ネタバレ映画館

映画ドットコムに記事を移行してます!

出口のない海

2006-09-17 03:40:58 | 映画2006
 俺を軍神にさせてくれ!そうすりゃ靖国に奉られ、少なくとも家族には数十年間軍人恩給が支払われるんだ!

 魔球が夢だった野球青年は後に軍神とされたのかどうかはわからないけど、フォークの達人がハマの大魔神として活躍していたことは記憶に新しい。物語の主人公は甲子園の優勝投手、そして大学野球を続けながらも肩を痛めて魔球を研究していた青年並木(市川海老蔵)。速球はもう投げられないと諦めていたが、彼は魔球開発を夢見て野球に打ち込んでいた。しかし、彼の同級生でマラソン選手の北(伊勢谷友介)が召集令状の届く前に志願したり、中学生でも出陣しているという話を聞くにつれ、自らも志願する道を選んでしまった。

 恋人美奈子(上野樹里)にさえ軍の秘密を漏らすことはできない。特攻で自分が死にゆく身であることすら伝えることができないのです。戦友同士では家族のためにだとか夢を追い求めるためにだと語り合えるのに、正直な心を伝えられないことの悲しさが伝わってきました。終戦間近、日本は負けると皆わかっていた状況下で、「何のために二度と帰れないと知りながら回天に乗ったのか」というテーマが半ば自暴自棄とも思える言動で重くのしかかってきます。

 面白いことに、この映画は戦争の悲惨さを直接的な映像にすることを意図的に避けているように思えます。それが並木の父(三浦友和)の「お前、敵を見たことあるのか?」に集約され、敵だって人間であること、アメリカ人は野球も好きなんだという単純なことを改めて教えてくれます。「国って何だ?」といった問答も、愛国心が議論される現代的なテーマに絡めて考えさせられました。もちろん、当時は「お国のため=天皇のため」ですから、見たこともないので「家族のため、恋人のため」だとしか答えようがありません。

 たまたま朝の連ドラ『純情きらり』が敵国の音楽であるJAZZがテーマとなっているので共通項があって興味深いのですが、どちらも三浦友和が父親であるという偶然も見過ごすわけにはいきません。そのほか、俳優陣の中で気に入ったのが柏原収史。突撃直前の表情が凄まじいものがありました。全体的には抑え目の演出であり、日記の朗読によって補完するような内容だったため、小説を聞かされているような感覚に陥ってしまったのがマイナスポイントでした。それでも人間魚雷=回天についての知識を与えてくれる、戦争を理解するためには必見の映画かと思います。

★★★★・

コメント (15)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« X-MEN ファイナルディシジョン | トップ | バックダンサーズ! »
最新の画像もっと見る

15 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
「国って何だ?」 (でんでん)
2006-09-17 10:22:29
kossyさんこんにちは。

トラックバックありがとうございます。



>「国って何だ?」といった問答も、愛国心が議論される現代的なテーマに絡めて考えさせられました。



近く改憲、憲法9条の見直しが囁かれる中、もう一度原点を考えさせられた思いです。
返信する
こんにちは♪ (ミチ)
2006-09-17 10:28:23
昨年の「男たちの大和」に比べると派手な演出はありませんが、死にゆく若者の無念さなどよく描いてあったと思います。

あのような犬死のような死もまた戦争における死なのですよね。

海老さま、ちょっと老けすぎでした。

キャッチボールもあまり上手くなかったような・・・(汗)



業務連絡:ケータイチェックをお願いいたします
返信する
国を守る、愛する人を守る (祐。)
2006-09-17 10:53:09
大きくなったら軍人になって、敵を倒すと教育され続けた、国民が、天皇が居る国のため、愛する家族のために敵を倒すことは当然だと考える事は普通であったと思う。神風特攻、人間魚雷回天、日の目を見なかったが、人間ミサイル秋水等 兵器化された人間を作り出した国策に問題があると思う。

窮鼠猫を噛むのごとく、現代でも自爆テロが横行している。61年前の日本とほとんど同じ体制の国も今なお存在している。

映画からのメッセージがとても解りにくく、何とでも感じることが出来たので、今回の映画は少し残念だったかなと思いました。
返信する
回天 (たいむ)
2006-09-17 17:16:51
kossyさん、こんばんは。



>人間魚雷=回天についての知識

とにかくこの複雑さにはでした。

人間魚雷という言葉は知っていても、それに纏わる事実など、知らないことはまだまだたくさんあるのだと思いました。



本当の意味での愛国心、あの当時にあったのでしょうか?

