2009-11-19
アフカへ
ドームになかった
不思議な素敵な世界
私を待っていたような(ワクワク…)
だれかが待っているような(ドキドキ…)
出会いの予感…
アフカに広がる
緑と灰色の大地
ここで何が待ってるの?(ワクワク…)
どんなことが起きるのかな?(ドキドキ…)
意外な予感…
1.出迎えた人達
エア・ボートの窓から眺めたアフカは、自然の宝庫だった。
大きな川と森、はげ山と砂漠が交互に現れ、草原には3D動画で見たことのある動物が群れをなして移動していた。
ドームは、ポツンポツンと離れた所に建ち、周囲には緑が広がっていた。
アフカでは、マスクが離せないと思っていたキラシャだったが、パールはつけなくてもいいと言うので、キラシャもマスクをはずして、エア・ボートから降りた。
アフカは、暑い!
暑さ対策のため、クール・スーツ(冷たい水分を含んだ生地で作られた服)を身に着けたキラシャは、オパールおばさんの車椅子の後ろをパールと手をつないで移動した。
キラシャは、思いっきり空気を吸って、ハーッとはいてみた。
『ドームの空気と、ゼ~ンゼン空気がちがう…。
熱いけど、地球と一緒に生きてるって感じだね~
どうして大人は戦争なンかして、
こんな素敵な自然を壊しちゃうンだろう…? 』
エア・ポートでは、いろんな人種が行き交い、武装した軍人が所々で見張りをしていて、物々しい雰囲気だったが、キラシャは前方に知ってる人を見つけて、ビックリした。
海洋牧場で出会ったおじさんだ。
パールとキラシャは、周りを気にしながら、小走りでおじさんの所へかけよった。
「おじさん、こんにちは! ここで会えると思ってなかったから、うれしいよ!」
「ワタシモ!」
「元気だったかい? おじさんも、君達に会えるのを楽しみにしてたんだ」
おじさんは、あの時と同じようにMFiエリアの言葉で話しかけてきた。
それから、車椅子で近づいて来たオパールおばさんに向かって
「はじめまして、私は、デビッドと言います。よろしく…」と言ってお辞儀をした。
オパールおばさんは頬を赤らめながら、会釈して言った。
「こちらこそ、よろしく…。
パールから、アフカの戦争を止めるために努力された、すばらしい方とお聞きしています。
お会いできたことを光栄に思います…」
デビッドおじさんは、マシン人間らしく無表情ではあったが、
「あなたもずいぶんご苦労されたことでしょう。
そのお言葉を聞いて、今までの苦労が、報われたような気がします」と答えた。
そして、そばにいる色あざやかな民族服を着た男性を振り返り、パールと同じ民族の青年リーダーのひとりだと、3人に紹介した。
その男性は、軽く会釈をして、
「カール デス。ヨロシク」とMFiの言葉であいさつした。
それから、地元の言葉で、「長老からパールとお友達を出迎えるよう言われてきました。これから、私が運転して案内します」と言っていたようだ。
キラシャには、カールという名前以外、何もわからなかったが、パールがその男性に失礼にならないよう、後で「カレ コウイッテタヨ」と、説明してくれた。
どうやら、パールの家族は来てないようだ。
パールは、「マダ カゾクニ アウノ チョット コワカッタ」とキラシャに言った。
デビッドおじさんが、ひょっとしてリォンおじさんかもしれないと思っていたキラシャ。
2人の様子では、そうではなさそうだとわかって、少し残念な気がした。
エリアへ滞在する手続きと検査と、Ⅿフォンの設定の変更が終わると、パールの民族の人達にと、預かったたくさんの贈り物と、自分達の荷物も無事に受け取った。
エア・ポートから、眩しい光の差す外へ出た。
アフカ・エリアでの交通手段は、空中にも飛び上がる自動車、エア・カーだ。
アフカは広い大陸だが、戦争が始まると、道路や橋がすぐに壊されてしまう。
だから、道の邪魔になる石が山積している所や、橋の壊れた大きな川を渡る時は、空中移動できるエア・カーを使うことが多い。
しかし、いつ戦闘状態になって攻撃されるかわからないので、Mフォンのアプリで危険を知らせる音とメッセージが出る区間では、エア・カーでの移動が禁止されている。
エア・ポートの前には、乗客を待つエア・カーのタクシーが、たくさん止まっていた。
太陽の光に恵まれているアフカ・エリアでは、エネルギーの供給に、ソーラー・システムを利用している所が多い。
MFiエリアからアフカ・エリアへ、ソーラー・システムでエコ・ライフを送れるように、充電・送電設備などの技術支援と、エア・カーや家電製品の輸出も行っている。
ところが、エネルギー資源を分配する段階で、民族の間に争いが起こり、相手への送電の邪魔をする民族もいる。
それが、発端で戦争へとつながってしまうのだが、未来でも、多くの人が、不便だけでなく、武器による破壊の恐怖に苦しめられる毎日を送らねばならない。
キラシャは、前方に止まっている大型エア・カーのそばで、こっちを見ている男の子2人に気がついた。
『アフカで誰かに出会うような気がしたンだけど、
ひょっとしてこいつらだったのかな…? 』
キラシャの視線に気づいた2人は、あわててエア・カーの後ろに隠れたが、デビッドおじさんが大笑いしながら、声をかけた。
「男なら、堂々と出て来なさい! 」
ひょこりと顔を出したのは、ケンとマイクだ。
「女の子2人で来ることが、ずいぶん心配だったらしいね。
ひとつ前の便で先について、待ってたんだよ。
ほら、危ないから、車の中に入っていなさいと言っただろう。
怖い連中は、現れなかったのかい?
