未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第15章 真実って? ④

2021-05-19 20:33:02 | 未来記

2009-06-30

4.もうひとつの秘密基地

 

ニックとタケルは、そのまま病室を出ると、誰からも外出をとがめられないまま、ゆっくりとホスピタルから出て行った。

 

たまたま、ホスピタルで使用されている、器具の修理にやって来たMFiの若い技術者が、タケルの姿を見かけた。

 

MFiエリアのユニホーム姿のタケルを見て、彼から話しかけてきたのだが、久しぶりに同じエリアの人と話せる居心地良さに、タケルは「アニキって呼んでいい?」と尋ねてみた。

 

彼がこそばゆそうに「いいよ」と答えると、それからは、「アニキ!」と言って、タケルから声をかけるようになっていた。

 

そんなタケルを本当の弟のように思っていたのか、無表情に歩くタケルの姿を不審に感じて、彼は思わず立ち止まった。

 

しばらく首をかしげて、その様子を観察していたが、自分の仕事を思い出したのか、急いでホスピタルへと入って行った。

 

ニックは、友達を引っ張るように、タケルの腕を取り、目的地へと向かった。

 

そこは、ゲーム施設の一角にあった。

 

ゲーム施設は、それぞれ独立した宇宙船になっている。流星の衝突という非常時に、すぐに宇宙ステーションから離れて、独自に危険を回避するためである。

 

いくつものゲーム施設を通り過ぎ、一番人通りの少ないゲーム施設の前で、ニックは何度か口笛を吹いた。

 

しばらく待っていると、入り口の戸が開き、シーナが顔をのぞかせて、ニックに手招きをした。

 

ニックは苦笑いしながら、シーナとハイタッチをして、タケルのことを任せた。

 

タケルは、シーナに連れられて、固定されたイスに座らされた。

 

タケルの意識が回復して、おぼろげながらに周りを見渡すと、周りに子供達がいる。

 

皆、食べ物とドリンクを持って、タケルが目覚めるのを待っていたようだ。

 

このゲーム施設の宇宙船に、ゲーム機器はなかった。

 

シーナを含めて8人の子供達が、生活を続けるための住居スペースになっていた。

 

「ボク達の秘密基地に、ようこそ!」

 

小さい子供が叫んだ。

 

「これで、9人目だネ!」

 

シーナが、ニコニコして言うと、隣にいた男の子が、すぐに訂正した。

 

「ウェンディ、違うよ。ニックを入れて、10人だ」

 

ニックにとってのシーナ、つまりキラシャは、ここではピーターパンに出てくる女の子、ウェンディと呼ばれているようだ。

 

すると、ニックもすぐに否定した。

 

「オレ、知らネェ。オマエ達が行きたいなら、勝手に行けって感じだね」

 

「このまま、ここにいても、あいつらのエジキさ。一緒に行った方が、いいよ。

 

それじゃ、とりあえず10人目の仲間が来たことを祝って、乾杯しよう!」

 

一番年上に見える子がそう言うと、子供達は、ドリンクの容器をカチリと合わせて、勢い良く飲み始めた。

 

タケルは、まだ無表情のままだ。ウェンディの魔術のせいで、何も言えないのだろう。

 

ニックも長い距離を歩いて空腹を感じたのか、仕方なさそうに、食べ物を受け取り、食いついた。

 

子供達のおしゃべりで、にぎやかな食事中も、タケルは自分がなぜここにいるのか、わからないまま周りをボーっと眺めていた。

 

時々、タケルを思い出したように、子供達が自己紹介をし始めた。

 

どの子もこの宇宙ステーションのゲームコーナーでウェンディと知り合い、それまで一緒にいた家族から、離れて暮らしていると言う。

 

中には、小さいころから親に散々暴力を振るわれていて、ゲーム施設に逃げたときに、ウェンディに助けてもらったんだと、自慢げに語る子もいた。

 

他の子供達も、内容は違うけれど、自分の親への不満をぶちまけても、親の元へ帰りたいと言う子供は、いなかった。

 

不思議なくらい、子供達の表情は明るい。

 

ふと、タケルはこれまでの自分を振り返ってみた。

 

ここへ来るまで、宇宙船の中での毎日が、どれだけゆううつだったか。

 

キララに出会って、やっと話の合う仲間に出会えた気がして、どんなに気が楽に思えたか。

 

でも、それが家族まで巻き込んだ誘拐事件とわかり、痛い目にあって、ようやくわかった。キララを信じたのが、大きな間違いだったのだ。

 

