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ミニョンとユジンが春川高校を訪れた日、マルシアンのキム次長は、ミニョンのことを探していた。最近のミニョンは、理事なのをいいことに、さっぱり会社に姿を見せなくなっている。しばらく前に、プライベートで何かあったようで、真っ青な顔をして会社を飛び出していったままだった。大方その件にはユジンが絡んでいるのだろうが、それにしても頭を抱える状況に違いはない。ミニョンのオフィスには、サインをしてもらわなければいけない書類が山と積まれている。キム次長はあきれたように、ミニョンの携帯を何度も鳴らした。受付嬢に
「理事から連絡はないの?全く失踪グセが付いて困ったもんだ」とぼやいていた。すると背後から急に
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「すみません。戻りました。」と声がした。振り向くと、珍しくきちんとスーツを着て、ピンクのネクタイをしたミニョンが立っていた。その顔は吹っ切れたように晴れやかで、穏やかに微笑んでいるのだった。
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二人はミニョンのオフィスに移動して話を始めた。ミニョンは山と積まれた書類を熱心に読んでいる。キム次長はあきれたように書類をデスクに投げて言った。
「まったく、辞表を出しかけたよ。ほんとに、、、連絡が付かないからずいぶん心配したんだぞ。」
「先輩、ほんとにすみません」
「お前は口先ばっかりだな。急に消えたと思ったら、スーツなんて着て来るなんて、どうしたんだよ?」
しかし、ミニョンは穏やかな顔で笑っている。
「なんだよ。にやにやして。俺に秘密でもあるのか?はいはい、秘密なら聞きません。」
キム次長はミニョンの顔を覗き込んだがあきらめて、窓から外の景色を眺めた。すると、ミニョンが書類から目を上げて言った。
「先輩、ドラゴンバレースキー場は完成間近ですか?あとは先輩に任せてもよいでしょうか。」
キム次長は驚いて振り返った。
「はっ?なんだって?」
ミニョンは穏やかに微笑んでいった。
「僕、アメリカに帰ります。」
キム次長はあきれたように天を仰いで、ため息をついて言った。
「はぁ?いつだよ?」
「できるだけ早くです。」
「おいっ、逃げるのか?ユジンさんのためとか?」
ミニョンの顔はどこまでも穏やかだった。
「そうじゃなくて、これが最善策だと思ったんです。」
そして、『イ・ミニョン』と印字された書類に、躊躇なく「イ・ミニョン」とサインをした。春川高校に行ったことで、自分はチュンサンだけれど、チュンサンの記憶は戻らないことにあきらめがついていた。イ・ミニョンはユジンが望むカン・ジュンサンにはなれないのだと、嫌というほど思い知ったのだった。
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そのころサンヒョクは、職場であるラジオ放送局で、先輩DJユヨルに結婚式招待状を渡していた。ユヨルは感慨深そうに言った。
「いやあ、ついに結婚式の招待状かぁ」
「来てくれますよね?」
「まあ、考えてみるよ」
「先輩、何でですか?」
サンヒョクは思わずユヨルを小突いた。
すると、ユヨルはにやにやしながら言った。
「だって、お前が幸せそうな顔をするのを見るのが悔しいじゃないか。」
しかし、ユヨルは、今までのサンヒョクの苦悩を知っていたので、自分のことのようにうれしそうな表情を見せるのだった。そして、ほかの職員たちも次々とサンヒョクに祝福の言葉をかけていくのだった。
その時、サンヒョクの携帯が鳴った。それはイ・ミニョンからの電話だった。スタジオに来ているというミニョンに会いに、サンヒョクは階段を下りていった。
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二人はスタジオの廊下の椅子で話をした。ここなら今の時間、誰も来ないとわかっていたからだ。久しぶりに二人きりで会うミニョンは、スーツを着て穏やかな表情をしていた。しばらくの沈黙が続いた後、ミニョンが口を開いた。
「僕、カンジュンサンをあきらめることにしました。」
サンヒョクはワケがわからずに、ミニョンを見つめた。すると、ミニョンは今度はサンヒョクをしっかりと見つめて言った。
「僕はイ・ミニョンなんです。今のままで十分だと気が付きました。イ・ミニョンとしてユジンさんを愛したんです。僕にはカンジュンサンの記憶がありません。だから、チュンサンとして彼女を愛することはできないんです。どちらにしても、僕は彼女をあきらめました。ユジンさんの幸せを願いながら生きていこうと思います。今更彼女を願ってもかなわない。これ以上あなたたちに迷惑はかけません。安心してください、、、僕はアメリカに立ちます。」
サンヒョクの顔には安どの色が浮かび、念押しするように尋ねた。
「今度はいつ戻ってくるんですか。」
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「もう戻りません。もともとイミニョンとしての記憶はすべてアメリカにあるんです。韓国に滞在したのも、自分のルーツの国を知りたかっただけですから。二度と戻らないでしょう。あなたがユジンさんのことで苦しんだのは、すべて僕の責任なんです。ユジンさんはあなたに誠実でした。もしチュンサンが戻っても、あなたを選ぶと僕にはっきり告げました。彼女を幸せにしてくださいね。」
そういうと、ミニョンはサンヒョクをじっと見つめた。サンヒョクもミニョンの目をまっすぐに見つめた。
「わかりました。ありがとうございます。彼女を幸せにします。」
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静かに席を立ち、去ってゆくミニョンに向かってサンヒョクが声をかけた。ミニョンが静かに振り向くと、サンヒョクは右手を差し出した。それにこたえて、ミニョンもサンヒョクの右手を、やさしく包み込んで握手をした。二人はもう一度、穏やかな表情で見つめった。
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「イミニョンさん、、、いや、カンジュンサン、、、、生きていてくれてありがとう。これは心からの言葉だ。」
「、、、、ありがとう」
そして今度こそ静かに去っていくのだった。同じ女性を愛した二人にしか分かち合えない瞬間だった。サンヒョクは、去っていく姿をいつまでも見つめていた。ミニョンと会って以来、はじめて心に平穏が訪れていた。