アインシュタイン選集(2):一般相対性理論の基礎(1916年): B
[A3] 一般相対性理論の基礎(1916年)
B. 一般共変方程式に対する数学的準備
ここは一般相対性理論で使う数学を説明した箇所なので、内容の本質は数式の展開そのものだ。お約束したとおり文章だけで概説したのだが、アインシュタインはこのような数学を使ったのだなという程度でお読みいただければ、内容を理解できなくても結構である。(というか数式なしに文章だけで理解することは無理なので。)
曲がった4次元の時空を数式でどのように表現するかということについてはアインシュタインも数学を勉強しなおさなければならなかった。それは単に特定の曲がり方を表現するのではなく、どのような曲がり方をした時空も1つの表現方法で一般的な形で記述されていなければならないからだ。たとえば円柱の側面と球面の方程式は普通は別々の2つの方程式として書くが、両方とも1つの式で表すような方法を見つけるのよりも一般性が求められる。彼が苦労してマスターしたのが、ガウスの曲面論とリーマン幾何学(非ユークリッド幾何学)だった。リーマン幾何学が一般相対性理論の核心である。
曲がった時空が微小な斜交4次元空間が4つの座標軸の方向に無数につながったものとして考えることは前のセクションで説明した。いま、こうした座標系の1つから新しい座標系に座標変換をしたとき、この両座標系の間の関係が与えられているとする。
任意の座標系を基準にしてある複数の量の組み合わせがある個数の座標変数の関数によって表されているとする。この複数の量の組み合わせとは「テンソル」と呼ばれ、行列の一般化のようなイメージである。行列は行と列という2つの添え字で成分を表すのに対し、テンソルは任意の個数の添え字を使って成分を表わすものだ。たとえば3つの添え字i,j,kをつかって表されるものは「3階のテンソル」などと呼ぶ。これは3つの添え字が決まると1つの値が決まってくるという意味だ。
行列は1次変換のような図形の幾何学的な変換結びつけてイメージさせることができるが、一般のテンソルは幾何学的なイメージや物理的現象と結びつけることはできない。けれども構造力学の計算で使う「応力テンソル」など特別なテンソルが物理的な意味と結びつけて考えることができる。
数、ベクトルや行列を一般化したテンソルという数学表現を導入することで、複数の数、ベクトルや行列をひとかたまりに取り扱い、演算ができるようになった。理論を展開していく上での計算の煩雑さは大幅に軽減されることになる。それでも計算手順はものすごく複雑であるのだが。
テンソルの階数は行列でいう次元数とは異なることに注意いただきたい。テンソル自体も和や積、微分などの代数的な演算をほとこすことができる。アインシュタインはこのような数学的な道具を使ってある斜交座標系から別の斜交座標系への一般的な座標変換を数式で表現した。
§5 反変および共変ベクトル
このセクションでアインシュタインは斜交空間での長さの基準となる物差しを反変ベクトルと共変ベクトルという2通りの方法で用意した。
直交空間においてベクトルの成分はそれぞれの座標軸に垂線を下ろしてその値を読むことで1通りの式で表現される。ところが斜交空間の場合、ベクトルを座標軸に射影して成分で表現しようとすると2通りの方法があることがわかる。それが共変成分という射影方法と反変成分という射影方法だ。
共変成分というのはベクトルからそれぞれ座標軸に平行になるような線を下ろして座標軸との交点をベクトルの成分として読み取る方法だ。このとき斜交座標であるため座標軸に下ろした線と座標軸は直角にはならない。
反変成分というのはベクトルからそれぞれの座標軸に垂線を下ろして座標軸との交点をベクトルの成分として読み取る方法だ。もちろん垂線を下ろしたわけだから、それぞれの座標軸に下ろした垂線と座標軸は直交している。
直交座標では共変成分と反変成分は一致するのでこれらを区別する必要はない。ベクトルの共変成分と反変成分は斜交座標のときだけでてくる座標の成分表示の方法だ。
