見果てぬ夢

様々な土地をゆっくりと歩き、そこに暮らす人たちに出会い、風景の中に立てば、何か見えてくるものがあるかもしれない。

「ドラッグは持っていません」(その1)

2007-08-20 02:12:51 | 欧州
周囲に「Coffee Shop」が目立つ繁華街で営業する洗濯屋の屋根裏部屋を宿に提供してくれたインド人に礼を言って、夜10時発の夜行バスに乗った。チェコのプラハに到着するのは翌昼過ぎ、約15時間のバスの旅だ。
欧州の鉄道は高いので、欧州を縦横無尽に走るユーロバスを利用する若者やプアーな旅行者が多く、この時期は満席のバスも少なくない。
ネパールやラオスのバスに比べれば、意外な風景に出会える機会は少なく退屈だが、シートの柔らかさや走行のスムーズさはビジネスクラス並。ぐっすりとは言えないが安眠に近い状態で夜を過ごした。

気づくと高速料金所のような施設の前でバスが停車し、紺の制服を着た男性がパスポートを集めに回っていた。珍しい。フィンランドから陸路で欧州を移動し5カ国目だが、国境でパスポートが必要になったのは初めてだ。欧州連合に加盟してはいても社会主義国チェコだからだろうか。
パスポートチェックを待つ間15分間の休憩のアナウンスがあり、乗客はトイレに行ったり、ユーロからチェコクローナに両替したり。やがて、バスに再乗車してバスはチェコに入国・・・のはずだったのだが、全員を乗せたバスは、ゆっくりとパスポートチェックゲートの脇にある小さな倉庫に入っていったのだった。
「全員、手荷物を持ってバスの外に出てください」のアナウンス。そうかあ、パスポートチェックの後は、荷物の赤外線チェックもあるのか。さすがチェコだ、と何の根拠もない予想をしたが、気づくとバス一台分の倉庫の入り口のシャッターは下ろされている。こんな狭い中で乗客を降ろして何をしようとするのか。まだ寝ぼけた頭の中に、数日前に行ったアンネフランクの隠れ家にあったアウシュビッツの展示写真が過ぎった。ここでガスを送り込まれても乗客は抵抗できないだろうな、などとぼんやり思いながら。

バスから降りた乗客は手荷物を床に順番に並べ、置いた者から離れたところにまとまっているように指示された。入国審査にしては重々しい雰囲気だ。それに、取巻いているのは、ブーツ姿の制服を来た警察官だった。乗客は固唾を呑んで沈黙している。やがて、シャッター脇のドアを激しく開けて入ってきたのは、真っ黒な犬を連れた警官だった。犬は激しい息遣いで並べられた手荷物に近づいていく。麻薬犬だった。
警官がひとつひとつの手荷物を犬に近づけていく。犬は激しく息遣いしながら、いくつかのデイパックを激しく掻き開こうとした。掻き開こうとされた荷物は、別の警官が犬から取り上げ、別の場所に持っていく。ひとつひとつ、荷物を犬が回っていく光景を片隅にいる乗客は黙って見ている。きっと緊張している人も居るに違いなかった。当然のことながら、麻薬犬は私の手荷物に関心を示さなかった。
約30人分の乗客の手荷物の麻薬犬チェックが終わった時、取り出されたデイパック類は7つほどあった。
ほっとしたのもつかの間。再び、ドアが開くと、二匹目の犬が入ってきた。


↑問題のなかった者は、倉庫外に解放された。

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