▽富山県人は行かない美術館
富山県入善町に、赤レンガづくりの元水力発電所を利用した美術館があります。1926(大正15)年に建てられた黒部川第二発電所(通称「下山発電所」)が老朽化で稼働を停止したため、入善町が北陸電力から引き取り、現代アートの美術館に生まれ変わらせたのです。1995(平成7)年にオープン。その名も「発電所美術館」です。「下山」は「にざやま」と読みます。
名前から勘違いする人も多いらしく、入善町のホームページには以下のような注意書きがありました。
《当館は『発電所美術館』という名称ですが、「水力発電所をリノベーションした美術館」という意味で、「発電所の施設や仕組みを紹介する美術館」ではございません。当館では主に現代美術作家の新作展を行っております。発電所の施設や仕組みに興味のある方は、当館から車で30分程のところにある、「黒部川電気記念館」をお勧めいたします》
(「発電所美術館」の全景。2021.6撮影)
(導水管もそのまま残されている)
( 導水菅沿いの階段。ブルーのシャツの男性は、脳科学者の茂木健一郎氏。2011.8撮影)
黒部川の河岸段丘を利用して設けられた水力発電所で、高低差は23㍍。急な階段を上るとレストラン棟(これも赤レンガづくり)やアトリエ棟などがあります。
筆者は10年ぶりの訪問ですが、前回(2011年8月)訪ねた時、脳科学者の茂木健一郎氏が、何かの取材グループとともに来ていました。茂木氏はしんどそうに階段を上っていました。
(美術館入口で冷やされていた入善町の名物、ジャンボスイカ。2011.8)
▽「誰もいないので驚いた」
同美術館の入館者は決して多くありません。10年前当時の入館者ノートにはこうありました。「誰もいないので驚いた」。
交通の便は良くありません。路線バスはなく、入善駅からタクシーで2,000円ほどかかります。町の巡回バスの最寄りバス亭は、美術館から約900メートル離れています。
10年前当時、受付をしていた30歳前後の女性にどういう人が見に来るのか聞いてみたら、「富山の人はあまりというか、ほとんど来ません。そもそもこの美術館のことを知らないです。多くが東京など県外からです」とのこと。そして「東京の人は混んだ美術館に慣れているので、ここに来たら驚くようです」と苦笑していました。
今年は新型コロナウイルスという特殊事情があるとはいえ、筆者が館内にいた50分ほどの間の入館者は男性1人だけでした。土曜日のお昼なのに…。
その日の帰り道、自転車に乗った70代半ば風の男性に背後から、「どこから来たの?」と声をかけられたので、発電所美術館に行ってきた旨を伝えたところ「誰か見に来ていた?あそこの展示は万人向けじゃないからわしらは見てもよく分からん。今やっている展示作品は新聞で見たが、橋梁などの建設現場にある鉄骨みたいだよな」と。
なるほど的確な指摘に思われました。
その鉄骨みたいという“作品“が下の写真です。
(発電所美術館の内部。晴マキ幸一(はれまき・こういち)
くだんの自転車おじさんは、どことなくマイペース人間風で、筆者が手にしていたマンフロットの三脚を見て、「重そうな三脚だなあ。美術館でそれ使ったの?」と。「いや、撮影自体はOkでしたが、三脚は禁止でした」「なんでダメなんだ?」「さあ…、他の人に迷惑になるからでしょうかね、三脚を広げると場所を取るので」
「ふーん、そうかあ?だって誰もいないんだろう。もったいぶっているんだな…きっと」と、リラックスした表情で自転車をくねくねさせながら田んぼ道を去って行きました。もしかして飲酒運転?
三脚で思い出したのですが、この日、美術館の窓口で入場料(600円)を払って、展示会場に入ろうとしたら受付にいた20代後半風の女性係員が、「三脚は置いていってください」と無表情にポツリ。置いて行けって言われても、ロッカーが備えるある感じでもないので、「どこに置けばいいのかな?」と聞いたら、「そこら辺にでも」と。
彼女の視線は、筆者が立っている受付の横あたりに向けられていました。一瞬、客が来たら忘れ物と勘違いするのではないかとも思ったのですが、…そうか、ここは誰も来ないから受付の外でもいいんだ、とヘンに納得した次第です。
受付の女性もさまざまですね。10年前に来た時は明るい表情のハキハキとした女性で、「何かお荷物でお預かるするものがありますか」と言っていました。(当時の旅のメモによる)
この美術館は入善町が運営しています。税金を投じているわけですから、受付担当(学芸員の補助業務も兼ねているのかもしれませんが)を置くのは税金のムダ遣いです。受付業務は、入善町の総務担当者がリモートでやれば十分でしょう。コロナ時代の今こそムダを見直すべきでは。
地元の人は来ないから気付かない?
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