からまる | |
千早茜 | |
角川書店(角川グループパブリッシング) |
¥1,500+税 角川書店 2011/2/28発行
ISBN978-4-04-874173-6
あら。
あらららら。
別に期待もしないで手に取ったのだけど、あら、これ、いい。
『魚神』は評判よかったけど個人的にはさほど感心しなかった。
こっちのほうが断然、いい。
七話収録の連作短篇集。っていうか、リレー小説? 登場人物がリンクしていく。
面倒くさいことは嫌いだ。湿った関係は苦手だ。物事は淡いのがいい。
無趣味な地方公務員、武生のアパートには、ときおりやってくる女がいる。蝸牛を飼っているという女の名前を、武生は思い出せない。
役所にバイトに来ている若い女を酔ったはずみで連れ込んだ晩に女とバッティングして以来、ぱたりと足が途絶えた。自分でも驚くくらいにうろたえる。…
「まいまい」
バイト先の役所で気になった男をモノにしたと思ったのに、けっきょくふられた。
また失恋した。あたしはいつも男に軽く扱われる。
クラゲの血って何色なんだろう? いつまでもふらふらしているあたしはクラゲみたいだ。きっとあたしの血は赤くないから、傷ついても誰も気づいてくれないんだ。
「ゆらゆらと」
武生の上司の係長は、穏やかで、いつも笑顔を絶やさない。
それは家庭においてもそのままで、妻が浮気を告白したときも、怒る機会を逸したままだった。
ある日、趣味の釣りに出かけたところ、見知らぬ女子高生が近づいてきた。
餌のアオイソメを見て、からまってるね、と言う。見ていると不安になる。…
「からまる」
不安を抱えて、それを無関心で隠して、関係性を否定して、けれど本当は求めてて、人とのふれあいは暖かく、けれど怖い。
海の底から見上げた海面がゆらゆらと光を屈折させているのを見るような、ベール越しのような、皮膚感覚を覚える。
これは…ちょっと、好みだ。
まだ著作が少ないから、これから先どう進むのかまだよくわからないところを含めて、気になる作家。