斜交空間の任意のベクトルは、共変成分の1次結合(線形結合)を使っても、反変成分の1次結合(線形結合)をつかっても1通りの方法で表すことができる。数学的な表記上の約束事なのだが、反変成分のそれぞれの要素を表す添え字は座標変数の右上に書き、その1次結合で表されるベクトルを反変ベクトルと呼ぶ。また、共変成分のそれぞれの要素を表す添え字は座標変数の右下に書き、その1次結合で表されるベクトルを共変ベクトルと呼ぶことにする。反変ベクトルも共変ベクトルもテンソルとしての性質を持っていることは、計算によって導くことができる。
位置ベクトルや速度ベクトルは反変ベクトルの例であり、例えば静電ポテンシャルの空間微分として定義される電場は共変ベクトルである。反変ベクトルと共変ベクトルは、計量テンソルg(u,v)を用いて互いに変換することができる。
§6 2階および高階テンソル
反変テンソル
4次元の斜交空間で反変ベクトルの成分は4つである。別の反変ベクトルとの積をとると、その結果は4x4の16個の値から構成されるテンソルとなる。このテンソルは添え字が右上につく反変テンソルとなり添え字は右上に2つ付くので2階のテンソルである。反変テンソルの積を次々にとることによってより高階の反変テンソルをつくることができる。
共変テンソル
同様に共変ベクトルの成分も4つで、別の共変テンソルとの積をとることで16個の値から構成される2階の共変テンソルをつくることができる。共変テンソルの添え字は2つあり、テンソルの右下に書く。
対称テンソル
2階または高階の反変テンソルや共変テンソルは、それらの成分の添え字のうちの任意の2個を入れ替えてもその成分の値が変わらないときに「対称テンソル」と呼ばれる。
反対称テンソル
2階または高階の反変テンソルや共変テンソルは、それらの成分の添え字のうちの任意の2個を入れ替えたとき、成分の値がもとの成分の値の符号を逆にしたものとなるときに「反対称テンソル」と呼ばれる。
§7 テンソルの積
2つのテンソルについて外積を定義することができる。テンソルの成分どうしの可能な組み合わせの積を要素とするテンソルが導かれるので、2つのテンソルの外積は2つのテンソルのそれぞれの階数を加えた階数のテンソルとなる。
反変テンソルは添え字を上に持ち、共変テンソルは添え字を下に持つので、その2つの外戚をとると添え字を上と下に持つテンソルとなり、これは「混合テンソル」と呼ばれる。
混合テンソルの縮約
任意の混合テンソルからその成分の1つの反変性添え字と1つの共変性添え字を等しくおいて、さらにこの添え字について1から4までの和をとること(縮約という)によって2階だけ低い階数のテンソルをつくることができる。これを混合テンソルの縮約と呼び、縮約したテンソルもテンソルの性質を保持している。
テンソルの内積および混合積
テンソルの外積と縮約の混合によってテンソルの内積や混合積と呼ばれるものをつくることができ、これらもテンソルの性質を保持している。
2階共変テンソルと1階反変テンソルの外積をとると混合テンソルができ、添え字を縮約することによって共変ベクトルが得られる。これをこの共変テンソルと反変テンソルの内積と呼ぶ。
2階の共変テンソルと2階の反変んテンソルの外積をつくり、続いて2回縮約を行うと内積が導かれる。外積と1回の縮約では2階の混合テンソルが計算され、このような操作を混合積と呼ぶ。
§8 基本テンソルg(u,v)に関する二、三の性質
これまで計量行列として紹介してきたg(u,v)は、実はテンソルとしての性質を満たしているので、これからはg(u,v)を計量テンソルとして扱うことにする。
共変基本テンソル
線素の2乗に対する不変式(4次元時空のピタゴラスの定理)において、2次形式を構成する座標成分はそれぞれ添え字を右上にもつ反変ベクトルとなる。またg(u,v)は2階共変テンソルとなる。(2つの添え字は右下につける。)添え字が上についたg(u,v)を共変基本テンソルと呼ぶことにする。
反変基本テンソル
g(u,v)の添え字を右下につけた反変基本テンソルというのも考えることができる。これと共変基本テンソルの間には逆行列のような関係がある。
基本テンソルの行列式の変換規則を求めると、2つの4次元時空の微小体積素片の間の比例定数をヤコビの行列式の形で表すこととなり、これは基本テンソルg(u,v)の行列式に負号をつけたものの平方根になる。
§9 測地線の方程式(質点の運動方程式)
