、ユジンは目を見張った。
一方で、ミニョンもユジンのウエディングドレス姿に目を見張った。鎖骨や首元などデコルテの出たウエディングドレスは、ユジンの白い肌にぴったりで、上品さを際立たせていた。レースに縁どられたベールは顔をふんわりと覆っていて、その美しさに目を細めた。ああ、これが自分との結婚式だったらどんなにいいだろう、ミニョンはそう思いながら静かに会釈した。


ユジンは慌てた素振りで目をそらして、一歩出しかけた足をひっこめた。その拍子に白いヒールが倒れてしまい、あわてたユジンは何とか手繰り寄せようとする。すると、ミニョンが近づいてきて、そっと跪いてヒールをはかせてくれるのだった。ユジンはそのしぐさにドキッとした。遠い昔、学校の塀に靴を脱いでよじ登った時、やはり同じようにチュンサンが靴を履かせてくれたのを思い出していた。そして、慌ててその光景を頭から追い出した。やがてミニョンはゆっくりと立ち上がってユジンを見つめた。その表情はとても穏やかで、この前電話をかけてきたミニョンとは別人のようだった。二人は何も言わずに、しばらく見つめあった。
「ユジンさん、似合ってますよ。」
ミニョンは眩しそうな目をしてぽつりと言った。
「お久しぶりです。」
まるで、ミニョンに会うのがずいぶん久しぶりのような気がして、緊張して目を逸らしてしまった。
「そうですね。久しぶりです。」
ミニョンもまた、ユジンと会うのが久しぶりな気持ちになった。二人は見つめあっては目をそらし、見つめあっては困ったような表情で立ち尽くしていた。

その時、チンスクは、下の階で様々なティアラを試していた。まるで、お姫様になったような気分で、ユジンのことも忘れて、将来の自分を夢見ながら気分良く過ごしていた。

一方ミニョンとユジンは、近くのソファーに座って話始めた。二人ともぎこちなくうつむいている。
「ユジンさん、ひとつ質問してもいいですか?答えにくければ答えなくていいし、ただ聞きたいだけなんです。」
ユジンはミニョンをまっすぐに見つめて言った。
「どんな質問でも答えるので聞いてください」
「僕を好きだったのは、、、愛しているといったのは、僕がチュンサンに似ていたからですか?」
するとユジンはきっぱりといった。
「いいえ。チュンサンはチュンサンで、ミニョンさんはミニョンさんで、それぞれ別の人として好きでした。」

それを聞いてミニョンの目からはらりと涙がこぼれた。
「ユジンさんありがとう。」
それこそミニョンの聞きたかった答えだった。自分がミニョンとしてユジンに愛されたのなら、これ以上望むことはなかった。これで心置きなくアメリカに旅立つことだ出来る。ミニョンはうれしくて仕方がなかった。

その時、チンスクがティアラをもって飛び込んできた。チンスクは座って話をしている二人を見て驚いた。なぜミニョンがここにいて、サンヒョクより先にウエディング姿を見ているのかと。そして何よりも、二人が醸し出す切ない雰囲気と、スーツとウエディングドレス姿がぴったりなことにも驚いていた。まるで二人の結婚式のように感じてしまった。
「何の御用ですか?」
チンスクの声は知らず知らずのうちに尖ったものになっていた。
「こんにちは。チェリンに用があってきたんです。」
「チェリンなら出かけています。」
「連絡すればよかったです。」
すると、ユジンが立ち上がって聞いた。
「わざわざ挨拶なんて、何かあるんですか?」
ミニョンの様子がただならぬものに思えたのだった。しかし、ミニョンは穏やかな顔で言った。
「いいえ、すみません。ただあいさつしたかっただけなんです。それでは行きますね。」
そして一つ会釈をすると去っていった。しかし、思い出したように振り返り一言発した。

「結婚、おめでとう、、、」

その顔はとても切なそうだった。そして見送るユジンもまた目に涙を浮かべていた。そんな二人を見比べて、チンスクはとても困惑していた。ユジンはとてもサンヒョクと結婚する女性には見えなかったし、ミニョンも友の結婚をお祝いする友人には見えなかった。二人はまだ想いあっているのだ、チンスクは胸が押しつぶされそうだった。そして、そんなチンスクに見つめられたユジンは、慌てた様子で向こうに向いてしまうのだった。