タケルにとって、MFiエリアでの生活こそが、ホンモノだった。

 

ケンやキラシャや仲間達と遊んだこと、ケンカをしたこと、パスボーの試合…。今も忘れられない思い出だ。

 

地球を出発する前に、キラシャが必死に話しかけてくれたことが、ずっと、ひとりぼっちだったタケルを支えてくれたような気がした。

 

タケルも、今は両親に会うより、スクールの仲間に会いたいと思った。とりわけ、キラシャには、絶対に会わなければと思った。

 

『キラシャは、ホスピタルにいるらしいけど、今どうしているンだろう。アイツに会って、黙って出てきたこと謝らなきゃ! 』

 

やがて食事も終わり、それぞれに後片付けを済ませると、ウェンディを中心に会議を始めた。

 

議題は、地球への出発の時期。

 

ウェンディは、なるべく早く出発したいと言った。

 

みんなの前で手を広げると、その上方に目つきの悪い男達が、このゲーム施設を伺っている風景が浮かんだ。

 

悪党達の仲間が他にもいて、子供達が秘密基地として占拠している、この宇宙船を取り戻そうと、その機会を狙っているようだ。

 

ここにいる子供達は誘拐され、人質としてこの宇宙船に閉じ込められていたのだ。

 

子供達は、ほとんどが家族で宇宙旅行を楽しんでいる途中で、ゲームに夢中になっている間に、ウェンディと仲良くなって、ここに集まって来たらしい。

 

悪党達は、子供を人質にして、親に金を要求しようとしていたのだが、情報網の発達した未来では、へたに連絡を取ると足がつく。

 

その一方で、ひとり子供がいなくなったことも気付かずに、この宇宙ステーションから次の目的地に向かって、すでに出発してしまった大家族もいたようだ。

 

なかなか帰って来ない子供を心配していても、この宇宙ステーションに滞在している間は、子供だけで出てゆくことはないからと、そのままにしている家族もいた。

 

こんな風で、家族からの警察への届けも遅れた。

 

悪党達も、子供達のMフォンからポイントを巻き上げた後で、Mフォンを持っていると居場所がわかるから、親の連絡先だけメモして、すぐに捨ててしまった。

 

そして、悪人達はボス・コンピュータをいじり、どこから連絡しているのかわからないようにしようとしていたのだが、そのターゲットになったニックが捕まってしまった。

 

あせった悪人達が、タケルを人質に取って、新たな企てを考えていたようだが、結局、警察に捕まってしまった。

 

ウェンディが、宇宙船に集まった子供達に、食べ物の差し入れをしているうちに、家族の悩みを打ち明け合って、気持ちが通じ合い、自然と運命共同体を作り上げてきたようだ。

 

会議中、子供達は宇宙船に燃料や食料はどれくらいあって、地球へ行くためには何が必要かをあげて、それをどう調達するかを真剣に話し合っていた。

 

タケルは無言のまま、この会議をぼんやりと見守りながら、『こいつら、本気で地球へ行くつもりなのか。でも、こんな子供だけで、ホントに行けるのか?』と思った。

 

ウェンディは思い出したように、タケルに向かって言った。

 

「タケル、例のヒロって子、この宇宙船で地球に着陸するには、どうしたらいいか説明できる?」

 

タケルは、魔術からとけたように、口を開いた。

 

「そんなの、わかるわけないよ。直接ヒロに聞いてみな!」

 

そこにニックが、勢い良く口を挟んだ。

 

「シーナ、コイツのことなんかほっとけよ。オレが、何とかすりゃいいのさ。要は、操縦士が必要なんだろ?

 

オレがやってやるよ。ここにいたって、つまンないからな。操縦ならオレだってできるさ。危険なことがあれば、シーナが教えてくれるんだろ?

 

タケルを使うのはよせ。コイツは、オマエのことナンにもわかっちゃいねぇぞ! 」

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第15章 真実って? ⑤

2021-05-15 20:34:23 | 未来記

2009-07-11

5.闘いの始まり

 

タケルは、自分のMフォンがないことに気付いて、ニックに向かって叫んだ。

 

「オイ! オレのMフォン、どこへやったんだ!」

 

「バーカ! オマエのMフォンから足がついたら、警察が動くだろう。ホスピタルにおいて来たンダヨ!」

 

「あれがなきゃ、ヒロと話ができないじゃンか! アイツと話す必要がないなら、オレがここにいる必要もないだろ!」

 

