そんなわけで、第2ウェーブのお尻の方から、
人ごみを避けてスタートした私は、まずは平泳ぎで様子見。
そして、身体が水になじんだと思った頃に、クロールを開始。
すると、ものの100メートルも行かない頃に、
右足の指先がつりはじめました
練習すると、必ず、というくらい足がつっていた私。
つりに効くと言う漢方薬を入手し、
前の晩も、その日の朝にも、ちゃんと飲んだのです。
でも、やっぱりつり始めました。
もし、両足がひどくつってしまったら、それはその時点でリタイアを意味する、
と思っていました。
その事態はなんとか避けたい。
無意識に、足の裏の向きを変えるべく、
クロールを平泳ぎに変えました。
しばらくして、そろそろいいかなあ~と思って、またクロールを。
でもそうすると、どうも、同じところがつり始める。
まだ指先だけだからよかったものの、
下手をすると、つった部分がふくらはぎ、
そして両足へと拡大しそうでした。
しかたない、やっぱり、困った時の平泳ぎだ。
・・・というわけで、
結局、平泳ぎ→平泳ぎ→平泳ぎ……たまにクロール→平泳ぎ→平泳ぎ……
というリズム(?)が、終盤まで続きました。
手賀沼の水は「お~いお茶」の「お濃い茶」よりもまだ深い緑色。
水中では、自分の手の肘くらいまでしか見えません。
当然、前にいる人も、横にいる人も、後ろにいる人も、
わかりません。
ぶつかって初めて、あるいは乗っかって初めて、または乗っかられて初めて、
そこに人がいる、ということがわかるのです。
そんな有り様でしたから、
「巻き込まれる」ことを極端に恐れていた私は、
手足に誰かが触れたと思ったら、すぐにそこから脇に外れ、
人のいないところ、いないところを通りながら泳ぎました。
「ヘッドアップ」という、前方を確認しながらするブレスの仕方を教えてもらい、
時々それをしてみましたが、
プールのようなコースロープもなく、
クロールをすると、やはりすぐに向かう方向がわからなくなります。
沢山のカヌーの方々がコースの脇で見守ってくださっていて、
違う方角に向かうと、
「そっちじゃない!」と、大きな声をかけてくれました。
本当にそれがなければ、どこまでもコースをそれていって
しまったかもしれません。
途中、折り返し地点を回り、目指す風景が
遠くの鉄塔から、大きな橋に変わりました。
帰りというのは気がラクなものです。
そして早く帰りたくなるものです。
でも、手足に力を入れるとつります。
これまでにいくつかいただいたアドバイスから、
末端に力を入れてはダメ。
力を入れるならお腹(体幹)だ。
と思っていましたので、
ともかく基本のストリームラインの状態を長く維持することを心がけ、
伸びている状態を感じながら、マイペースで進みました。
時間を計っていた時の感覚があったので、
ウェットスーツを着ていて浮いている分、
水が蹴れていないとは思いましたが、
それでも、この感覚で泳いでいれば、時間内に戻ることができるだろう、
そんな思いはありました。
ただ、進み続けなくてはダメだろうな。
休息は無しだな・・・
幸い、大丈夫、まだ行ける。
折り返して半分くらい戻ったところで、そんなふうに思いました。
結局、練習した「仰向け」「背泳ぎ」は出番のないままとなりました。
泳ぎがまだまだ未熟で、これ、という型もマスターしていない私は、
沼を泳ぎながらも、
手はこう動かした方がより進むかな?
頭はもっと沈めないと、水の抵抗が大きいかな?
と、ひとかき、ひと蹴り、そんなことを考えました。
本番も練習も、変わらない状態だったと言えます。
岸辺では、多くの人が応援をしてくれていたりするのだろう、
と思うのですが、
水の中では声も聞こえませんでした。
いちばん近く感じられたのは、水のほかは青い空と白い雲。
特にクロールの時のブレスでは、呼吸の度に、空が見えました。
思えば、そんな自然のど真ん中、陸から離れたところを泳ぐ機会は
そうそうありません。
溺れ死ぬ恐怖があるとは言え、救助態勢も整っている状況ですから、
ほんとに死ぬことは、たぶんなく、
そんな、見守られている中で、
こうして自然をもろに感じつつ(深緑の水ですけど・・・)
のんきに泳いでいられるなんて、贅沢だなあ、と思ったりもしました。
橋を目指して帰って行く復路は、最後に90度曲がって岸を目指します。
桟橋近くのゴールゲートが近づくと、
最後くらいはクロールで泳ぎきりたいと、
ちょっとだけ見栄が頭をもたげました。
そこで、最後の直線コースのほんとの最後の数十メートルだけ、
一生懸命クロールで泳ぎました。
このとき初めて、息が上がりました。
なので、ゴールゲートの旗をくぐったら、即、平泳ぎに(笑)。
桟橋の突端には階段がついています。
そこにたどり着くと、足をかけ、
階段を上り、桟橋に上がりました。
ふらふらで、立てなかったらどうしよう?
と心配でしたが、
陸に足をついたとき、ちゃんと立てることがわかりました。
立てる。そして歩ける。
そして歩き出すと、
我らがコーチで、大会審判長のOさんが、親指を立てて迎えてくれていました。
ちゃんと見守ってくださっていたOコーチ。
ほんとにありがたい!
Oコーチの親指をぎゅっと握ってお礼を言い、
トランジションを目指しました。
幸い、走れそう。走ってもいいよね。よし!
度付きのゴーグルをはずすと目が見えなくなっちゃう私は、
ゴーグルをしたまま、
裸足でトランジションを目指し、小走りに走りました。
トランジションでは、バイク担当のIちゃんが
私を待ち受けていてくれました。
なぜか、私を見つけると、Iちゃんは涙を流しました。
「ああ、ほんとに心配してくれていたんだなあ」
彼女の顔を見た私の方が、感激しました。
へろへろになって、
アンクルバンドは彼女にはずしてもらわないとならないかな、
と思っていましたが、
幸い、その力も残っていました。
アンクルバンドを自分ではずし、
私のエネルギーとエールをすべて込めて
Iちゃんに手渡しました。
私が泳ぎきれたのだから、あなたは絶対大丈夫。
確信以外の何ものもありませんでした。
そして、レースはバイク、そして、ランへ。