何度もホームページを見ていて初めて行く、その歯科医院のドアを開けて入った。
虫歯の詰め物の治療が目的だが、歯科医院に初めて入る時はいつものようにワクワクする。
歯科医院に限らない。内科でも他の科でも、診療所でも病院でも、初めて行く医療機関は決まってワクワクするような気分に包まれる。
もちろん緊張感もあるし、痛い思いをするのは嫌だとか、理想的な医療機関ではなく、とんでもない医院や病院かもという不安もちょっぴりある。
けれどワクワク感のほうが強いのは、言ってみれば、好奇心のせいかもしれない。
ドアを開けた私を見て、受付の席に座っていた中高年女性が、「こんにちは」と感じの良い口調で声をかけてきた。
「こんにちは」と、私も明るく言って受付のカウンターに歩み寄る。
「初診です。予約はしてないんですけど」
「えーと、この後3時から予約が入っていて……」
「あ、じゃ」
ホームページからネット予約は可能だったが、初めて行く歯科医院も美容院も〈予約〉が嫌いなため、すませていない。もし予約でいっぱいなら、もう1軒その近くの歯科医院に行こうと決めていた。
けれど歯科助手の女性が、「ちょっと先生に聞いて来ます」と言って、治療中の歯科器具の音がしている診察室へ行き、間もなく戻って来た。
「大丈夫です。これに記入して下さい」
と、紙と台紙とボールペンをカウンターの上に置いた。
名前や住所などの個人情報を記入し、受診の目的にチェックを入れて、受付へ。
他に患者の姿はないが、予約制だからかもしれない。予約なしの患者がいないのは、大雨の日だからかもしれない。または歯科医院の数が多い地域だからかもしれない。
などと考えながら、5分ぐらいだろうか、思ったより早く診察室へ呼ばれた。
すると、すぐに治療台へ上がるのではなく、歯科助手女性から部屋の隅に案内され、小さなテーブルと椅子が2つあるコーナーで少し待つようにと言われたので、椅子に腰を下ろした。
前の患者の治療が終わって、カルテとか請求書とか、私の保険証と診察申込書に医師が眼を通す時間と想像されたが、待合室より少し長めで10分くらい待った。
そのコーナーの壁に、歯科医師の所属の歯科医師会とか団体とか専門医や認定医の証明書とか肩書きなどが書かれたポスターが貼ってある。
私の経験ではそのようなポスターが待合室に貼ってある歯科医院は、3軒に1軒ぐらいだろうか。それを見ると、何か誇らしげな印象をちょっぴり受けてしまうが、以前、歯科医院の選び方という記事を読んだ時、そういう医院は避けたほうがいいということだった。私は特に避けた経験はないが、その日の私は、ある本を読んでいたせいで、そうしたい歯科医師の心理が想像された。
転居後の本の整理は、本棚に本を並べていく作業だけではなく、あと1度だけ読んで捨てるということだった。不要な本の整理は転居前にダンボール6コを2回、合計12箱を中古本店に送って売った。現在は本棚に入りきれない本の断捨離である。海外のドキュメンタリーや刑事コロンボ・シリーズなど、あと1回読んでは捨てることを繰り返している。その中の1冊が『わたしは悪い歯医者』で、著者は現役の歯科医師。その本が、あと1度読んだら捨てる本に積み重ねてあって、
(ちょうどいいわ、歯科医院に行くから、これ読もうっと)
と、眼にしたタイトルを見て手に取ったのである。
買って読んだのが15年か20年ぐらい前だったが、面白く読んだという記憶があった。もう1度読んだら捨てるから1冊減ると思ったりもした。
2度目に読んでみたら――。
(そういうことだったのね)
今まで謎だったことが、溶けたり、納得したり、理解できたりして、面白くもあり、一気に読んだ。
謎というのはいくつかあって、たとえば、〈医師等資格確認検索〉という厚労省のサイトで検索したことが何度かあるが、最初のページに、
――医師、歯科医師の資格を確認することができます。――
と書かれていて、
職種 医師 歯科医師
性別 男性 女性
氏名
と表示された欄に、選択してチェックを入れたり、医師名を入力したりして検索ボタンをクリックすると、次ページに、
――〈検索結果 1件(備考に*がある場合は詳細表示があります)〉――
――番号 職種 氏名 性別 登録年 備考――
それらが表示されるのである。私がこのサイトを利用するのは、医師資格が間違いなくあるかどうかではなく、医師になって何年ぐらいのベテランかを知りたいためである。
そのページを見るたび、
(職種が、医師と歯科医師に分かれてるって、どういうこと?)