「そうさ。オマエはオレの代わりにホスピタルへ戻れ! シーナは、オレが地球まで連れてってやる。オレは、そのあとで他の星を目指すンだ。

 

いいだろ? シーナ…」

 

シーナ、つまりウェンディは、あきれた顔をしてニックに言った。

 

「ニック。アンタにできるンなら、とっくに出発してるよ。アンタには、足りないモノがあるンだ…」

 

「何が足りないってンダヨ! 自信ならあるぜ、ゲームで鍛えたからな」

 

「つまんない自信なンかより、地球に行きたいって気持ちが必要なンだ。アンタには、それがない。だからタケルみたいな子を探してたンだ」

 

タケルは、それを否定するように、キララ…シーナでもありウェンディに向かって叫んだ。

 

「だから、言ったろ? オレは、まだ地球に帰るかどうか決めてないンだ。だいたい、子供だけで、どうやって地球へ行くって言うンだ。

 

無茶だよ! 冗談じゃない! 」

 

しかし、ウェンディは平然と言った。

 

「もう決めたことなンだ。準備ができ次第、出発するよ。早くしないと、奴らは入り口を爆発させて、この中に入ってくるつもりだ。アタシは、そうはさせないけどね…」

 

ウェンディは、子供達にそれぞれの役割を伝えると、すぐに4人の子供と一緒に消えた。

 

残された3人の子供達は、戦闘服に着替えると、ショック銃を持ち、入り口に作ってある窓から外を監視した。

 

しばらくすると、外の方で怒鳴り声が聞こえた。

 

「中にいるのは、わかってるンだ! オレ達の言うこと聞かないと、痛い目に遭うぞ! 助けて欲しかったら、おとなしく入り口を開けろ! 」

 

それに答えるように、子供の1人が叫んだ。

 

「オレ達は、銃を持ってるンだ! 近づいたら、遠慮なしに発砲するぞ!

 

いいか、ホンモノだぞ!」

 

「そんなこと、本気にするとでも思っているのか! ガキの癖に、生意気な口聞きやがって!

 

 大人をからかうンじゃないぞ! 本気で痛い目に遭わせてやるからな!」

 

テーブルに残されたニックとタケルは、何が始まるンだろうと、入り口の子供達を見守っていた。

 

子供達の頭の動きから、外の男達が近づいているのがわかる。

 

緊張した空気の中で、3人の子供は、目配せして銃の発射準備を整えた。

 

「よーい、発射!」

 

外でううっと、男のうめき声が聞こえた。

 

「この野郎! ナメたことしやがって! 殺されてぇのか? 

 

銃を捨てないと、宇宙船ごと爆発するぞ!」

 

しかし、子供達はひるまなかった。男達めがけて、銃を乱射した。何人かが、悲鳴をあげながら、ショック状態に陥って、倒れたようだ。

 

残った男達も、倒れた仲間を引きずって、銃の当たらない場所へと逃げて行ったらしい。

 

「ウェンディが帰って来るまで、絶対入り口に近づけないようにしなきゃ」

 

「でも、マジでビビッたよ。ゲームは慣れてるけど、ホンモノだもの。

 

やらなきゃ、やられるってわかっても、やっぱり怖いよな」

 

「そうだよな。…戦争って、こんなモンなのかな。

 

自分が殺されないために、相手を殺さなきゃいけないンだ…。

 

オレ、コズミック防衛軍に入りたかったンだ…」

 

子供達の会話を聞きながら、タケルは映画かゲームの仮想世界へ、入り込んでしまったように感じた。

 

しかも、これは夢ではなさそうだ。

 

ウェンディと他の子供達が、手にいっぱいモノを持って現れた。

 

「買い物は、これでおしまいだ。あとは出発準備だけだね。みんな、ご苦労さン。荷物をしまったらちょっと休憩して、見張りを交代してやりな」

 

荷物を抱えた子供達は、早速片付けに取り掛かった。

 

「オイ、タケル! アンタにプレゼントダヨ!」

 

ウェンディは、タケルのMフォンを見せた。

 

「ナンだ? ここがバレても、いいのかよ! もういい、わかった。オレは降りるぜ! シーナには、オレは必要なかったってことだな。あばよ!」

 

ニックは不機嫌そうに立ち上がった。

 

入り口の子供に向かって「どきな!」と大声で追い散らし、そのまま宇宙船から出て行った。

 

タケルのMフォンから、着信音が聞こえた。タケルには、音は聞こえづらくなっているが、大好きな宇宙戦艦ヤマトのテーマ曲だ。

 

ウェンディからMフォンを投げ渡され、タケルはあわててそれを受け取った。

 

「えっ? ひょっとして…」

 

タケルは、キラシャからのメールにも、この着信音を設定していた。

 

『タケル、元気? こっちもみんな元気だよ。

 

あたしもみんなも無事に進級できたみたい。

 

いつ、帰って来れるの?

