見果てぬ夢

様々な土地をゆっくりと歩き、そこに暮らす人たちに出会い、風景の中に立てば、何か見えてくるものがあるかもしれない。

緊張感あふれる傍聴席

2008-09-17 21:16:02 | 北海道の風景
各戸に設置されている無線スピーカーから、町議会開催のお知らせが流れた。
機器は「防災無線」だと思っていたが、そうでもないらしい。
自然災害、食中毒、ヒグマ情報等、生命に関わる警戒放送の他に、町主催の「岬祭り」情報も流れたことがある。
毎日放送されるわけでもないので、「定時放送」でもないようだし、町の主催行事を全て知らせるわけでもない。

まあ、とにかく、「町議会開催」のお知らせは意外だった。その時の放送は、その一点のみだったのだ。
「どなたでも傍聴できます」といつもの青年の声が言い、開始時間が告げられた。
もしかすると、この町の議会は多くの町民が詰め掛ける一大行事なのかもしれない。

少し迷ったが、行ってみることにした。



「傍聴したことがあるけど、二度と行く気にならない。全然落ち着かない雰囲気なんだよ」と夫が言った。
「議会を傍聴するの?勇気あるなあ」と知人が言った。

え?町民が押しかけるわけじゃないの? 勇気が必要な議会とは?
訝しく思いつつ、目立たず失礼にもならない程度の地味な仕度を心がけ、やや緊張しながら町役場の2階の議場へ向った。

行ってみて、二人が言った意味がわかった。



議場はすっきりとしたひとつの平面にすべての席が配置されていた。
傍聴席と議場との間に何の仕切りもない。

傍聴席は、議員の後尾席とほとんど同空間に置かれ、その上、
議員と役場理事者の顔を一望できるように配置されていたのだ。
傍聴人から全員の顔がはっきり見えるということは、当然相手方からもこちらの表情が見えるということだ。

傍聴席に、長机がついているのが救いだった。
かろうじて、その長机が、議場との微かな堺をつくっている。

対面中央に議長席、その両脇に町長を頂上とした4列の理事者席。
理事者席と傍聴席が対面する間に、「ハの字」型対面式に左右6席ずつの議員席が12席並ぶ。



傍聴席の目の前に議長席に向いた議員の発言席がある。
肘掛け椅子付きである。
すべての質問が終わるまで、質問者はその場に座って理事職の答弁を聞くのである。

それにしても、傍聴人に議員の全ての顔がわかるという議場は初めてだった。
多くの自治体では、傍聴人からは議員の背中しか見えない。
だから、居眠りをしていたり野次を飛ばしている議員の顔はほとんど見ることができないのである。

見られている議員も緊張する、見られている傍聴人も緊張する。
議員や町長の発言に頷くだけでも気配が伝わってしまうほどの空間である。
咳払いも、欠伸も、鼻水をかむこともはばかられる。

「落ち着かない」「勇気ある」の言葉の意味を実感した議会だった。
傍聴人も、確かな参加者であり、途中退席などして動こうものなら、
議事の雰囲気を損ねてしまいそうなほどなのだ。

そして、開始直後に議場に足を踏み入れたとき、傍聴席は空であった。
入り口の記者席に記者とカメラマンが1人ずつ。
覚悟を決め、議長の対面ど真ん中に座った。

議事は、予想以上に面白い内容だった。
12月に任期が迫る町長に出馬の意向をどこまでも突っ込んで質問する議員。
質問に対する答えが不十分だとして自分の席に戻らない議員。
浜中町の定例議会の一般質問は、回数が3回と決められてはいたが、
質問の時間制限がないという自由度の高いものだった。

昼食休憩に入るまでの2時間。
終始、理事者や議員とのあまりに近い距離感に戸惑いながら、夢中でメモを取り続けた。
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