一方チュンサンは、ユジンの家のアルバムに自分が持っているのと同じ写真を見つけた。自分のは右半分が破られていたが、この写真は右半分に母親とユジンの父親が腕を組んで写っている。母親はわざと半分破ったのだろうか。
2人は恋人?だとしたらあんなに母親が言い渋る父親はユジンの父親なのだろうか?
チュンサンは激しく動揺した。僕とユジンは異母兄妹なのだろうか?だとしたら2人は愛し合うことはできない。こんなに愛しい人なのに、2度と触れたり抱きしめたりしてはいけないのだろうか。
もうユジンの顔を見ることも出来ずに、挨拶もせずに家を飛び出した。
チュンサンは初めて母親を強く憎んだ。父親を与えてくれなかっただけでなく、最愛の人まで奪っていくなんて。学校に行くこともできず、数日間家の中にこもり、じっと考えていた。サンヒョクの父親が自分の父親だと思い込んでいた自分の愚かさを呪った。人生はなんて酷いんだろう。神様はいるのだろうか。
そして、考えぬいたあげく、全てを忘れるために母親に大晦日にアメリカに行くと告げた。ユジンのためにも自分のためにも全て忘れなければ、、、。僕らは絶対に結ばれてはいけない運命なのだから。
分かってはいても、涙は後から後から溢れ出した。暗闇の中、膝をかかえて一人で泣き続けるしかなかった。
ユジンは数日間欠席しているチュンサンが心配で、宿題を持ってチュンサンの家を訪ねた。最後に居なくなったとき、ヒジンがチュンサンお兄ちゃんは、真っ青な顔をして飛び出して行ったと言っていた。具合が悪いのかもしれない。
その後、何度チュンサンに電話しても、受話器が取られることはなかった。
手に途中で買ったリンゴの袋を下げてチャイムを押しても出てくる気配はない。
扉をそっと押すと、鍵はかかっておらず、すんなりと中に入ることができた。
「お邪魔します」
小さな声で呼びかけて、そっとチュンサンの部屋に向かった。今日もこのうちは静まり帰っていて、外の雨音しかしない。ユジンは小さく身震いをした。なんて寂しい家なんだろう。
チュンサンの部屋にそっと入ると、そこは真っ暗で、はじめは何があるのか見えなかった。しかし、暗闇に目がなれるとぐちゃぐちゃになったベッドの中にチュンサンが胎児のように丸まっているのが見えた。
「チュンサン、大丈夫?」
ユジンはチュンサンを驚かせないように、そっと呼びかけて近づいた。チュンサンはビクッとして、丸まった布団の中にもぐりこんだ。
ユジンはさらに近づいてベッドの横に座って、布団の上から優しくチュンサンを撫でていた。優しく優しく、壊さないように。
するとチュンサンが少し顔を出した。
目は泣き腫らしており、髪の毛はボサボサで、身体からは汗の匂いがする。もう何日もこの格好でいたようだ。
「ユジナ、、、体調が悪いんだ。帰って」
チュンサンは力なく話した。
ユジンはその姿に衝撃を受けてしまい、しばらく呆然としていたが、ベッドの上に上がって、チュンサンの身体をそっと抱いた。
「チュンサン、ずいぶん心配したのよ。会いたかった。」
その声を聞くと、チュンサンは声を押し殺すようにして泣き出した。それは心の奥から湧き上がる魂の叫びのような切ない泣き方だった。
ユジンはわけが分からなかったけれど、とにかく怖くて、必死でチュンサンを布団ごと抱きしめた。そうしないと彼が壊れてしまいそうだったから。
突然チュンサンが布団を剥いで、ユジンをギュッと抱きしめた。ユジンはチュンサンの汗の匂いにまじるむせるような男性の匂いと、腕の力の強さに驚きと怖さでいっぱいだった。
「チュンサン、ねぇ、大丈夫?どうしたの?」
少し身体を離すと、チュンサンの真っ暗な瞳は狂気の光が宿っていた。
ユジンは何も言えなくなってしまい、チュンサンの背中を優しくさすりながら
「大丈夫、大丈夫だから」
と子守唄のように言い続けた。今何か余計なことを言ったら、チュンサンは死んでしまうかもしれないと本気で思うくらい、その様子はただ事ではなかった。
チュンサンはしばらくすると、何もかも受け入れるような真っ直ぐな目で、自分を見つめているユジンを見てハッとした。そして、ユジンの身体を、そっと離して言った。
「ユジナ、ごめん。本当にごめん。」
「ううん、いいのよ。」
やがてチュンサンが落ち着くのを見計らって、ユジンは
「お腹が空いちゃったわ。何か食べましょう。」
と言った。そして何ごともなかったかのように台所でお粥を作ってチュンサンに食べさせた。りんごと温かいお茶も用意した。
チュンサンはむさぼるように食事をして、やっと平静を取り戻した。
「チュンサン、何があったか知らないけど、話したくなったら話してね。ん?分かった?」
チュンサンは黙ってそれを聞いていた。許されないことでも、今だけでもユジンの温もりを感じていたい、と切実に思った。
「ねぇ、チュンサン。大晦日までには元気になって、一緒に年越しの花火を見ましょうね」
返事がないので、そっとチュンサンを見ると穏やかな顔をしてスヤスヤと寝ている。何に悩んで泣き疲れたのだろう、かわいそうでたまらなかった。ユジンは彼の髪の毛を優しく撫でたあと、布団をきちんとかけて、眠るチュンサンの額にそっとキスをして、扉を閉めた。
これが最後の別れとも知らず、ドアは小さな音を立てて閉まった。