4次元時空のピタゴラスの定理で、微小な線素dsをとりあげ、これは座標系の選び方に無関係な一定の値をとることを説明した。4次元時空の中の2点P1とP2を結ぶ曲線でdsの積分が極値を持つような曲線を測地線と呼び、これも座標系に無関係な意味を持つ。この測地線とは曲がった4次元時空における2点間の最短経路の曲線であり、直行空間では直線となる。
「曲線となるdsの積分が極値をとる。」という積分方程式に対してアインシュタインは変分法をという数学上のテクニックを使って、測地線の微分方程式を導いた。最終的に導かれた微分方程式には「クリストッフェルの記号」という略記法を使ってより短い微分方程式で測地線を表現した。
測地線の微分方程式には時空の各点の微小な線素の反変成分の線素dsの2階微分、各点の曲がりを表す共変計量テンソルg(u,v)をその点における線素の反変成分で偏微分したものが含まれている。このような式だ。
測地線についての解説はこのページがわかりやすい。
§10 微分によるテンソルの形成
測地線の方程式を手本にして、テンソルを微分して新しいテンソルを作る方法を簡単に導き出すことができる。それによってはじめて「一般共変的な」微分方程式をつくることができるのである。
テンソルさえまだよくわかっていないのにその微分だなんてまったくわからないと思うだろうが。一般相対性理論を学ぶ人にとって最初の難関がテンソルであり、そしてその微分なのである。
微分というのは「点をちょっとだけ動かしたときにどうなるか。」ということを計算するものである。曲がった空間で点をちょっと動かすと、動いた分の変化だけでなく動いた先の座標系もちょっとだけ変化しているので、その変化分も加えてあげなければいけないのだ。数学的にはベクトルやテンソルを微分するという計算をする。
曲がった空間でベクトルやテンソルを微分するときはその反変成分や共変成分を共変微分することによって計算することができる。その過程で前のセクションで説明したテンソル計算の数々の手法が必要になるのだ。
計算の結果、テンソルの共変微分という演算はテンソルの演算だけであらわすことが帰結される。
アインシュタインの実際の論文では、この部分について共変ベクトルの微分は曲がった空間における勾配(Grad)として紹介し、共変微分によって導出されるのは2階共変テンソルであることを示している。そしてさらに共変微分することによって、より高階のテンソルが形成されることを示した。
ベクトルの共変微分についての解説はこのページがわかりやすい。
§11 二、三の重要な関係式
今後の理論展開で必要になるいくつかの関係式を解説した箇所である。数式を具体的にあげることはできないので、解説されている項目だけ紹介するにとどめる。
まず、反変基本テンソルg(u,v)と共変基本テンソルg(u,v)の間の微分形式による関係をクリストッフェルの記号Γ(接続係数)を使った形で導出している。
次に反変ベクトルの発散(Div)と回転(Rot)を反変ベクトルや共変ベクトルおよび基本テンソルg(u,v)で表すことについて説明している。
前のセクションのテンソルの共変微分で説明した3階のテンソルを導出式を2階の反対称テンソルに応用して6元ベクトルの反対称共変成分と6元ベクトルの発散(Div)を計算した。また、その途中の計算式から2階混合テンソルの発散もテンソルとして計算できることを示した。
§12 リーマン・クリストッフェルのテンソル
さらなるテンソルの計算を続けることにより、アインシュタインは「リーマン・クリストッフェルのテンソルR」と呼ばれるテンソルを導いた。これは「リーマンの曲率テンソルR」とも呼ばれる。
このテンソルの意味は次のようなものだ。いま、曲がった時空のある領域にわたって基本テンソルg(u,v)が定数になるように座標系を選ぶことができたとすると、その領域内でリーマン・クリストッフェルRのテンソルはすべての成分が0となる。
次にこのような具合のよい座標系のかわりに、新しい勝手な座標系を設けると、この系を基準にすれば基本テンソルg(u,v)はこの領域内でも、もはや定数とはなりえない。しかし、リーマン・クリストッフェルのテンソルのテンソル性のために、この任意に選ばれた座標系を基準としても、その成分はすべて0となる。
したがって、この成分がすべて0となることは、座標系を適当に選んでg(u,v)の値を定数となるようにすることのできるための1つの必要条件だ。
つまり、時空内のある有限の広がりをもった領域内で、適当な座標系を選んだ際に、特殊相対性理論が成立する場合ということになる。