 

タケル、早く会いたいよ! 

 

返事待ってるね…』

 

キラシャの笑顔が空中に浮かんで消えた。タケルは、もっと長く見ていたいと思った。

 

「会いたいだろ?

 

タケル、アンタは地球に帰るようになってンだ。

 

必ずここへ~帰ってくると~♪ ってね…」

 

「でもさ…」

 

それでも、タケルは不安を抱えていた。

 

「何とかなるって…。アタシだって、支えてやるよ。

 

アンタの好きなキラシャには、かなわないけどさ」

 

「でも、どうやって地球へ…」

 

「大丈夫だよ。操縦士やってくれる奴がいるンだ。

 

アンタは信じないだろうけど、アタシはアイツ等とは違うンだ。

 

この子達を悪い奴から守るためなンだ! 

 

じゃぁ、その操縦士を連れてくるよ…」

 

ウェンディは、そう言うとすぐに消えてしまった。

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第15章 真実って? ⑥

2021-05-13 20:36:34 | 未来記

2009-08-15

6.ナンで…

 

『ナンで…?』

 

タケルは、その姿を見て思わずそうつぶやいた。

 

しばらくして目の前に現れた キララ、つまりウェンディのそばに老人…

 

しかも、その老人は眠っているニックを抱えていた。

 

ウェンディは、子供達を呼び寄せ、老人を紹介した。

 

「このおじいさんが、アタシ達を地球へ連れて行ってくれるンだ。

 

名前は何て言ったっけ?」

 

「ん? 何でもいいが、アースにしとこうか。

 

お前さん達を地球まで連れて行けばいいんだろ? 

 

まぁ、キャプテンと呼んでくれたら、うれしいかのぅ」

 

「じゃぁ、アース・キャプテンだ。

 

みんなもアース・キャプテンの言うこと聞くんだよ!

 

ルール違反したら、すぐに秘密の空間に閉じ込めるからね」

 

タケル以外の子供達は、秘密の空間と聞いただけで、サーッと顔色を変えた。

 

「ウェンディ、ちゃんと言うこと聞くから、秘密の空間には閉じ込めないで!

 

あそこって、死ぬより怖いンだもン…」

 

小さい子が叫んだ。

 

「わかってるなら、いいさ。

 

ニックは、まだ寝てた方がいいだろ。

 

起きるとちょっと面倒かもしれないからね。」

 

タケルはまったく理解できなかった。

 

「何でニックは戻って来たンだ?

 

コイツは、一緒に行かないって言ってたンだ。

 

キララ、お前が連れ戻したのか?

 

…何でだよ!?」

 

「アンタには、わからなくていいンだよ。アタシは、ニックを助けたかっただけなンだ。

 

それより、アンタもアタシの言うこと聞かなかったら、秘密の空間に閉じ込めるからね!」

 

タケルには、秘密の空間がどんな所かわからなかったが、また宇宙ステーションの狭いボックスの中に閉じ込められるのかと思って、よけいなことは言わないことにした。

 

「アース・キャプテン、ニックをカプセルの中に入れたら、この船の修理が必要な所をチェックしてくれる?

 

急がないと、連中がまた来るンだ!」

 

アース・キャプテンと呼ばれた老人は、照れくさそうに鼻をいじりながら、ニックを抱えたまま、カプセルのある場所へと移動した。

 

子供達は、すぐに入り口で見張りをする子、 出発の準備を手伝う子に分かれて、それぞれ行動を始めた。

 

また、ひとり取り残されたタケルは、イスに座ったまま考え込んでしまった。

 

『ホントに、こいつら地球に行くつもりなのか? こんな勝手なことって許されるのか?

 

MFiだったら、すぐにパトロール隊が来て、あやしいって思うさ。

 

だって、子供ばっかりじゃないか。

 

あのじいさんだって、変だよ。

 

こんな子供ばっかりなのに、何にも言わないじゃないか。

 

何かたくらんでるンだ、きっと。

 

あ~オレって、よっぽど妙な運命がついて回ってるのかなぁ。

 

キラシャも変わった子だったけど、キララは悪魔だよ…

 

もし、このまま宇宙へ飛び出して行ったら、どうなるンだろ?

