この修理の一番のハイライトです。
角穴車と受板が擦れた跡!!!
受板に段が付くほど削れてしまっていました。
しかも、これまでのオーバーホールでは根本的な修理が施されてなかったようで、
擦れる部分にグリスを塗布して安易に済ませていたように見うけられます。
これでは、削れカスとグリスの油カスが歯車の間に入って止まりの原因になるのと、
トルクの損失による精度不良、歯先の摩耗と様々な不具合をまねいてしまいます。
原因である地板側のほぞ穴部分、拡大してみると、
ご覧のように、ホゾの形にえぐれる様に摩耗していました。
一番力のかかる部分なので、年数的にはいたしかたないところではありますが、
ここまでになってしまうと問題です。
ゼンマイのトルクがかかると、減った方向にホゾが押されますので、
ゼンマイの入る香箱真が傾いた状態になります。
そのため受板側の角穴車も傾いて、受板に擦れていたのでした。
高級機であれば、トルクのかかるこの部分には、
摩耗しにくい穴石やブッシュが取り付けられているのですが、
普及機であるこちらのムーブメントにはそれがありません。
解決策として、減ってしまったホゾ穴にブッシュを製作して取り付けます。
時計旋盤にてブッシュを削りだします。
ブッシュの外径に合わせて、地板の穴を広げます。
ブッシュを圧入します。
ブッシュが取り付き、完了。
これで、ホゾとのクリアランスも適正になり、香箱真の傾きも無くなります。
したがって、角穴車と受板の擦れも解消。
歯車とのバックラッシュも適正になり、ゼンマイの力の伝達も良くなります。
当然、香箱本体も分解、減り直しを施して組み立てます。
次回へ、つづく。