関連リンク:
この記事で説明している数学の概念、用語について詳しく知りたい方はこの記事を参照。
アインシュタイン選集(1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559
アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e
時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e
少年の頃の夢(の続き)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a6e4b9271cd56b2e85c3bdaa0b8b7cae
とね書店:
アインシュタイン選集(1)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030192/503-5691539-3879144
アインシュタイン選集(2)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030206/503-5691539-3879144
アインシュタイン選集(3)
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[A3] 一般相対性理論の基礎(1916年)
B. 一般共変方程式に対する数学的準備
ここは一般相対性理論で使う数学を説明した箇所なので、内容の本質は数式の展開そのものだ。お約束したとおり文章だけで概説したのだが、アインシュタインはこのような数学を使ったのだなという程度でお読みいただければ、内容を理解できなくても結構である。(というか数式なしに文章だけで理解することは無理なので。)
曲がった4次元の時空を数式でどのように表現するかということについてはアインシュタインも数学を勉強しなおさなければならなかった。それは単に特定の曲がり方を表現するのではなく、どのような曲がり方をした時空も1つの表現方法で一般的な形で記述されていなければならないからだ。たとえば円柱の側面と球面の方程式は普通は別々の2つの方程式として書くが、両方とも1つの式で表すような方法を見つけるのよりも一般性が求められる。彼が苦労してマスターしたのが、ガウスの曲面論とリーマン幾何学(非ユークリッド幾何学)だった。リーマン幾何学が一般相対性理論の核心である。
曲がった時空が微小な斜交4次元空間が4つの座標軸の方向に無数につながったものとして考えることは前のセクションで説明した。いま、こうした座標系の1つから新しい座標系に座標変換をしたとき、この両座標系の間の関係が与えられているとする。
任意の座標系を基準にしてある複数の量の組み合わせがある個数の座標変数の関数によって表されているとする。この複数の量の組み合わせとは「テンソル」と呼ばれ、行列の一般化のようなイメージである。行列は行と列という2つの添え字で成分を表すのに対し、テンソルは任意の個数の添え字を使って成分を表わすものだ。たとえば3つの添え字i,j,kをつかって表されるものは「3階のテンソル」などと呼ぶ。これは3つの添え字が決まると1つの値が決まってくるという意味だ。
行列は1次変換のような図形の幾何学的な変換結びつけてイメージさせることができるが、一般のテンソルは幾何学的なイメージや物理的現象と結びつけることはできない。けれども構造力学の計算で使う「応力テンソル」など特別なテンソルが物理的な意味と結びつけて考えることができる。
数、ベクトルや行列を一般化したテンソルという数学表現を導入することで、複数の数、ベクトルや行列をひとかたまりに取り扱い、演算ができるようになった。理論を展開していく上での計算の煩雑さは大幅に軽減されることになる。それでも計算手順はものすごく複雑であるのだが。
テンソルの階数は行列でいう次元数とは異なることに注意いただきたい。テンソル自体も和や積、微分などの代数的な演算をほとこすことができる。アインシュタインはこのような数学的な道具を使ってある斜交座標系から別の斜交座標系への一般的な座標変換を数式で表現した。
§5 反変および共変ベクトル
