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サンヒョクはユジンをアパートに送るために車を運転していた。
「今日はお父さんの誕生日だろ?」
「うん、だけど死んだ人の誕生日なんてめでたくないでしょう?だから言わなかったの。でも、お義母さんがお土産までくれたから嬉しかったわ。」
「明日、仕事帰りに一緒に行こう。」
「分かったわ。」
二人は、春川にあるユジンの父親のヒョンスのお墓参りに行くつもりでいた。ユジンは毎年、亡くなったヒョンスの墓を誕生日に訪れていた。今年はサンヒョクが墓前に結婚報告をすると張り切っていたのだ。
そのとき、ユジンの携帯が鳴った。
「ユジン、あたしよ。今どこ?」
それはポラリスの同僚のチョンアからだった。
今、行きつけのバーでキム次長と飲んでいるが、明日ドラゴンバレーのスキー場に帰るから、今から一緒に飲もうという誘いだった。しかし、ユジンはサンヒョクに遠慮して断った。チョンアは、イミニョン理事はいないから、と強引に誘ってきたが、ユジンは頑なに断り続けて電話を切った。
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チョンアとキム次長は二人きりで飲んでいて、少し退屈していた。二人はプロジェクトメンバーとして、友人として、良い関係を築いていたものの、ミニョンとユジンと四人で和気藹々とリノベーションしていた頃が、懐かしくてたまらなかったのだ。本当は久しぶりにユジンの顔を見て、楽しくやりたかったが、当てが外れてしまった。ミニョンも最近めっきりと付き合いが悪いし、会っても沈み込んだままだ。
「あーあ、振られちゃった」
「また二人きりかぁ」
『勘弁してよ』
二人は声が揃って、ギョッとして顔を見合わせた。お互いにどんどん似てきている気がする、、、。二人は諦めたように笑って言った。
「仕方ない、あわれな理事でも呼ぶとするか」
キム次長は電話をかけはじめるのだった。
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そのころ車の中で、サンヒョクはユジンに飲みに行くようにすすめていた。
「せっかくだから行けば?」
「やめておく。疲れたもの。」
「ふーん、チョンアさん、誰と飲んでるって?」
「キム次長よ。覚えてるでしょう?二人は仲良しなの。」
「、、、イミニョンさんもいるの?」
「、、、ううん、いないって」
それを聞いたサンヒョクは車を方向転換させた。
「何?どうしたの?」
「二人で顔を出そう。チョンアさんに会いたくなったから。」
ユジンはサンヒョクの横顔をじっと見つめていた。また飲みに行くことを一人で決めている。最近いつも一人で何でも決めていく。いったいどんな考えで車を走らせているのだろう。ユジンはサンヒョクの横顔を、不安な思いで見つめ続けるしかなかった。
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そのころ、チョンアとキム次長はだいぶ出来上がって、愚痴合戦になっていた。そこにミニョンが足早にやってきた。
「理事、早かったですね。暇で寂しいんですか。ユジンさんがいなくて不満でしょう?」
「その冗談は笑えないです。」
ミニョンは苦笑して言った。
「冗談じゃなくて、本当に呼びますよ。チョンアさん、ほら二人で天の川の橋になりましょう。」
「はぁ?この前は侍女呼ばわりで今度は天の川の橋?いったいわたしは何なんですか?!」
「ごめん、ごめん。失言だったよ。」
3人は笑いながら乾杯をした。ミニョンも久しぶりに笑顔を浮かべて楽しそうだった。
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そのころサンヒョクとユジンはバーの前に車を止めて、店に向かって歩き出した。サンヒョクはユジンの手を絡み付けるように握って離さない。サンヒョクにしてみれば、ミニョンとユジンの恋愛をつぶさに間近で見ていた二人の前で、結婚の挨拶を宣言したかったのだった。ユジンは意思のない人形のように、グラグラと引っ張られながら、バーへと入って行った。そんな二人の前にあらわれたのは、楽しそうに笑いながら飲んでいるキム次長とチョンアとイミニョン理事だった。サンヒョクの顔は見る間に真っ青になり凍りつき、そんなサンヒョクを見るユジンも困惑して固まってしまった。
二人の強い視線を感じて、3人もこちらを振り向いた。どの顔にも驚きと気まずさの表情が浮かんでいる。
「ユジン、来たの?」
「俺たちは騙してないからな。本当に理事はいなかったんだよ。」
チョンアもキム次長も慌てている。
ミニョンだけが何事もないふうを装って、にこやかに挨拶をした。そしてサンヒョクを見て、次にユジンをまぶしそうに見て、最後に二人の繋がれた手に視線を落としてから目を逸らした。ユジンも動揺してしまい、俯くしかなかった。
「ユジンも、サンヒョクも久しぶりねー。」
「おいっ、来るなら来ると言ってくれよ。びっくりしたじゃないか。」
サンヒョクが落ち着いて答えた。
「僕が行こうって言ったんです。」
「なるほど、そう言うことか、、、」
チョンアとキム次長はユジンの意思ではないのだと納得してつぶやいた。
すると、おもむろにミニョンが立ち上がった。
「僕、失礼します。チョンアさんたちに挨拶したかっただけなので。」
「なんだよ、もう帰るのか?何でだよ?」
キム次長はなんとか間を取り繕おうとしている。しかし、サンヒョクが対抗するように口を挟んだ。
「居心地が悪いなら僕たちが帰りますからご心配なく。」そう言うとユジンの肩を抱いてサンヒョクは歩き出した。ユジンはちらりとミニョンを見上げた。そして一礼するとひっぱられるように、足早に去って行くのだった。
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「どうして意図せずにややこしい話になるんだろう。」
残されたチョンアとキム次長は頭を抱えていた。二人とも楽しい気分は吹き飛んで、すっかり酔いが醒めてしまった様子だった。そしてミニョンは呆然として、ユジンが消えて行った入り口をいつまでも見つめ続けるのだった。