2009-08-15
6.ナンで…
『ナンで…?』
タケルは、その姿を見て思わずそうつぶやいた。
しばらくして目の前に現れた キララ、つまりウェンディのそばに老人…
しかも、その老人は眠っているニックを抱えていた。
ウェンディは、子供達を呼び寄せ、老人を紹介した。
「このおじいさんが、アタシ達を地球へ連れて行ってくれるンだ。
名前は何て言ったっけ?」
「ん? 何でもいいが、アースにしとこうか。
お前さん達を地球まで連れて行けばいいんだろ?
まぁ、キャプテンと呼んでくれたら、うれしいかのぅ」
「じゃぁ、アース・キャプテンだ。
みんなもアース・キャプテンの言うこと聞くんだよ!
ルール違反したら、すぐに秘密の空間に閉じ込めるからね」
タケル以外の子供達は、秘密の空間と聞いただけで、サーッと顔色を変えた。
「ウェンディ、ちゃんと言うこと聞くから、秘密の空間には閉じ込めないで!
あそこって、死ぬより怖いンだもン…」
小さい子が叫んだ。
「わかってるなら、いいさ。
ニックは、まだ寝てた方がいいだろ。
起きるとちょっと面倒かもしれないからね。」
タケルはまったく理解できなかった。
「何でニックは戻って来たンだ?
コイツは、一緒に行かないって言ってたンだ。
キララ、お前が連れ戻したのか?
…何でだよ!?」
「アンタには、わからなくていいンだよ。アタシは、ニックを助けたかっただけなンだ。
それより、アンタもアタシの言うこと聞かなかったら、秘密の空間に閉じ込めるからね!」
タケルには、秘密の空間がどんな所かわからなかったが、また宇宙ステーションの狭いボックスの中に閉じ込められるのかと思って、よけいなことは言わないことにした。
「アース・キャプテン、ニックをカプセルの中に入れたら、この船の修理が必要な所をチェックしてくれる?
急がないと、連中がまた来るンだ!」
アース・キャプテンと呼ばれた老人は、照れくさそうに鼻をいじりながら、ニックを抱えたまま、カプセルのある場所へと移動した。
子供達は、すぐに入り口で見張りをする子、 出発の準備を手伝う子に分かれて、それぞれ行動を始めた。
また、ひとり取り残されたタケルは、イスに座ったまま考え込んでしまった。
『ホントに、こいつら地球に行くつもりなのか? こんな勝手なことって許されるのか?
MFiだったら、すぐにパトロール隊が来て、あやしいって思うさ。
だって、子供ばっかりじゃないか。
あのじいさんだって、変だよ。
こんな子供ばっかりなのに、何にも言わないじゃないか。
何かたくらんでるンだ、きっと。
あ~オレって、よっぽど妙な運命がついて回ってるのかなぁ。
キラシャも変わった子だったけど、キララは悪魔だよ…
もし、このまま宇宙へ飛び出して行ったら、どうなるンだろ?
ホントに地球へ行っちゃうのか?
でも…』
どうしたら良いのか途方にくれるタケルだったが、キララの魔術は続いていて、身体が思うように動かない。Mフォンはそばにあるのに、助けを求めることもできなかった。
「ウェンディ! また、奴らだ!
なンか、おっかない武器を持ってるみたい。
こっちを狙ってる。どうしよう!?」
「わかった。あれじゃ、この入り口が吹っ飛びそうだ。
仕方ないから、少々故障があっても、出てから直そう。
キャプテン、出発してくれ!
みんなも位置について、ベルトで身体を固定するンだよ。」
入り口にいた子供達も、あわてて自分のイスに戻り、ベルトを締めた。
「忘れてた…タケル!
アンタもベルトしないと、ケガするよ。身体は自由にしてやるから、さっさとしな!」
タケルはムッとしながらも、周りの緊迫感と、キララの勢いに逆らえず、手が動くのを確認して、イスのベルトを探して締めた。
アース・キャプテンも、キララの命令口調に苦笑いしながら、操縦席に座り、ベルトを締めると、手慣れた様子でエンジンを始動し、管制塔と連絡を取り始めた。
管制塔からは、出発の理由を聞かれたようだが、アース・キャプテンがキララに目配せしながら、ゲーム設備の交換のためと答えると、すぐに許可が下りた。
出発方向の信号の色が変わるのを待って、ゆっくりと子供達の乗った宇宙船が動き出した。
タケルは、思わぬ展開に興奮していた。
『真実って…!?
何が真実だって言うンだ…。何を信じりゃ、いいンだ?
こいつらだって、家族の所に帰るのが本当だろ?
いつまでキララの魔術にかかってりゃ、気が済むンだ。
そうだ、ヒロだ。ヒロにこのことを知らせなきゃ…』
タケルは、キララにわからないように、メールを打った。