このセクションでアインシュタインは斜交空間での長さの基準となる物差しを反変ベクトルと共変ベクトルという2通りの方法で用意した。
直交空間においてベクトルの成分はそれぞれの座標軸に垂線を下ろしてその値を読むことで1通りの式で表現される。ところが斜交空間の場合、ベクトルを座標軸に射影して成分で表現しようとすると2通りの方法があることがわかる。それが共変成分という射影方法と反変成分という射影方法だ。
共変成分というのはベクトルからそれぞれ座標軸に平行になるような線を下ろして座標軸との交点をベクトルの成分として読み取る方法だ。このとき斜交座標であるため座標軸に下ろした線と座標軸は直角にはならない。
反変成分というのはベクトルからそれぞれの座標軸に垂線を下ろして座標軸との交点をベクトルの成分として読み取る方法だ。もちろん垂線を下ろしたわけだから、それぞれの座標軸に下ろした垂線と座標軸は直交している。
直交座標では共変成分と反変成分は一致するのでこれらを区別する必要はない。ベクトルの共変成分と反変成分は斜交座標のときだけでてくる座標の成分表示の方法だ。
斜交空間の任意のベクトルは、共変成分の1次結合(線形結合)を使っても、反変成分の1次結合(線形結合)をつかっても1通りの方法で表すことができる。数学的な表記上の約束事なのだが、反変成分のそれぞれの要素を表す添え字は座標変数の右上に書き、その1次結合で表されるベクトルを反変ベクトルと呼ぶ。また、共変成分のそれぞれの要素を表す添え字は座標変数の右下に書き、その1次結合で表されるベクトルを共変ベクトルと呼ぶことにする。反変ベクトルも共変ベクトルもテンソルとしての性質を持っていることは、計算によって導くことができる。
位置ベクトルや速度ベクトルは反変ベクトルの例であり、例えば静電ポテンシャルの空間微分として定義される電場は共変ベクトルである。反変ベクトルと共変ベクトルは、計量テンソルg(u,v)を用いて互いに変換することができる。
§6 2階および高階テンソル
反変テンソル
4次元の斜交空間で反変ベクトルの成分は4つである。別の反変ベクトルとの積をとると、その結果は4x4の16個の値から構成されるテンソルとなる。このテンソルは添え字が右上につく反変テンソルとなり添え字は右上に2つ付くので2階のテンソルである。反変テンソルの積を次々にとることによってより高階の反変テンソルをつくることができる。
共変テンソル
同様に共変ベクトルの成分も4つで、別の共変テンソルとの積をとることで16個の値から構成される2階の共変テンソルをつくることができる。共変テンソルの添え字は2つあり、テンソルの右下に書く。
対称テンソル
2階または高階の反変テンソルや共変テンソルは、それらの成分の添え字のうちの任意の2個を入れ替えてもその成分の値が変わらないときに「対称テンソル」と呼ばれる。
反対称テンソル
2階または高階の反変テンソルや共変テンソルは、それらの成分の添え字のうちの任意の2個を入れ替えたとき、成分の値がもとの成分の値の符号を逆にしたものとなるときに「反対称テンソル」と呼ばれる。
§7 テンソルの積
2つのテンソルについて外積を定義することができる。テンソルの成分どうしの可能な組み合わせの積を要素とするテンソルが導かれるので、2つのテンソルの外積は2つのテンソルのそれぞれの階数を加えた階数のテンソルとなる。
反変テンソルは添え字を上に持ち、共変テンソルは添え字を下に持つので、その2つの外戚をとると添え字を上と下に持つテンソルとなり、これは「混合テンソル」と呼ばれる。
混合テンソルの縮約
任意の混合テンソルからその成分の1つの反変性添え字と1つの共変性添え字を等しくおいて、さらにこの添え字について1から4までの和をとること(縮約という)によって2階だけ低い階数のテンソルをつくることができる。これを混合テンソルの縮約と呼び、縮約したテンソルもテンソルの性質を保持している。
テンソルの内積および混合積
テンソルの外積と縮約の混合によってテンソルの内積や混合積と呼ばれるものをつくることができ、これらもテンソルの性質を保持している。
2階共変テンソルと1階反変テンソルの外積をとると混合テンソルができ、添え字を縮約することによって共変ベクトルが得られる。これをこの共変テンソルと反変テンソルの内積と呼ぶ。