 

ホントに地球へ行っちゃうのか? 

 

でも…』

 

どうしたら良いのか途方にくれるタケルだったが、キララの魔術は続いていて、身体が思うように動かない。Mフォンはそばにあるのに、助けを求めることもできなかった。

 

「ウェンディ! また、奴らだ! 

 

なンか、おっかない武器を持ってるみたい。

 

こっちを狙ってる。どうしよう!?」

 

「わかった。あれじゃ、この入り口が吹っ飛びそうだ。

 

仕方ないから、少々故障があっても、出てから直そう。

 

キャプテン、出発してくれ!

 

みんなも位置について、ベルトで身体を固定するンだよ。」

 

入り口にいた子供達も、あわてて自分のイスに戻り、ベルトを締めた。

 

「忘れてた…タケル!

 

アンタもベルトしないと、ケガするよ。身体は自由にしてやるから、さっさとしな!」

 

タケルはムッとしながらも、周りの緊迫感と、キララの勢いに逆らえず、手が動くのを確認して、イスのベルトを探して締めた。

 

アース・キャプテンも、キララの命令口調に苦笑いしながら、操縦席に座り、ベルトを締めると、手慣れた様子でエンジンを始動し、管制塔と連絡を取り始めた。

 

管制塔からは、出発の理由を聞かれたようだが、アース・キャプテンがキララに目配せしながら、ゲーム設備の交換のためと答えると、すぐに許可が下りた。

 

出発方向の信号の色が変わるのを待って、ゆっくりと子供達の乗った宇宙船が動き出した。

 

タケルは、思わぬ展開に興奮していた。

 

『真実って…!?

 

何が真実だって言うンだ…。何を信じりゃ、いいンだ?

 

こいつらだって、家族の所に帰るのが本当だろ? 

 

いつまでキララの魔術にかかってりゃ、気が済むンだ。

 

そうだ、ヒロだ。ヒロにこのことを知らせなきゃ…』

 

タケルは、キララにわからないように、メールを打った。

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第16章 運命の分岐点 ①

2021-05-09 13:15:21 | 未来記

2009-11-19

アフカへ

 

ドームになかった

 

不思議な素敵な世界

 

私を待っていたような(ワクワク…)

 

だれかが待っているような(ドキドキ…)

 

出会いの予感…

 

 

アフカに広がる

 

緑と灰色の大地

 

ここで何が待ってるの?(ワクワク…)

 

どんなことが起きるのかな?(ドキドキ…)

 

意外な予感…

 

 

1.出迎えた人達

 

エア・ボートの窓から眺めたアフカは、自然の宝庫だった。

 

大きな川と森、はげ山と砂漠が交互に現れ、草原には3D動画で見たことのある動物が群れをなして移動していた。

 

ドームは、ポツンポツンと離れた所に建ち、周囲には緑が広がっていた。

 

アフカでは、マスクが離せないと思っていたキラシャだったが、パールはつけなくてもいいと言うので、キラシャもマスクをはずして、エア・ボートから降りた。

 

アフカは、暑い!

 

暑さ対策のため、クール・スーツ(冷たい水分を含んだ生地で作られた服)を身に着けたキラシャは、オパールおばさんの車椅子の後ろをパールと手をつないで移動した。

 

キラシャは、思いっきり空気を吸って、ハーッとはいてみた。

 

『ドームの空気と、ゼ~ンゼン空気がちがう…。

 

熱いけど、地球と一緒に生きてるって感じだね~

 

どうして大人は戦争なンかして、

 

こんな素敵な自然を壊しちゃうンだろう…? 』

 

エア・ポートでは、いろんな人種が行き交い、武装した軍人が所々で見張りをしていて、物々しい雰囲気だったが、キラシャは前方に知ってる人を見つけて、ビックリした。

 

海洋牧場で出会ったおじさんだ。

 

パールとキラシャは、周りを気にしながら、小走りでおじさんの所へかけよった。

 

「おじさん、こんにちは! ここで会えると思ってなかったから、うれしいよ!」

 

「ワタシモ!」

 

「元気だったかい? おじさんも、君達に会えるのを楽しみにしてたんだ」

 

おじさんは、あの時と同じようにMFiエリアの言葉で話しかけてきた。

 

それから、車椅子で近づいて来たオパールおばさんに向かって

 

「はじめまして、私は、デビッドと言います。よろしく…」と言ってお辞儀をした。

 