ちゃんとごあいさつしなさい」
「こんにちは…」「コニチーワ…」
「アレ? ジョンはどうしたの? あんた達だけ…?」
キラシャは、皮肉っぽく2人にたずねた。
吹き出る汗をぬぐいながら、真っ赤な顔をしたケンが言った。
「ジョンは、エリアのアニメ映画展に出品するから、休暇は忙しいらしいよ。
一応、誘ったけど、パールが帰って来るの、待ってるって!」
「あたしは、パールに誘われて来たンだよ!
別にアンタ達に用心棒なんて、頼ンでないからね。
来るンだったら、最初から言ってくれればいいのに…」
デビッドおじさんとカールが、荷物をエア・カーの後ろに押し込み、キラシャとパールと、車いすから降ろされたオパールおばさんを真ん中の席へ乗せた。
運転するカールとデビッドおじさんは前の席へ、ケンとマイクは後ろの席に乗り込んだ。
出発した車の中で、マイクが何のためにアフカへ来たのかを話し始めた。
「ボク パパト イッショ。
パパ アフカデ ショクブツノ ケンキュウ スルッテ! 」
マイクの話を要約すると、マイクの父親は植物学者なので、これからアフカにあるラボに移って、仕事をするそうだ。でも、それはマイクの転校を意味していた。
「ウソ~、マイクこっちに移っちゃうの?
サリーとエミリにちゃんと言ったの?
先生も何も言わなかったよ。
いつ、転校するの?」
「マダ ワカラナイ。パパノ ケンキュウ ハジマル マデ ダイジョーブ! 」
何が大丈夫なのかわからないが、マイクはパールに会えただけで、うれしそうだ。
『いいなぁ、マイクは好きな子のために、転校できるンだ…』
キラシャは、マイクのことをうらやましいと思った。
キラシャだって、できることなら、今すぐにでも、タケルのいる所へ行ってみたい!
デビッドおじさんは、オパールおばさんに、マイクのお父さんが、ここまで2人を連れてきたことを伝えた。
マイクがアフカのスクールに入るまで、おじさんはマイクを助手として預かる約束だが、ケンはMFiエリアに帰ってから用事があるらしい。
それで、ケンの保護者はオパールおばさんが引き受けて、キラシャと一緒に連れて帰ることになった。
もちろん、パールがやっぱりMFiエリアで生活したいと言えば、オパールおばさんが保護者としてパールの世話をすることは決まっている。
「MFiエリアに帰ったら、ダンとオリン・ゲームの大会に出るンだ。
ダンから、あの裁判で仲間がひとり抜けたから、入らないかって、オファーがあったからね。」
とケン。
「エッ? オリン大会出るの?
そっか、ケンは忙しいンだね。じゃぁ、外海へはパパと2人っきりで行こうっと…」
キラシャは、もしケンが休暇中にヒマそうにしてたら、外海へ一緒に連れてってもいいかな…と思っていたので、ちょっとがっかりした。
ケンも、キャップ爺の散骨の話は聞いていたし、キラシャの気持ちはわかってたみたいだ。
「ホントは、キラシャと海に行って、キャップ爺にさよならが言いたかったンだ。
でも、キラシャがアフカへ行くって聞いたからね。
無事に帰って来れるのか、心配になって来ちゃった…。
ウチのおじさんにアフカに行きたいって相談したら、旅費出してくれたんだ。
あの裁判のおかげで、パスボーの遠征旅行が中止になったし…」
「ヨカッタ。トモダチ イルカラ アンシン…」とパール。
「そうか、パールの護衛には、この2人が打ってつけだよね。よかったね、パール! 」
パールがこれからアフカで暮らすかどうかは、この1週間で決まるようだ。
それには、いくつもの試練が待っているかもしれない。
キラシャは、マイクとケンが来てくれて良かったンだと、納得した。