その日、チュンサンとユジンは昼休みの放送当番をしていた。2人は並んでチュンサンがかけたレコードを静かに聴いていた。
するとユジンがびっくりして、
「この曲、この前あなたが弾いてくれた曲ね。えっと、、、そう初めて❗️わたしこの曲が大好きよ」と言った。
自習時間をサボって南怡島に行ったあの日、ユジンはチュンサンがピアノを弾けないと思いこみ、昼休みに音楽のテストのために、ピアノの練習に誘った。母親がピアニストだから弾けないはずはないけれど、そんなことをユジンは知るはずもない。ユジンは課題曲のトロイメライをたどたどしく弾きはじめた。
「ユジナ、何してるの?」
チュンサンはポカンとした顔でユジンを見た。
「何って、この前助けてもらったお礼にピアノを教えてあげるの。借りは返す主義なのよ。」
ああ、酔っ払いに絡まれた件か、とチュンサンは納得した。ユジンはどうしてこんなに純粋で無垢なんだろう。捻くれている自分と全然違う。チュンサンはユジンが可愛くて仕方なかった。
ところが、ユジンも途中でメロディがわからなくなったらしく、あれっ?あれっ?と言いながら、
「忘れちゃった」
とバツが悪そうな顔をした。
するとチュンサンはそのあとのメロディをなんなく弾いてみせた。信じられないくらい上手だった。
「えっ?ピアノ弾けないって言ったじゃない」
「言ってない」
そう言ってチュンサンは静かに違う曲を弾きはじめた。心を揺さぶられるような儚く美しいメロディーだった。カーテンから差し込むほのかな光の中で、穏やかな表情でピアノを弾き続けるチュンサンに、ユジンは見惚れてしまった。鍵盤の上を滑る長い指や、端正な横顔、ユジンだけに見せる優しい眼差し、このメロディー、ずっと忘れたくない。わたしはカンジュンサンに恋をしているのだ、と感じた瞬間だった。
チュンサンがピアノを弾き終わると、ユジンは感嘆の眼差しをチュンサンに向けて、
「チュンサン、本当に上手いのね。なんて曲なの」
と聞いてきた。
「初めて」
ユジンに教えながら、チュンサンは思っていた。自分はユジンが大好きなのだと。そして、この曲は自分からユジンへのプレゼントだ。初めての恋。初恋。
「初めてかぁ」
嬉しそうに呟くユジンの姿を見ながら、ユジンと沢山の初めてを経験出来ますように、とチュンサンは考えていた。そして、そのあとチュンサンとユジンは午後の授業をさぼって、南怡島島へ出かけたのだった。
ユジンが先日のことを思い出していると、隣で
チュンサンが
「レコードあげようか?」と問いかけた。
「ううん、いいわ。わたしはレコードで聴くよりも、あなたが弾いてくれるほうがいいもの。わたしね、ピアノを弾いてもらったのも、授業をサボったのも、一緒に塀を乗り越えたのも、手を握ったのも、それから自転車に乗ったのも、全部初めてだったの、、、」
ユジンはそう言いながらだんだん恥ずかしそうになってきて、顔だけでなくうなじまで真っ赤になってしまった。
チュンサンはそんなユジンが可愛くて愛おしくてたまらなくなった。そういえば、きちんと気持ちも伝えてなければ、デートもしたことがない。学校をサボって湖に行ったのがデートかもしれないけれど、、、。
「ユジナ、今度の土曜日に映画に行かない?僕もこんなことを言うの初めて」
とニッコリ笑った。チュンサンの顔は晴れやかだった。