(歯科医師も医師なのに、わざわざ分けてあるなら、内科とか眼科とか耳鼻科とか外科とか分けてないのは、どうして?)
(医師と歯科医師は違うのかしら、どう違うわけ?)
と、謎だった。歯科医師の数が多く、同姓同名も少なくないということだろうかなどと思ったり、
(歯科医師と、内科医師や整形外科医師って、雰囲気がどこか違う感じ)
などと思ったり、
(歯科医師は内科医師などに対してコンプレックスがあるような気がする)
などと思ったり、
(歯科医師ではない医師は歯科医師を見下(くだ)してるみたいに想像される)
(口コミを読んだり人の話を聞いたりすると、たいていの人は歯科医師を軽く見ているみたいな感じを受ける)
(内科の医師のほうが患者から尊敬されてるみたいな感じもするし……)
それらの謎や疑問が、その本を読んだら、溶けたり納得できたりしたのである。
(そういうことだったのね!)
内科などの医師と歯科医師はスタートの時点での相違があったのだ。親が歯科医師で後継者になるという人を除き、最初は大半の歯科医師は歯科医師ではない医師を志望していたらしい。けれど学力、学業成績によって、歯科医師になる選択をしたということらしい。
私はずっと、歯科医師になるような学生は、歯科というジャンルに興味を持ち、歯のトラブルをかかえる患者を救いたいという目標があったと想像していた、その医師の目標を持つスタート時点ということである。
(そう言えば……)
と、思い当たることがあったり、
(そういうことだったのね)
という言葉を、その本を読みながら、何度繰り返したかわからない。
私が〈医師等資格確認検索〉という厚労省のサイトを知ったのは、その本を読んでしばらく経っていたので、気がつかなかったのだ。
(内科とか整形外科の医師と、歯科医師は、やっぱり雰囲気が少し違うのは、そのせいだったのかも……)
読み終えた後、いろいろ興味深く面白い本だったので、捨てるのがちょっと惜しくなった。 〔続く〕
虫歯の詰め物の治療が目的だが、歯科医院に初めて入る時はいつものようにワクワクする。
歯科医院に限らない。内科でも他の科でも、診療所でも病院でも、初めて行く医療機関は決まってワクワクするような気分に包まれる。
もちろん緊張感もあるし、痛い思いをするのは嫌だとか、理想的な医療機関ではなく、とんでもない医院や病院かもという不安もちょっぴりある。
けれどワクワク感のほうが強いのは、言ってみれば、好奇心のせいかもしれない。
ドアを開けた私を見て、受付の席に座っていた中高年女性が、「こんにちは」と感じの良い口調で声をかけてきた。
「こんにちは」と、私も明るく言って受付のカウンターに歩み寄る。
「初診です。予約はしてないんですけど」
「えーと、この後3時から予約が入っていて……」
「あ、じゃ」
ホームページからネット予約は可能だったが、初めて行く歯科医院も美容院も〈予約〉が嫌いなため、すませていない。もし予約でいっぱいなら、もう1軒その近くの歯科医院に行こうと決めていた。
けれど歯科助手の女性が、「ちょっと先生に聞いて来ます」と言って、治療中の歯科器具の音がしている診察室へ行き、間もなく戻って来た。
「大丈夫です。これに記入して下さい」
と、紙と台紙とボールペンをカウンターの上に置いた。
名前や住所などの個人情報を記入し、受診の目的にチェックを入れて、受付へ。
他に患者の姿はないが、予約制だからかもしれない。予約なしの患者がいないのは、大雨の日だからかもしれない。または歯科医院の数が多い地域だからかもしれない。
などと考えながら、5分ぐらいだろうか、思ったより早く診察室へ呼ばれた。
すると、すぐに治療台へ上がるのではなく、歯科助手女性から部屋の隅に案内され、小さなテーブルと椅子が2つあるコーナーで少し待つようにと言われたので、椅子に腰を下ろした。
前の患者の治療が終わって、カルテとか請求書とか、私の保険証と診察申込書に医師が眼を通す時間と想像されたが、待合室より少し長めで10分くらい待った。
そのコーナーの壁に、歯科医師の所属の歯科医師会とか団体とか専門医や認定医の証明書とか肩書きなどが書かれたポスターが貼ってある。
