見果てぬ夢

様々な土地をゆっくりと歩き、そこに暮らす人たちに出会い、風景の中に立てば、何か見えてくるものがあるかもしれない。

市役所で結婚式

2007-07-28 22:38:56 | 欧州
コペンハーゲンの市庁舎玄関前に、赤い花と白いリボンで飾られた白いロールスロイスが停まっていた。

人待ち顔で玄関の大きな扉を見ていた白い手袋の運転手が、「結婚式です」とにこやかに言った。「え?」一瞬聞き間違えたかと思ったが、今日が土曜日だと気が付いて思い出した。ストックホルム市庁舎内に「wedding room/結婚の間」があったことを。「毎週土曜日に結婚式が行われます」と、ガイドの女性が柔らかな色彩のフランス刺繍のタペストリーに飾られた小さな部屋を案内した。宗教色を避けたいカップルが、市庁舎結婚式を希望すると言う。毎週20組。市議会議員が司祭役を務め、二人がタペストリーの前で誓いの言葉を交わす。式の時間は1分か3分のどちらかを選べる、というのがストックホルム式の市庁舎結婚式。「市庁舎で結婚式?1分で?」説明を受けたときは、なんと大胆な市民サービスだろうと驚いたのだが、人前でも神前でもない市庁舎式サービスは、ストックホルム市だけではなかったのだ。市庁舎婚式は、北欧では珍しくないという。

見るからに華やかなロールスロイスに目を留めた人々が、庁舎の玄関前を取巻いている。皆、大きな扉を開けて出てくるカップルを待っているのだ。中には花束やカメラを抱えている人もいる。親族や友人たちだろうか。

やがて、小さな歓声と共に花輪を髪に置いた女性と穏やかな表情の男性が扉を押して出てきた。周囲の人たちが祝福の言葉をかけている。すでに女性のお腹には新しい命が息づいているのがわかる。庁舎玄関の階段を降り、ロールスロイスに乗るのだと思いきや、二人は車の横を通りすぎた。「あれ?」と思った瞬間、再び扉が開いて、人々が出て来たカップルを取巻いた。そういえば、ストックホルム市は数分間隔で20組が次々と式を挙げると言っていた。コペンハーゲン市も同様に、土曜日の午後の庁舎前は結婚式オンパレードなのだろう。
次に出てきたカップルは女性同士だった。二人とも肩を出した華やかな純白のドレスとパンツスーツに身を包み、多くの人に祝福されている。同性の結婚を認めるデンマークを羨ましがるカップルも世界には少なくないに違いない。遠巻きに見ている市井の野次馬たちも皆、幸せをお裾分けしてもらったようににこやかな顔になった。
結婚宣誓式と言った方が相応しいシンプルな儀式だが、市役所が、その神聖で厳粛な場として活用されているのは、日本の「市役所」とは、その意義が大きく異なるということなのかもしれない。
*デンマーク・オーデンセ市役所のウエディングルーム
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