黒い麻薬犬に摘発された7個のバッグはひとつずつワゴンの上に乗せられ、3人の警官が手分けして持ち主を呼び出し、中身を全てワゴンの中に出すように命じた。
乗客たちは、無言のまま様子を伺っているしかない。
「だいぶ時間がかかりそうですねえ」ため息をついている白髪の男性と目が合った。「数時間は覚悟した方がよさそうですねえ」と彼は苦笑いした。「アムステルダムからの直行バスだから特別にチェックをされるんですよ」と。手を上げて出て行く持ち主は、いずれも自由奔放な風体の若者たちだ。
と、再びドアが開いたかと思うと、鎖につながれた別の犬が顔を出した。「え?今度は何?」
最初の犬よりスリムで目の鋭いシェパードに似た犬を連れ、警官がバスの方向に向かった。いつの間にか、バスの床下のハッチが上がり、大きなスーツケースやバッグパックが外に出されている。なるほど、手荷物だけではない。そして、警官は犬を連れて乗客が降りた後の空の座席をひとつずつ回る。
そういえば、朝食用のバナナとパンを座席シートに残してきた。麻薬犬に舐められたりしないだろうか。などと、余計な心配をしたときだった、バスの床コンテナから麻薬犬に感知されて引き出されている荷物の中に、私のモスグリーンのバッグパックがあることに気づいた。
「え?どうして」唖然とする私に、白髪の男性は「他人のバッグに、こっそりドラッグをもぐりこませる奴もいるんですよ」と気の毒そうな顔をした。
他人事ではなくなった事の顛末を想像するのは楽しくない。時間をかけてぎゅうぎゅうに詰め込んだバッグの中身を、この場で全て披露するなんて、考えるだけでもうんざりした。そういえば、インドのホテルでもらったタリカムパウダー(シッカロール)、あれはドラッグに見えるかも・・・。
ほぼチェックが終了したと思われたとき、ドアが開いて小さな犬がちょこちょこと入ってきた。「3匹目!」乗客は一様に声を上げて顔を見合わせた。一度終わったバッグや座席をさらに別の犬に感知させる。念入りすぎるほどのチェック体制だ。
3匹目の麻薬犬が出て行き、ようやくドラッグ嫌疑の荷物が出揃った。その所有者だけが残り、他の乗客は倉庫の外に解放された。といっても、バスは倉庫の中なので、無実の乗客も全てが終わるのをただ待つしかない。
で、私は倉庫の中に残った。
感知された大荷物のほとんどが、手荷物で感知された若者の所有だった。よく見ると、残ったのは全員20代に見える若者で、私だけが異物で居心地が悪い。私の大きなバックパックを取り上げたのは、制服ブーツが実によく似合う素敵な女性警官だった。どの警官も表情も言葉も柔らかい。彼女も優しい目で「確認します」と言い、私が取り出すポーチや布袋の中を開けて覗きこんだ。
「アムステルダムからですね」と確認するように彼女が聞く。「Coffee Shopには行きませんでしたか」と聞かれ、「興味はあったんですが、エネルギッシュな若者であふれていて踏み込む勇気が足りませんでした」と答えると彼女はくすっと笑った。
↑「Coffee Shop」には、水パイプをはじめとした様々な「吸う道具」が揃う。
隣りでイチゴジャム瓶の中までかき回して調べていた男性警官が、チェコ語で何か彼女に言った。二人の様子と手振りから想像するに、「その日本人の荷物は、きっと彼らの荷物の隣りに置かれて臭いがついたんだろう」というような会話を交わしたのだろう。彼女は、私がバッグから半分も出さないうちに、中身を戻すように言い、再度パッキングをし終えた重い荷物を自らバスまで運び入れてくれたのだった。
チェコ入国に際するこの手厚い歓迎には、文化や法律の違う国々の欧州連合加盟の苦労と陸続きの国境の危うさを感じずにはいられなかった。
↑ようやく取調べが終了し、入り口のシャッターが開きバスのエンジンがかかった。
乗客たちは、無言のまま様子を伺っているしかない。
「だいぶ時間がかかりそうですねえ」ため息をついている白髪の男性と目が合った。「数時間は覚悟した方がよさそうですねえ」と彼は苦笑いした。「アムステルダムからの直行バスだから特別にチェックをされるんですよ」と。手を上げて出て行く持ち主は、いずれも自由奔放な風体の若者たちだ。