オパールおばさんは頬を赤らめながら、会釈して言った。

 

「こちらこそ、よろしく…。

 

パールから、アフカの戦争を止めるために努力された、すばらしい方とお聞きしています。

 

お会いできたことを光栄に思います…」

 

デビッドおじさんは、マシン人間らしく無表情ではあったが、

 

「あなたもずいぶんご苦労されたことでしょう。

 

そのお言葉を聞いて、今までの苦労が、報われたような気がします」と答えた。

 

そして、そばにいる色あざやかな民族服を着た男性を振り返り、パールと同じ民族の青年リーダーのひとりだと、3人に紹介した。

 

その男性は、軽く会釈をして、

 

「ドゥマ デス。ヨロシク」とデビットおじさんから教えられたのか、MFiの言葉であいさつした。

 

それから、地元の言葉で、「長老からパールとお友達を出迎えるよう言われてきました。これから、私が運転して案内します」と言っていたようだ。

 

キラシャには、ドゥマという名前以外、何もわからなかったが、パールがその男性に失礼にならないよう、後で「カレ コウイッテタヨ」と、説明してくれた。

 

どうやら、パールの家族は来てないようだ。

 

パールは、「マダ カゾクニ アウノ チョット コワカッタ」とキラシャに言った。

 

 

デビッドおじさんが、ひょっとしてリォンおじさんかもしれないと思っていたキラシャ。

 

2人の様子では、そうではなさそうだとわかって、少し残念な気がした。

 

 

エリアへ滞在する手続きと検査と、Ⅿフォンの設定の変更が終わると、パールの民族の人達にと、預かったたくさんの贈り物と、自分達の荷物も無事に受け取った。

 

エア・ポートから、眩しい光の差す外へ出た。

 

アフカ・エリアでの交通手段は、空中にも飛び上がる自動車、エア・カーだ。

 

アフカは広い大陸だが、戦争が始まると、道路や橋がすぐに壊されてしまう。

 

だから、道の邪魔になる石が山積している所や、橋の壊れた大きな川を渡る時は、空中移動できるエア・カーを使うことが多い。

 

しかし、いつ戦闘状態になって攻撃されるかわからないので、Mフォンのアプリで危険を知らせる音とメッセージが出る区間では、エア・カーでの移動が禁止されている。

 

エア・ポートの前には、乗客を待つエア・カーのタクシーが、たくさん止まっていた。

 

太陽の光に恵まれているアフカ・エリアでは、エネルギーの供給に、ソーラー・システムを利用している所が多い。

 

MFiエリアからアフカ・エリアへ、ソーラー・システムでエコ・ライフを送れるように、充電・送電設備などの技術支援と、エア・カーや家電製品の輸出も行っている。

 

ところが、エネルギー資源を分配する段階で、民族の間に争いが起こり、相手への送電の邪魔をする民族もいる。

 

それが、発端で戦争へとつながってしまうのだが、未来でも、多くの人が、不便だけでなく、武器による破壊の恐怖に苦しめられる毎日を送らねばならない。

 

 

キラシャは、前方に止まっている大型エア・カーのそばで、こっちを見ている男の子2人に気がついた。

 

『アフカで誰かに出会うような気がしたンだけど、

 

ひょっとしてこいつらだったのかな…? 』

 

キラシャの視線に気づいた2人は、あわててエア・カーの後ろに隠れたが、デビッドおじさんが大笑いしながら、声をかけた。

 

「男なら、堂々と出て来なさい! 」

 

ひょこりと顔を出したのは、ケンとマイクだ。

 

「女の子2人で来ることが、ずいぶん心配だったらしいね。

 

ひとつ前の便で先について、待ってたんだよ。

 

ほら、危ないから、車の中に入っていなさいと言っただろう。

 

怖い連中は、現れなかったのかい?

 

ちゃんとごあいさつしなさい」

 

「こんにちは…」「コニチーワ…」

 

「アレ? ジョンはどうしたの? あんた達だけ…?」

 

キラシャは、皮肉っぽく2人にたずねた。

 

吹き出る汗をぬぐいながら、真っ赤な顔をしたケンが言った。

 

「ジョンは、エリアのアニメ映画展に出品するから、休暇は忙しいらしいよ。

 

一応、誘ったけど、パールが帰って来るの、待ってるって!」

 

「あたしは、パールに誘われて来たンだよ!

