900億円以上もの資金を投じて発行済み株式の3分の1以上を押さえ、筆頭株主になったという。そのとおりなら、阪神は村上ファンドの意向なしには何もできなくなるだろうから、大変なことである。
村上ファンド代表の村上世彰氏は、「阪神タイガース球団を上場させる」とか言っているらしい。タイガース・ファンにも株を買ってもらって、球団経営に参加してもらうという。なるほど、うまいことを言う。
これに対し、反発する人たちがいる一方で、「阪神の株を持つのもええかなと思います」とか「一般のファンも球団経営に参加できて、みんなのタイガースになるのでいいと思います」など賛成意見もあるようだ。
でも……ちょっと待って、っと私は言いたい。
株式会社及び、株主総会の意志決定ルールというものを、皆わかっているのだろうか? 私の年代では中学の公民で習ったが、ここでもう一度思い出してみよう。
普通選挙のように「一人一票」ではない。「一株一票」だった、確か。つまり、どういうことか? より多くの金を出して、多くの株を買った人の方が、より多くの権力、影響力を持てるということなのだ。極端に言えば、「金持ちほど有利」「金を持っている奴ほど好きなことができる」というシステムなのだ。タイガース球団を上場させると言うことは、このようなシステムにするということである。
以上のことをふまえた上で、ここで私は問いたい。「阪神の株を持つのもええかなと思います」とか「一般のファンも球団経営に参加できて、みんなのタイガースになるのでいいと思います」とか、村上ファンドを好意的に見ている人たちに、問いたい。あなた方は本当にそう思っているのですか、と。
阪神及びタイガース球団の経営、株主総会において、3分の1以上の株式を押さえたという村上世彰氏と、一般庶民の阪神ファンとが、対等の立場でものを言えるか? 株式会社のシステムからすれべ、答えは明らかにノーである。後者の人々が、村上ファンド並の資金を持っていることなど、普通ない……というより、まずないからだ。
「あなたも経営に参加できますよ」とか、「この球団(会社)はあなたのものですよ」とかうまいことを言って、幻想を振りまき、その実は「金を持っている自分たちの都合いいようにやる」という。要するに、村上ファンドのやろうとしていること、及びやってきたのはそういうことなのだ。阪神ファンだけではなく、日本人は、そこを見抜かなければならない。
「モノを言う株主」とかうまいことを言って、彼らのやっているやっていることは、総会屋などと本質的に変わりないのではないか。株の所有をタテにして、企業からより多くの金をせびるという。いや、考えようによっては「改革者」や「正義の味方」のようなフリをしている分、そこいらの総会屋よりよほど悪質かもしれない。
この件で、私が言いたいことはふたつある。
ひとつは、「会社は株主だけのものか?」ということである。
株式会社のルールと建前上はそうかもしれないが、現実はそればかりではない。従業員と顧客、社会のものでもある。今回の件で言えば、一般のタイガース・ファンのものでもある。従業員が収入で家族を養い、社会の構成員として自立する。企業城下町だけでなく、企業やその構成員、消費者によって、社会・共同体が成り立っているということもある。要するに、会社とは社会的存在としての側面を持っているのであって、それを大株主だけの都合で好き勝手にやってもいいものか、ということなのだ。
尼崎のJR西日本の大事故の時、辞任する羽目になったJR西日本の某経営幹部が、しばしば「株主様が……」という言葉を口にしていたそうだ。おそらくその幹部氏は、株主の方ばかりを向いていて、従業員や客、社会が見えてなかったのだろう。株主偏重が、いかに社会にとってマイナスの影響を及ぼすか。それを象徴する一件でもあったと思う。
もうひとつは、「資本主義と株式会社のルールだけではいけない場合もある」ということだ。
昔、日本企業がアメリカの映画会社を買収しようとして、アメリカで猛反発を喰らったことがあった。それは、単なる企業買収というだけでなく「日本企業がアメリカの文化まで買おうとしている」と考えられたからだろう。映画会社買収を「文化買収」とするかについては様々なご意見もあろうかと思うが、「歴史文化(=その国の民族が誇りとするもの)」を、資本と株式のルールだけで扱っていいのか、を考えさせられる出来事であった。
さて、日本の場合を考えてみてはどうだろうか? 例えば、外国の企業家がやってきて、以下のように言ってきたら、どうする?
「茶道の表千家・裏千家を売ってください。株式会社化して、価値をさらに上げます。さらに株式を公開して、一般の人にも経営に参加してもらいます」
同じように、金閣寺や清水寺や、伊勢神宮、東大寺の大仏などを売ってくれという企業家が出てきたら、「はい、ごもっともですね」と売るのか? 違うだろう。そうなれば怒るのが、普通の日本人の……いや、まっとうな人間の感覚だろう。というか、そんなことを許せば日本の文化遺産が喰い物にされるだろうことは目に見えている。
もっとも、昨今の社会の風潮を見ていれば、そう遠くない将来は、そんなことも冗談でなく現実になりそうな気がして、怖くなってくるのだが……。
それにしても、この問題においても、私が本当に情けなく、そして腹ただしく思うのが、そのような社会の文化などを喰い物にしてまで金儲けしようという連中に対して、まともに批判の声を上げない日本のマスメディアである。
それどころか、積極的に持ち上げているメディアもある。例えば、村上氏とご同類の堀江某や三木谷某の単独インタビューに成功したからと言って、事実上彼らの宣伝役になっている自称公共放送! 同じく今年3月に堀江某に単独インタビューに応じてもらってから、彼を持ち上げたM日新聞! 「宣伝に利用されている」ということに気づかないのか? さらにM日新聞のインタビューで堀江某は、明確に新聞などジャーナリズムの存在意義を否定する発言をしたのに……どういうつもりなんだろうか?
せめて私は、一般の人たち……少なくともこのブログを読んでいる人たちだけは言いたい。
「株主の権利」をタテにした銭ゲバ連中が、文化やこの社会のあらゆるものを喰い物にしてまで金儲けするのを許すな、と。さらにそんな奴らの手先に成り下がった大手マスメディアを疑ってかかれ、軽蔑してやれ、と。
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