私の経験ではそのようなポスターが待合室に貼ってある歯科医院は、3軒に1軒ぐらいだろうか。それを見ると、何か誇らしげな印象をちょっぴり受けてしまうが、以前、歯科医院の選び方という記事を読んだ時、そういう医院は避けたほうがいいということだった。私は特に避けた経験はないが、その日の私は、ある本を読んでいたせいで、そうしたい歯科医師の心理が想像された。
転居後の本の整理は、本棚に本を並べていく作業だけではなく、あと1度だけ読んで捨てるということだった。不要な本の整理は転居前にダンボール6コを2回、合計12箱を中古本店に送って売った。現在は本棚に入りきれない本の断捨離である。海外のドキュメンタリーや刑事コロンボ・シリーズなど、あと1回読んでは捨てることを繰り返している。その中の1冊が『わたしは悪い歯医者』で、著者は現役の歯科医師。その本が、あと1度読んだら捨てる本に積み重ねてあって、
(ちょうどいいわ、歯科医院に行くから、これ読もうっと)
と、眼にしたタイトルを見て手に取ったのである。
買って読んだのが15年か20年ぐらい前だったが、面白く読んだという記憶があった。もう1度読んだら捨てるから1冊減ると思ったりもした。
2度目に読んでみたら――。
(そういうことだったのね)
今まで謎だったことが、溶けたり、納得したり、理解できたりして、面白くもあり、一気に読んだ。
謎というのはいくつかあって、たとえば、〈医師等資格確認検索〉という厚労省のサイトで検索したことが何度かあるが、最初のページに、
――医師、歯科医師の資格を確認することができます。――
と書かれていて、
職種 医師 歯科医師
性別 男性 女性
氏名
と表示された欄に、選択してチェックを入れたり、医師名を入力したりして検索ボタンをクリックすると、次ページに、
――〈検索結果 1件(備考に*がある場合は詳細表示があります)〉――
――番号 職種 氏名 性別 登録年 備考――
それらが表示されるのである。私がこのサイトを利用するのは、医師資格が間違いなくあるかどうかではなく、医師になって何年ぐらいのベテランかを知りたいためである。
そのページを見るたび、
(職種が、医師と歯科医師に分かれてるって、どういうこと?)
(歯科医師も医師なのに、わざわざ分けてあるなら、内科とか眼科とか耳鼻科とか外科とか分けてないのは、どうして?)
(医師と歯科医師は違うのかしら、どう違うわけ?)
と、謎だった。歯科医師の数が多く、同姓同名も少なくないということだろうかなどと思ったり、
(歯科医師と、内科医師や整形外科医師って、雰囲気がどこか違う感じ)
などと思ったり、
(歯科医師は内科医師などに対してコンプレックスがあるような気がする)
などと思ったり、
(歯科医師ではない医師は歯科医師を見下(くだ)してるみたいに想像される)
(口コミを読んだり人の話を聞いたりすると、たいていの人は歯科医師を軽く見ているみたいな感じを受ける)
(内科の医師のほうが患者から尊敬されてるみたいな感じもするし……)
それらの謎や疑問が、その本を読んだら、溶けたり納得できたりしたのである。
(そういうことだったのね!)
内科などの医師と歯科医師はスタートの時点での相違があったのだ。親が歯科医師で後継者になるという人を除き、最初は大半の歯科医師は歯科医師ではない医師を志望していたらしい。けれど学力、学業成績によって、歯科医師になる選択をしたということらしい。
私はずっと、歯科医師になるような学生は、歯科というジャンルに興味を持ち、歯のトラブルをかかえる患者を救いたいという目標があったと想像していた、その医師の目標を持つスタート時点ということである。
(そう言えば……)
と、思い当たることがあったり、
(そういうことだったのね)
という言葉を、その本を読みながら、何度繰り返したかわからない。
私が〈医師等資格確認検索〉という厚労省のサイトを知ったのは、その本を読んでしばらく経っていたので、気がつかなかったのだ。
(内科とか整形外科の医師と、歯科医師は、やっぱり雰囲気が少し違うのは、そのせいだったのかも……)
読み終えた後、いろいろ興味深く面白い本だったので、捨てるのがちょっと惜しくなった。 〔続く〕