 

別にアンタ達に用心棒なんて、頼ンでないからね。

 

来るンだったら、最初から言ってくれればいいのに…」

 

デビッドおじさんとドゥマが、荷物をエア・カーの後ろに押し込み、キラシャとパールと、車いすから降ろされたオパールおばさんを真ん中の席へ乗せた。

 

運転するドゥマとデビッドおじさんは前の席へ、ケンとマイクは後ろの席に乗り込んだ。

 

出発した車の中で、マイクが何のためにアフカへ来たのかを話し始めた。

 

「ボク パパト イッショ。

 

パパ アフカデ ショクブツノ ケンキュウ スルッテ! 」

 

マイクの話を要約すると、マイクの父親は植物学者なので、これからアフカにあるラボに移って、仕事をするそうだ。でも、それはマイクの転校を意味していた。

 

「ウソ~、マイクこっちに移っちゃうの? 

 

サリーとエミリにちゃんと言ったの? 

 

先生も何も言わなかったよ。

 

いつ、転校するの?」

 

「マダ ワカラナイ。パパノ ケンキュウ ハジマル マデ ダイジョーブ! 」

 

何が大丈夫なのかわからないが、マイクはパールに会えただけで、うれしそうだ。

 

『いいなぁ、マイクは好きな子のために、転校できるンだ…』

 

キラシャは、マイクのことをうらやましいと思った。

 

キラシャだって、できることなら、今すぐにでも、タケルのいる所へ行ってみたい!

 

 

デビッドおじさんは、オパールおばさんに、マイクのお父さんが、ここまで2人を連れてきたことを伝えた。

 

マイクがアフカのスクールに入るまで、おじさんはマイクを助手として預かる約束だが、ケンはMFiエリアに帰ってから用事があるらしい。

 

それで、ケンの保護者はオパールおばさんが引き受けて、キラシャと一緒に連れて帰ることになった。

 

もちろん、パールがやっぱりMFiエリアで生活したいと言えば、オパールおばさんが保護者としてパールの世話をすることは決まっている。

 

「MFiエリアに帰ったら、ダンとオリン・ゲームの大会に出るンだ。

 

ダンから、あの裁判で仲間がひとり抜けたから、入らないかって、オファーがあったからね。」

 

とケン。

 

「エッ? オリン大会出るの? 

 

そっか、ケンは忙しいンだね。じゃぁ、外海へはパパと2人っきりで行こうっと…」

 

キラシャは、もしケンが休暇中にヒマそうにしてたら、外海へ一緒に連れてってもいいかな…と思っていたので、ちょっとがっかりした。

 

ケンも、キャップ爺の散骨の話は聞いていたし、キラシャの気持ちはわかってたみたいだ。

 

「ホントは、キラシャと海に行って、キャップ爺にさよならが言いたかったンだ。

 

でも、キラシャがアフカへ行くって聞いたからね。

 

無事に帰って来れるのか、心配になって来ちゃった…。

 

ウチのおじさんにアフカに行きたいって相談したら、旅費出してくれたんだ。

 

あの裁判のおかげで、パスボーの遠征旅行が中止になったし…」

 

「ヨカッタ。トモダチ イルカラ アンシン…」とパール。

 

「そうか、パールの護衛には、この2人が打ってつけだよね。よかったね、パール! 」

 

 

パールがこれからアフカで暮らすかどうかは、この1週間で決まるようだ。

 

それには、いくつもの試練が待っているかもしれない。

 

キラシャは、マイクとケンが来てくれて良かったンだと、納得した。

 

青年の名前をカールからドゥマに変更しました。

足が速いので カール・ルイスをイメージしていたのですが

後で名前を変更した理由をお分かりいただけると思います。

2025年 3月14日 文責 金田綾子

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第16章 運命の分岐点 ②

2021-05-05 13:18:36 | 未来記

2009-11-23

2.追って来るぞ!

 

タケルは、ヒロへのメールが無事に送信されたことを確認した。

 

でも、タケルのMフォンは、宇宙ステーション用に設定されている。これ以上離れたら、地球との送受信ができるかわからない。

 

タケルは、宇宙ステーションでの裁判も終わってないし、代理人への報告も決められた時間内にできていないことに気づいた。

 

『ひょっとしたら、代理人がオレのこと気づいて、警察に連絡してくれたかも。

 

もし、それでコズミック防衛軍が動いたら、助けに来てくれるかも…』

 

タケルは、良い方に気持ちを切り替えた。

 

『コズミック防衛軍の宇宙船って、カッコイインダよな~。

 

ゲームじゃ、何度も操縦してみたけど、オレも一度、ホンモノに乗ってみたいな~』

 

