廊下をてくてく歩いている裕子。そしてぺちゃぺちゃ自分の心と話をしている。A対Bみたいなもの。
「今日はどんな服を着る?」
「あら、勝手に船が決めるときもあるのよ」「何それ?」
「何それ? よね」
裕子はたまたま出会ったスタッフに近づいた。近づいて来た裕子ににっこり笑うスタッフだが裕子はにっこりというより心配事があった。
「私、ドレスコードがイマイチわからなくて。今日はどんな服を着るか船に決められる日もあるんですよね」
「そういう日もあります」
「そんな〜」
「特に詳しいアドバイザーがおりますからご相談いかがですか?」
裕子は大きくうなづいた。
サロンルームでは何人かの客の中央で話をしているアドバイザーがいた。
裕子を連れたスタッフがアドバイザーに近づいた。
「お客さまがドレスコードのことをお聞きしたいそうです」
「そうですか、どうぞどうぞ」
と言いながらアドバイザーは裕子の椅子を持って来た。 お辞儀して裕子もイスに座った。
前にあるボードに書きながら話すアドバイザー。
「フォーマル、インフォーマル、カジュアルがあります」
と書いてから手を止めて座っている何人かの人たちの顔を順番に見る。
「皆さまの中にはお子さまのいる方もいらっしゃいますよね」
何人かがうなづいた。裕子も隣りの女性を見つめる。彼女も同じようにうなづいた。
「お子さまがご結婚なさった時はさぞや大変でしたでしょう。そのくせ黒の留め袖でジミーにしなくちゃいけない」
またまたうなづきあう女性たち。
「今のことは横に置いておきましょう。今、大事なのはフォーマルです」
「注目!!」
やっぱりアドバイザーって人を引き付ける仕事なのね。学生時代の注目と同じかもしれない。私はこうはなれないと裕子は思っていた。
「フォーマルは甥御さま姪御さまお友だちの娘さんの結婚式がよろしいです」
ホォー、大きくうなづく裕子たち。
裕子は帰りの廊下でサロンルームで近くにいた女性たちもいた。みんな一緒なんだなと裕子はつくづく思った。
「勉強になりますね。インフォーマルは同窓会、カジュアルは父兄会の感覚で」
一人の女性がにっこりと笑った。後ろから小走りに来た別の女性が笑顔の彼女を 「聡美さん」と呼んだ。笑顔の聡美さんが振り向いた。
「あ、明日のことですか?」
「よろしくお願いします」
「こちらこそです」
お辞儀をしながら去っていく女性。
「聡美さん、うちのお嫁ちゃんと同じ名前!」
「あら、いいお嫁ちゃんですか?」
「ぼちぼち」
聡美は笑いながら
「それより明日のご予定は?」
「まだ何も」
「でしたら、ご一緒しません? 寄港デビューですよ」
「わぁ、聡美さん、是非是非。私、裕子です」
握手する二人。