と、再びドアが開いたかと思うと、鎖につながれた別の犬が顔を出した。「え?今度は何?」
最初の犬よりスリムで目の鋭いシェパードに似た犬を連れ、警官がバスの方向に向かった。いつの間にか、バスの床下のハッチが上がり、大きなスーツケースやバッグパックが外に出されている。なるほど、手荷物だけではない。そして、警官は犬を連れて乗客が降りた後の空の座席をひとつずつ回る。
そういえば、朝食用のバナナとパンを座席シートに残してきた。麻薬犬に舐められたりしないだろうか。などと、余計な心配をしたときだった、バスの床コンテナから麻薬犬に感知されて引き出されている荷物の中に、私のモスグリーンのバッグパックがあることに気づいた。
「え?どうして」唖然とする私に、白髪の男性は「他人のバッグに、こっそりドラッグをもぐりこませる奴もいるんですよ」と気の毒そうな顔をした。
他人事ではなくなった事の顛末を想像するのは楽しくない。時間をかけてぎゅうぎゅうに詰め込んだバッグの中身を、この場で全て披露するなんて、考えるだけでもうんざりした。そういえば、インドのホテルでもらったタリカムパウダー(シッカロール)、あれはドラッグに見えるかも・・・。
ほぼチェックが終了したと思われたとき、ドアが開いて小さな犬がちょこちょこと入ってきた。「3匹目!」乗客は一様に声を上げて顔を見合わせた。一度終わったバッグや座席をさらに別の犬に感知させる。念入りすぎるほどのチェック体制だ。
3匹目の麻薬犬が出て行き、ようやくドラッグ嫌疑の荷物が出揃った。その所有者だけが残り、他の乗客は倉庫の外に解放された。といっても、バスは倉庫の中なので、無実の乗客も全てが終わるのをただ待つしかない。
で、私は倉庫の中に残った。
感知された大荷物のほとんどが、手荷物で感知された若者の所有だった。よく見ると、残ったのは全員20代に見える若者で、私だけが異物で居心地が悪い。私の大きなバックパックを取り上げたのは、制服ブーツが実によく似合う素敵な女性警官だった。どの警官も表情も言葉も柔らかい。彼女も優しい目で「確認します」と言い、私が取り出すポーチや布袋の中を開けて覗きこんだ。
「アムステルダムからですね」と確認するように彼女が聞く。「Coffee Shopには行きませんでしたか」と聞かれ、「興味はあったんですが、エネルギッシュな若者であふれていて踏み込む勇気が足りませんでした」と答えると彼女はくすっと笑った。
↑「Coffee Shop」には、水パイプをはじめとした様々な「吸う道具」が揃う。
隣りでイチゴジャム瓶の中までかき回して調べていた男性警官が、チェコ語で何か彼女に言った。二人の様子と手振りから想像するに、「その日本人の荷物は、きっと彼らの荷物の隣りに置かれて臭いがついたんだろう」というような会話を交わしたのだろう。彼女は、私がバッグから半分も出さないうちに、中身を戻すように言い、再度パッキングをし終えた重い荷物を自らバスまで運び入れてくれたのだった。
チェコ入国に際するこの手厚い歓迎には、文化や法律の違う国々の欧州連合加盟の苦労と陸続きの国境の危うさを感じずにはいられなかった。
↑ようやく取調べが終了し、入り口のシャッターが開きバスのエンジンがかかった。
入国の際の麻薬チェックは、ドキュメンタリー調でハラハラドキドキしました。
M市は8月に入ってからカンカン照りで1mmの降水量しかありませんでしたが22日夜に久しぶりのまとまった雨が降りました。長期予報では9月中旬まで残暑は厳しそうです。
中越沖地震で被災した柏崎刈羽原発が全面停止している東京電力が電力需要のピークを迎え、電力窮迫の恐れがあるとして「随時調整契約」を結んでいる顧客の一部に対し使用抑制を17年ぶりに請求したそうです。
ヤレヤレ暑いのも大変です(^^;
B型パパイヤさん、ソフトドラッグのみが許可されているオランダでも、薬物療養所に入っている人はかなりいるということです。最近は少量のアルコールでもいい気分になれるので、ドラッグにはまりそうにない私ですが、「仕掛けられた罠」には気をつけます。