タケルはスクールで紹介された、コズミック防衛軍の兵士の活躍する姿を思い浮かべた。

 

 

しかし、現実にこの宇宙船を操縦するのは、年取ったじいさんひとりだけ。

 

しかも、この宇宙船は、ずいぶん故障を抱えているらしい。

 

助けてもらえるまでに、この宇宙船が大破しやしないかと、不安で寒気がした。

 

どこへ道連れにされるのかわからないが、せめて地獄でないことだけ、タケルは祈った。

 

しばらくして、四方の宇宙を映し出すカメラのひとつが、宇宙ステーションから同じ方向に向かって来る宇宙船をとらえた。

 

その宇宙船は、タケルが知っているコズミック防衛軍ではない。

 

ウェンディが叫んだ。「やつらだ!」

 

子供達も興奮して、声を掛け合った。

 

「やつらが、追っかけて来るぞ!」

 

威嚇射撃なのか、その宇宙船が光を発して、タケルの乗った宇宙船のそばをブォーンと光線が通り過ぎた。

 

「あいつら、オレ達攻撃して、何の得になるンだ?」

 

「撃沈されたくなかったら、言うこと聞けってこと?」

 

「ああ~、この宇宙船遅すぎる~。キャプテン、もっと早く進まないの?」

 

「うるさい。ガキどもは黙ってろ! これが、精一杯なんだ」

 

「わ~、どんどん近づいて来るよ~。じいさん、頼むよ~、もっと飛ばしてくれよ~!」

 

「お前ら、勝手なこと言うな! 

 

この宇宙船でこれ以上スピード出したら、どうなるかわかって言ってるのか。

 

宇宙のちりになっちまうンだぞ! 」

 

「だって、あいつらに捕まったら、オレ達、また人質なンだぜ! 

 

あいつら、オレ達をダシにして、家族からマネー巻き上げようとしてるンだ! 」

 

「でも…。パパは、新しいママに夢中ナンダモン、ボクのためにお金出さないかも…」

 

小さい男の子は、悲しくなって泣き出してしまった。

 

「バカだなぁ、泣くなよ。オレ達も同じさ。

 

親が面倒みてくれなきゃ、オレ達が面倒みてやるよ。

 

…あいつらに捕まっても、生きていられりゃね…」

 

そばにいる男の子が、ぽつりと言った。

 

その時、スピーカーからダミ声が響いた。

 

「いいか、よく聞け! 

 

これ以上進んだら、お前達の命はネェぞ。 

 

おとなしく、こっちの言うことを聞きな! 」

 

宇宙船は、いよいよ近くまで迫って来た。

 

「こっちが、ドッキングしやすいように、エンジンを止めろ! 」

 

再び、ダミ声が響いた。

 

 

ウェンディは、何かを決断したように、キャプテンに向かって言った。

 

「よし、もうストップしてもイイよ。やつらの言うこと聞いてやンな」

 

「ナンだって? ウェンディ何考えてンの?」

 

「このオンボロ宇宙船じゃ、地球には行けそうにないンだ。

 

このままじゃダメだ。

 

やつらの船に乗ってから、何とかしよう…」

 

「危険だよ、ウェンディ! やつら、何するかわかンないよ!」

 

「ワシがキャプテンだから、ワシの言うことも聞きな! 

 

ざっと見たところ、この船にいる方が危険すぎるね。

 

命が惜しかったら、やつらに従った方がマシだ!」

 

アース・キャプテンの顔つきが変わった。

 

タケルは、その様子をじっと眺め、やっぱり何かあるンだと思った。

 

 

≪ときには≫

2009-10-11

 

ときには 何もかもが

 

イヤになることも あるけど

 

 

ときには 何もかもが

 

ヤミにまぎれることも あるけど

 

 

信じられる 何かがあるンだ

 

信じ合える 誰かがいるンだ

 

 

どこかに 隠れているのなら

 

そいつを 見つけてやろうよ!

 

 

自分自身を信じて 生きよう

 

未来を築くのは 自分達だと信じて!

 

 

ときには 何もかもが

 

テキに見えることも あるけど

 

 

ときには 何もかもが

 

逆に流されることも あるけど

 

 

誰にでも 奇跡は起こせるンだ

 

誰かに 出会う奇跡もあるンだ

 

 

見えない未来の どこかで

 

誰かが 待ってくれてる

 

 

自分自身を 信じて生きよう

 

未来の自分は 輝やいてるンだと信じて!

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