ミニョンはチェリンと別れて、夜の街を当てもなく歩いていた。無数に建っているビルの明かりや人波の中で、果てしない孤独を感じていた。悲しくて悲しくて、寂しくて寂しくてたまらなかった。自分が誰ともつながっておらず、世界中で一人きりのような気分になっていた。今会いたいのはただ一人だけ。ミニョンはいつのまにか、ユジンのアパートの前に来ていた。きっと電話して会いたいと言っても、ユジンは会ってくれないだろうが、一目ユジンを見るだけでも構わない、と思っていた。ミニョンは気がつくとユジンのアパートの前に立っていた。三階の部屋をじっと見つめてため息をついた。
そのころ、部屋でサンヒョクとユジンは話をしていた。サンヒョクはチンスクが帰るまで、と言いながら、名残り惜しそうにグスグスと話をしていた。
「サンヒョク、明日早いでしょう。もう帰っていいわよ。」
ユジンは優しくサンヒョクに話した。するとサンヒョクがユジンの胸元に目を止めた。
ゆっくりと手を伸ばして、ミニョンにもらったポラリスのネックレスに触れる。
「ユジン、あんまりアクセサリーを身につけないのに珍しいな。自分で買ったの?」
「ああ、これ?」
「とってもかわいい。似合ってるよ。」
「、、、ありがとう。」
ユジンは慌ててネックレスをシャツの中に閉まった。そして、サンヒョクを送るためにそそくさと部屋を出て行ってしまった。
ユジンはサンヒョクを送るために外に出て車の前までやってきた。
「サンヒョク、どうして薄着なの?風邪ひいちゃうわよ。」
ユジンはサンヒョクのジャケットの前を掻き合わせた。
「心が温かいから大丈夫。」
サンヒョクは笑顔で胸に手を当てて、おどけてみせた。
「もうっ、本当に風邪をひいたら怒るからね。」
ユジンが頬を膨らませて口を尖らせてみせると、サンヒョクはユジンを抱き寄せた。ユジンは諦めたように成すがままにじっとしていた。
そんな二人の様子を、木の影からそっと覗いている人物がいた。ミニョンだった。ミニョンはサンヒョクに抱きしめられているユジンを見て、深いため息をついた。本当は誰にも触れさせたくない、抱きしめさせたくない、と叫び出したかったが、それは叶わずに見つめるしかなかった。やがて、サンヒョクが名残り惜しそうに身体を離すと、ミニョンは安堵してもうひとつため息をついた。
どういう形でも、ユジンを一眼見ることが出来て、元気なことを確認出来て、心が温かくなり、笑みが溢れるのを止める事が出来なかった。一方で、車で去っていくサンヒョクを見送るユジンの顔からは笑顔が消え去っていた。ただ悲しげな眼差しでぼんやりと立っている。前で掻き合わされた腕が所在なさげに自分自身を抱きしめている。
やがて、ミニョンの視線に気がついたかのように、キョロキョロと周りを見回した。ミニョンは急いで木の影に隠れた。すると、ユジンは名残り惜しそうにゆっくりと前を向いて、階段を上がっていくのだった。そのか細い後ろ姿が、とても寂しげだった。ミニョンはそんなユジンの後ろ姿をいつまでも見送っていた。