(新)八草きよぴ(kiyop)非公式モリゾー愛ブログだトン

岡田健太郎著「大陸浪人路面電車」増補改訂版と島秀雄賞記念祝賀会

昨年1月の記事で紹介した岡田健太郎著
「大陸浪人路面電車」ー中国大陸を駆けた日本の電車のものがたりー

前回紹介した初刷版が好評のため増刷に取り掛かる・・ところで、更に新資料の発見・提供があり、新たに判明した事実を加筆訂正しした上で増補改訂版として装いを新たに発売されました。
B5版166ページ(初刷版比+30ページ)
今回もご恵贈いただきました。ありがとうございます。



本書の要旨については上記の記事で紹介したのでそちらをご覧いただきたいとして、今回は増補改訂版で特筆したい部分から紹介します。



巻頭のカラーページで各市電の往年の姿と現在の姿が紹介。


(75ページ)
コラム的な感じで現在見ることができる保存車の紹介もあります。
これから中国東北部を訪問する人、この本を読んで訪問を決めた人にも有意義な情報ですね。

更に初刷版を紹介した際に私が

前・側面図の中から特筆すべき車両、代表的な車両の分をかってのカラーブックスや保育社の私鉄の車両よろしく150分の1サイズ程度で数ページ巻末に添付されれば更に記録的な価値が向上しフルスクラッチで模型を作る人にも役立つのではないかと思う

と書きましたが、なんと驚くことに初刷本発行直後に大連市電の図面(原図は1965年頃)が入手できたとのこと。原図に調査の結果判明した数値なども書き加えた約130分の1の図面が8形式分掲載されました。本書の内容・図面からモデラーによる模型製作や3Dモデルなど新たな展開も予感させられます。



「激動の時代を駆けた満州標準型ー大連市電500型」とか鉄道コレクションでの発売にも期待したくなります(キャッチコピーがマイクロエース的ですが・・)


(写真は記念祝賀会に出展したソウル市電300型の自作模型)
下は旧外地路面電車研究会の機関紙「軽々電車」第3号

図面としてはほかに97ページに哈爾賓(ハルビン)市電の91型・201型の掲載(哈爾浜市博物館の特別展で公開されたものが底本)の掲載もあります。

余談ですがこの前のページ(96ページ)には1941年にタイ国鉄向けに汽車製造で製造されたもののタイ行きがキャンセルされ哈爾賓入りしたとされる200型(203~207)が紹介されています。戦中期に満州国以外に鉄道車両の海外輸出が試みられるも挫折し満州入りした興味深い話となっています。

他にに巻末の付録に各車両のリストや車歴表も掲載され一層各車両の理解が深まる工夫がされています。

各ページのデザインが見直され洗練したことも相まって、このボリュームといいまるで鉄道ピクトリアルの私鉄特集増刊号のような体裁に近づいた印象です。

この増補改訂版については、書泉グランデとその通販で現在発売中(本稿執筆時点の25年3月5日時点)。また今後のイベント等での即売も期待されます。詳しくは著者のTwitter(X)アカウントを参照してください。

なお本書「大陸浪人路面電車」は改訂作業中に鉄道友の会による2024年の島秀雄記念優秀著作賞(単行本部門)の授賞が決定。
授賞式前日の3月1日には東京渋谷にて著者の岡田氏と旧外地路面電車研究会による記念祝賀会が開催されされました。祝賀会には私も招待していただき参加したのでその時の様子を紹介します。

祝賀会では、著者の岡田健太郎氏はもちろんのこと、編集者の中村屋与太郎氏、1980年代に東北部に訪中し貴重な写真を撮影し本書に提供した大穂氏、過去の島秀雄賞の受賞者の在羽氏、更に過去に島秀雄賞選考委員長を務めた大賀寿郎氏(今回の2024年の選考は退任後)、鉄道模型界でも有名なIMON社長の井門義博氏など、新進気鋭な若手研究者から長年鉄道趣味界で尽力した方々、更に報道関係者など錚々たる面々が集結した熱い会となりました。



旧外地路面電車研究会のメンバーや参加者の著書が並べられた見本誌コーナーも。



祝賀会ではトークショーが行われ、岡田氏の研究執筆に助力する為に結成された旧外地路面電車研究会の紹介。ここでは半島派として朝鮮半島、大陸派として旧満州を調査しているメンバーがいること。
会では在羽氏の他に、欠席の服部朗宏氏が過年の島賞を受賞していることなども紹介。

朝鮮半島の調査では韓国の博物館学芸員の方と交流を持ちお互いに調査報告をするなど日韓交流が行われていること。



また旧満州の現在調査中の課題として奉天や新京で地下鉄計画がありその計画に大阪市交通局(当時)が関わっていたことについて。



結果的に実現はしなかったものの、奉天に関しては車両や駅施設などの設計が行われていたとのことです。(新京は捜索中)



情報提供や民営化により情報公開による資料開示が不可能になってしまったことで情報提供や資料調査への協力、知人などがいれば紹介して欲しい・・が呼び掛けられました。
また旧満州の諸都市で道路が日本式の左側通行から右側通行に改められた件の詳細や時期(1940年代後半のどこか)についての情報提供依頼も。