自暴自棄が的を射ているような気がしますが・・・。
返信する
国ってなんだ? (kossy)
2006-09-18 08:55:29
>でんでん様

いつもありがとうございます。

愛国心という言葉以前に「国ってなんだ?」と改めて感じさせられました。国のことを考える前に人間がそこに集まっていることを忘れてしまいがちですが、個人よりも国という得体の知れないものを尊重する人が多かったんですよね・・・



>ミチ様

残酷シーンを一切排除した戦争映画も珍しいのかもしれません。敵艦も小さく映し出されるだけの静かな映画。「敵を見たことあるのか?」という隠されたテーマが重みをもって訴えてきたように思いました。

日本が負けることをわかっていながら特攻する気持ちに悲しくなってきました。



>祐。さま

敗戦の色が濃くなってくると、一撃必殺の手段ばかり考えてしまいがち。なんとなくギャンブルに似ています。最後はやけくそですよね。国策自体が自暴自棄で、天皇や軍上層部以外の者は皆捨てごまでした・・・

映画の出来としてはそれほどでもなかったのですが、メッセージは感じ取れました。回天について知る上では貴重な映画だったと思います。



>たいむ様

人間魚雷。ほんとに今まで何も知りませんでした。

太平洋戦争において、知らないことはまだまだ沢山あると思います。秘密を守り通した生き残った軍人さんもだんだん少なくなってきていますが、もっと教えていただきたいと思っています。



愛国心も戦争が始まった頃まではあったと思いますが、末期になると皆自暴自棄だったのでしょうね・・・悲しいことです。
返信する
テーマはよかったね (しんちゃん)
2006-09-18 17:39:55
 やっぱ海老蔵には合わなかった気がするのよね。

もったいない感じがしました。



 戦争のことを否定しないのも最近の傾向かもしれません。
返信する
喫茶店 (かのん)
2006-09-20 00:39:50
私も喫茶店のシーンで「そーいえば『純情きらり』もこの時代なんだなぁ」と思い出していました。店内に流れる「ボレロ」が印象的でラヴェルはドイツ人だって言えばいいにはクスっと笑ってしまいました。



英語は禁止されてたと思うのにキャッチボールとか普通に喋っていたのも印象的でした。あれは野球に対する思いを表す演出なのかな。



日記の朗読はたぶん実際にそういう遺品が数々あるのでそれを表現してるのかなって思いました。
返信する
Unknown (サマンサ)
2006-09-20 01:46:33
チョットご無沙汰してますが、覚えてもらっているのかどうか。久しぶりに映画館に行ってきましたので、報告がてらに映画の感想を。終戦直前の日本社会の行き詰まり、そしてそこで一生懸命生きているそれぞれの人生という感じの映画でしょうか。英語の禁止は、映画で説明されていたのかどうか忘れましたが、回天の操作のときに、「エンジン」という言葉を使わずに、「何とか発動機」とか、全て日本語に置き換えて覚えさせらて、習得の効率を落としている部分にも表れていて、面白かったです。実際、敵に攻撃されてではなく、演習中に戦死した人も多い事実を主人公のストーリーにしたのも、良さげな判断と思いました。ちょうど、日曜日に放映されたTBSのドラマで、やはり回天がモチーフになっていて、しかも上野樹里も出ていたりで、共通項が多かったです。
返信する
海老 (kossy)
2006-09-20 07:38:31
>しんちゃん様

海老さまはやっぱり老けすぎだったでしょうか。

もっと若手の俳優のほうがよかったかもしれませんね。



>かのん様

ラベルの「ボレロ」は知っているのに、実は俺もラベルがフランス人だとわかりませんでした。平気で店内でかけてるんだからドイツ人なんだろうと・・・(汗)

敵国の英語をそのまま使っていたのは、わずかながらの反抗精神だったのか、それとも観客にわかりやすくするためだったのか・・・わかりません。

やっぱり俺は回天に関する知識が不足しています・・・



>サマンサ様

回天の操作手順は複雑すぎですよね。こんな大変なことを覚えてまでして特攻しなければならないなんて、俺には無理です。

特攻機関係の映画は何本か観ていると記憶していますが、練習中の事故や、実戦で途中で帰ってくる映像とか、いい映画がいっぱいありますよね。

日曜日のドラマを見逃したため、今後の再放送の予定をしっかりチェックしておきたいと思います。
返信する
知るための映画 (更紗)
2006-09-20 17:05:41
こんにちは♪



まさに回天を知るための作品でした。

人間魚雷として知ってはいても、知識としては不足でしたし、

予備生が多かったのも、操舵方法の難しさもあったのかもしれませんね。
返信する

コメントを投稿

映画2006」カテゴリの最新記事