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吉恋本家では番外編に、付き合いだしてからのバレンタインのエピソードがありますが…。
今回、まだお互いの気持ちが通じてない状態のバレンタインエピソードを考えてみました。
本家エピソードでも、譲二さんにばれないようにチョコを隠す場面がありますが、他のメンバーと違って、一緒に暮らしている分、ヒロインは苦労しますね。(;^ω^A
♥♥♥♥♥♥♥
ドキドキバレンタイン~その4
店に入るとマスターがテーブルの片付けをしていた。
譲二「あれ?…百花ちゃんどうしたの? 早かったね…忘れ物?」
百花「いえ…はい。忘れ物です」
マスターは訝しげに私を見つめた。
私は汗ばんだ手でチョコとプレゼントの入った紙袋を差し出した。
百花「マスターに…。渡すのを忘れてました」
掠れ声が裏返って、自分でも変な声だと思った。
譲二「俺に?」
百花「はい…」
マスターはお盆をカウンターに置くとその紙袋を受け取ってくれた。
そして、中身をそっと覗くと言った。
譲二「これって…一昨日作ったチョコの包みだよね…」
百花「はい…」
緊張で声がますます掠れた。
マスターは優しく微笑むと
譲二「中身を開けてみてもいい?」
と言った。
百花「はい」
マスターはプレゼントの包みから開けてくれた。
百花「スリッパ…です。いつも使ってるマスターのスリッパはかなりくたびれてたので…」
譲二「そうか…。それで…、ありがとう」
マスターの表情からは喜んでくれているのかどうかよく読み取れなかった。
次にチョコの箱とそれに添えられた手紙が出て来た。
マスターはチョコの箱をテーブルに置くと手紙を開けて読み始めた。
手紙には、クロフネに来てから、少しずつマスターのことが好きになったこと。
マスターにとって私は子供かもしれないが、女性として好きになって欲しい、という素直な自分の気持ちが書いてあった。
譲二「そっか。…そんな風に思ってくれていたんだ」
マスターが私を見つめる…。とても優しい瞳で…。
百花「もしも…迷惑だったら、諦めます…。ただ…、何も伝えずに諦めるのは悲しかったので…」
譲二「迷惑じゃないよ…。いや、迷惑どころか…とても嬉しい」
え? 今の空耳じゃないよね?
譲二「一昨日の夜、一生懸命にチョコレートを作る百花ちゃんの姿を見て…。
一緒に手伝いながら、このチョコを貰うヤツは羨ましい男だなって、少し嫉妬してた…」
百花「本当に? だって…、だって、マスターは全然普通で…」
譲二「俺は大人の男だからね…。
嫉妬を顔に出すなんて、そんなみっともない真似は出来なかっただけだよ…。
あのチョコを貰えるのは高校生の男の子だろうと思ってたし…。
ちょっ、百花ちゃん…」
マスターが慌ててる…。
私の目からは嬉しさのあまり涙がぼたぼたと溢れていた。
譲二「百花ちゃん…、泣かないで…」
マスターが私を抱き寄せて、頭をポンポンと叩いてくれてる。
私は泣きながら笑った。
百花「でも…私って、ドジですよね…。本命の人に本命チョコを作るのを手伝ってもらうなんて…」
マスター「そうだね…。でも、君の…そんなところが大好きだよ…」
マスターの『大好き』という言葉が頭の中をグルグルと回ってる。
この『大好き』は私のことなんだよね…。
そして、今、私を抱きしめてくれてるのはマスターなんだよね…。
嬉しくて…照れくさくて…とっても温かい…。
なんともいえないフワフワした気持ちを持て余しながら
…私はマスターの背中にそっと手を回した。
『ドキドキバレンタイン』おわり