2階の共変テンソルと2階の反変んテンソルの外積をつくり、続いて2回縮約を行うと内積が導かれる。外積と1回の縮約では2階の混合テンソルが計算され、このような操作を混合積と呼ぶ。
§8 基本テンソルg(u,v)に関する二、三の性質
これまで計量行列として紹介してきたg(u,v)は、実はテンソルとしての性質を満たしているので、これからはg(u,v)を計量テンソルとして扱うことにする。
共変基本テンソル
線素の2乗に対する不変式(4次元時空のピタゴラスの定理)において、2次形式を構成する座標成分はそれぞれ添え字を右上にもつ反変ベクトルとなる。またg(u,v)は2階共変テンソルとなる。(2つの添え字は右下につける。)添え字が上についたg(u,v)を共変基本テンソルと呼ぶことにする。
反変基本テンソル
g(u,v)の添え字を右下につけた反変基本テンソルというのも考えることができる。これと共変基本テンソルの間には逆行列のような関係がある。
基本テンソルの行列式の変換規則を求めると、2つの4次元時空の微小体積素片の間の比例定数をヤコビの行列式の形で表すこととなり、これは基本テンソルg(u,v)の行列式に負号をつけたものの平方根になる。
§9 測地線の方程式(質点の運動方程式)
4次元時空のピタゴラスの定理で、微小な線素dsをとりあげ、これは座標系の選び方に無関係な一定の値をとることを説明した。4次元時空の中の2点P1とP2を結ぶ曲線でdsの積分が極値を持つような曲線を測地線と呼び、これも座標系に無関係な意味を持つ。この測地線とは曲がった4次元時空における2点間の最短経路の曲線であり、直行空間では直線となる。
「曲線となるdsの積分が極値をとる。」という積分方程式に対してアインシュタインは変分法をという数学上のテクニックを使って、測地線の微分方程式を導いた。最終的に導かれた微分方程式には「クリストッフェルの記号」という略記法を使ってより短い微分方程式で測地線を表現した。
測地線の微分方程式には時空の各点の微小な線素の反変成分の線素dsの2階微分、各点の曲がりを表す共変計量テンソルg(u,v)をその点における線素の反変成分で偏微分したものが含まれている。このような式だ。
測地線についての解説はこのページがわかりやすい。
§10 微分によるテンソルの形成
測地線の方程式を手本にして、テンソルを微分して新しいテンソルを作る方法を簡単に導き出すことができる。それによってはじめて「一般共変的な」微分方程式をつくることができるのである。
テンソルさえまだよくわかっていないのにその微分だなんてまったくわからないと思うだろうが。一般相対性理論を学ぶ人にとって最初の難関がテンソルであり、そしてその微分なのである。
微分というのは「点をちょっとだけ動かしたときにどうなるか。」ということを計算するものである。曲がった空間で点をちょっと動かすと、動いた分の変化だけでなく動いた先の座標系もちょっとだけ変化しているので、その変化分も加えてあげなければいけないのだ。数学的にはベクトルやテンソルを微分するという計算をする。
曲がった空間でベクトルやテンソルを微分するときはその反変成分や共変成分を共変微分することによって計算することができる。その過程で前のセクションで説明したテンソル計算の数々の手法が必要になるのだ。
計算の結果、テンソルの共変微分という演算はテンソルの演算だけであらわすことが帰結される。
アインシュタインの実際の論文では、この部分について共変ベクトルの微分は曲がった空間における勾配(Grad)として紹介し、共変微分によって導出されるのは2階共変テンソルであることを示している。そしてさらに共変微分することによって、より高階のテンソルが形成されることを示した。
ベクトルの共変微分についての解説はこのページがわかりやすい。
§11 二、三の重要な関係式
今後の理論展開で必要になるいくつかの関係式を解説した箇所である。数式を具体的にあげることはできないので、解説されている項目だけ紹介するにとどめる。
まず、反変基本テンソルg(u,v)と共変基本テンソルg(u,v)の間の微分形式による関係をクリストッフェルの記号Γ(接続係数)を使った形で導出している。
次に反変ベクトルの発散(Div)と回転(Rot)を反変ベクトルや共変ベクトルおよび基本テンソルg(u,v)で表すことについて説明している。