この初刷版の表紙の車両の長春市電400型
前面右側に行先表示器が見えるが、左側通行から右側通行の移行に伴い、表示機も左側から右側に移設されたとのこと。

もしこれを読んでいる方で、これらについて何かご存じの方がいれば、「旧外地路面電車研究会」にご一報いただければと思います。

そして真打の著者の岡田健太郎氏のトークショーに。
生い立ちから今回の執筆に至る経緯や執筆に当たり、日中双方の資料を参照する調査の手法が紹介されました



東武伊勢崎線(都内区間)沿線出身で幼少期は東武伊勢崎線を見て育つ
江ノ電がきっかけ?で小さな電車や古い電車に興味を持つ



往年のコロタン文庫、カラーブックスなどおなじみの書籍類で鉄道趣味を深めていき・・

更に青年期にはバックパッカー旅行で中国を訪れており、その際にコロシアムのような円形の巨大集合住宅「客家円楼」も調査し「客家円楼: 1週間で円楼を見に行く (旅行人ウルトラガイド)」を執筆

そして岡田氏は2004年~2008年に中国駐在に。



鉄道趣味と中国への関心が合体。華中鉄道に供出された日本(鉄道省)のキハ40000の廃車体を発見するなど中国の鉄道は「中国の鉄道のブルーオーシャン」との談。

この時期の記録として私が注目したいのは北京地下鉄の詳細なレポート。
海外鉄道に足や目を延ばす(向ける)鉄道ファンが少ない中で、海外の鉄道も本線級の機関車列車が注目され、乗る機会は多いながら話題になりづらい都市鉄道「地下鉄」の車両について詳しいレポートは注目
氏のサイトWeb「不思議な転轍機」>「大陸の転轍機」から

また車両派の岡田氏と乗り鉄派の阿部真之氏とのコラボレーションで「中国鉄道大全」も執筆。



鉄道趣味活動の中でスパイ疑惑で現地当局に拘束されたこともあるそうです
(詳細は「鉄道ダイヤ情報の「鉄夫のトリセツ」に掲載されているそう)

その後、学生時代北海道で過ごした縁もあり2011年に旭川に移住
「撫順電鉄(撫順砿業集団運輸部) 満鉄ジテとその一族」を執筆

現在、旭川では鉄道の他にバスの乗り歩きや路線調査などもおこなっているそうです。



「撫順電鉄」を執筆した頃に、横浜の原鉄道模型博物館のデジタルライブラリーで閲覧した満州国時代の写真などに衝撃を受けたとのこと



そしてTwitterでの投稿に対して同好の士も結集。
前述した「旧外地路面電車研究会」の結成に。

実際の執筆のための調査手法の一例について紹介がありました。



Twitterでの呼びかけで呼応したメンバーがLINEグループやWebのアップローダーで持ち寄った資料をリモートで検証し日中双方の資料を突き合わせながらの解明作業です。



中国側の資料の終戦前後の車両についての記述



日本側の各種資料を用いて穴埋めパズルのように事実を導き出していきます

日中両国の趣味人からの情報提供・資料提供、助言意見などの協力、また編集者の中村氏など、一人の力ではなく多くの人の力があってこそ完成したものである。ということは繰り返し述べられていました。

岡田氏の授賞式のスピーチでは「扱っている時代は80年以上前の古いものだがSNSやデジタルアーカイブが活用できる今だからこそ執筆できた」とのことです


そして大陸浪人電車達の活躍を令和の世に問うた功績が評価され2024年の島秀雄記念優秀著作賞を受賞します。

祝賀パーティは拍手と称賛に包まれた熱い会となり、あっという間の2時間でした。

さて本書「大陸浪人路面電車」は前作に続き日中両国の鉄道に造詣の深い岡田健太郎氏だからこその作といえるでしょう。
しかしながら、海外で中国、路面電車と鉄道趣味界の中でもマイナー分野の2乗のような状態で商業出版を引き受けてくれる出版社がなく、同人誌という自費出版形態になっています。このように有意義な本を全国の書店に並べることが出来ない実情はとても残念に思います。

路面電車といえば、最近になって宇都宮ライトレール開業が注目されているものの鉄道の中ではマイナーに感じる人もいるかもしれません。
しかし乗客を乗せて電気で走る電車のメカニズムは路面電車からはじまりました。そして現代の私鉄鉄道も多くは路面電車のようなスタイルから脱皮を繰り返すかのごとく成長して今の姿になりました。

また中国に対して党派性的理由も含めて嫌悪感、拒否感を持っている人も少なくないようです。しかし本書で登場する大陸浪人電車は時代の狭間と国策の中で日本から大陸に渡り、終戦後も中国で活躍し続けた日本ルーツの電車たちです。
大陸に渡った電車たちのその後に目を向けることは、日本の鉄道や電車たちのルーツを知ることにも繋がるでしょう。


(8ページ)
大陸浪人電車のふるさと
はるか昔、私たちのまちから、遠く大陸に旅立ったたくさんの電車たちがいた

新天地「満州」に活躍の場を求めて日本から大陸に渡り、戦争終結後もそのまま留まり活躍した電車たちに目を向けてみませんか?

2023/3/5 00:08(JST)
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「鉄道関係のその他の話題(railway)」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事