前のセクションのテンソルの共変微分で説明した3階のテンソルを導出式を2階の反対称テンソルに応用して6元ベクトルの反対称共変成分と6元ベクトルの発散(Div)を計算した。また、その途中の計算式から2階混合テンソルの発散もテンソルとして計算できることを示した。
§12 リーマン・クリストッフェルのテンソル
さらなるテンソルの計算を続けることにより、アインシュタインは「リーマン・クリストッフェルのテンソルR」と呼ばれるテンソルを導いた。これは「リーマンの曲率テンソルR」とも呼ばれる。
このテンソルの意味は次のようなものだ。いま、曲がった時空のある領域にわたって基本テンソルg(u,v)が定数になるように座標系を選ぶことができたとすると、その領域内でリーマン・クリストッフェルRのテンソルはすべての成分が0となる。
次にこのような具合のよい座標系のかわりに、新しい勝手な座標系を設けると、この系を基準にすれば基本テンソルg(u,v)はこの領域内でも、もはや定数とはなりえない。しかし、リーマン・クリストッフェルのテンソルのテンソル性のために、この任意に選ばれた座標系を基準としても、その成分はすべて0となる。
したがって、この成分がすべて0となることは、座標系を適当に選んでg(u,v)の値を定数となるようにすることのできるための1つの必要条件だ。
つまり、時空内のある有限の広がりをもった領域内で、適当な座標系を選んだ際に、特殊相対性理論が成立する場合ということになる。
関連リンク:
この記事で説明している数学の概念、用語について詳しく知りたい方はこの記事を参照。
アインシュタイン選集(1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559
アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e
時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e
少年の頃の夢(の続き)
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またままコメントありがとうございます。
> このアインシュタイン関連とか…一定量書き溜ると、本とか> 出来そうですねo(^-^)o
形としての本は作ることができそうですが、出版社もよほど売れる見込みがないと出さないと思いますよ。残念ながら日本ではこの分野の本って裾野がかなり狭いですし。。
またお金をとって販売するとなると、一般の読者はもちろんこの分野の学者や研究者からの厳しい目にさらされてしまいます。(おっかないなー。)
そういう意味で会社員をしながらこの「EMANの物理学」を出版された広江さんという方は素晴らしいと思います。
EMANの物理学:
http://homepage2.nifty.com/eman/
ブログって書くほうも読むほうもタダだから、多少の間違いや稚拙さが残っていても許されてしまうから気楽ですね。
> あ…内容からすると、
> 英語の方がたくさんの人が読んでくれそうですかね?
そりゃそうですね。でも、まず僕は英語ブログで日常的な記事を書かなきゃ。。。英語の記事書くのってエネルギーつかいますよ。。。
いまだに僕の英語ブログはこの状態です。。。
英語ブログが消されてしまった!!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/33b1d76b958231a8f3a8fe8152e800b2
このアインシュタイン関連とか…一定量書き溜ると、本とか出来そうですねo(^-^)o
あ…内容からすると、
英語の方がたくさんの人が読んでくれそうですかね?
> さすがに、
> これにはコメントが出来ませぬ(;_;)
と言いつつ、しっかりコメント投稿してるじゃないですか!(笑)
外国人から英語で道を聞かれたときに、「I can't speak English!」と答えるのと同じようなものですね。(笑)
この記事の続きはもうすぐ書く予定です。
僕が今回なかなか記事にできなかったのは、このように数学オンリーの箇所だったので、どこまで深く正確に記事にするか決めかねていたからです。結局かなり浅い内容の記事にすることに決着して、とりあえず前に進むことにしたわけです。
さすがに、
これにはコメントが出来ませぬ(;_;)