アインシュタイン選集(2): [A3]:一般相対性理論の基礎(1916年): C
C: 重力場の理論
§13 重力場内にある質点の運動方程式、重力の数式的表現
曲がった時空の幾何学を記述するためにテンソルをはじめとしたいくつかの数学の道具を得たアインシュタインは、次にそのような時空に存在する質点や重力を数式で表現することを試みた。
特殊相対性理論によれば、質点は外から力を受けない限り直線上を一定の速度で運動する。4次元時空でも同様に運動は直線となる。そして、そのときその領域内で計量テンソルg(u,v)を構成する10個の値(一般には関数)は特別な定数となるような座標系K0を選ぶことができる。
この運動を任意に選ばれた他の座標系K1を基準にして考えると、「§2任意の重力場における質点の運動方程式および重力場の表現法」で考察したように、あたかも1つの重力場内で運動しているように見える。
つまりこの運動は座標系K0から見たときは直線かつ測地線になっていて、測地線というものは基準となる座標系に無関係に定義されるから測地線の方程式は座標系K1から見たときにの質点の運動方程式にもなっているのである。
このような考察のもとアインシュタインはクリストッフェルの記号Γ(接続係数)を使って座標系K1から見た測地線の方程式=質点の運動方程式を求めた。もしクリストッフェルの記号Γ(接続係数)の値が0であれば、質点は等速直線運動をする。つまりこの記号の値は運動が直線的であるということからの「ずれ」を意味していて、つまりこの記号(テンソル)を構成する成分は重力場の成分(力の成分)ということになる。
§14 物質が存在しないときの重力場の方程式
宇宙には天体などの「物質」があるのにアインシュタインはどうして物質が存在しない場合を考えたのか不思議に思うのは当然だ。この疑問は後に「物質が存在する場合の重力場の方程式」を導く過程で明らかになる。
アインシュタインの理論では「重力場」と「物質」を次のように区別する。つまり重力場以外のものはすべて「物質」と呼ぶ。普通の意味での物質ばかりでなく電磁場も物質の中に含めて考えるのだ。
物質が存在しないときの重力場の方程式を求めるためには前のセクションで質点の運動方程式を求めたのと同じ方法を使う。つまり特殊相対性理論が成り立つ座標系K0でももちろん成り立つ。数式は紹介できないが、アインシュタインはクリストッフェルの記号Γ(接続係数)と計量テンソルg(u,v)を用いた方程式を導いた。
この運動方程式は第1近似ではニュートンの引力の法則を表している。また第2近似まで考えると水星の近日点の移動(他の惑星による摂動を起源とする修正を行ったあとに残る移動量)を説明することができる。これらによりこの運動方程式が物理的に正しいことが保証されるのである。
§15 重力場に対するハミルトン関数、運動量・エネルギー保存則
前のセクションで求められた重力場の方程式から4次元の時空でも運動量・エネルギー保存側が導かれるのは僕には驚きであった。けれどもニュートン力学でも重力方程式から運動量やエネルギー保存則が導かれることに思い至ると一般相対性理論でも当然そうなるべきだ。
解析力学の手法を使ってアインシュタインは物質が存在しないときの重力場の方程式をハミルトン関数を使って表現した。
1ページほどの数式変形の後、彼は運動量・エネルギー保存則を示す方程式にたどり着く。
具体的な式を示さないので理解できないと思うが、彼はこの運動量・エネルギー保存則の式を3次元体積Vにわたって積分し、エネルギーを成分にもつテンソルを使った方程式に書き直しておく。次のセクションの準備のためだ。
§16 重力場の方程式の一般形式
物質が存在する一般の場合の重力場の方程式を導くことがこのセクションだ。前のセクションで求めた「物質が存在しない場合の重力場の方程式」とは、いわばニュートン力学における「物質密度ρを0においたポアッソンの方程式」
△ψ=0(△=ラプラシアン)
に対応するものだ。物質が存在するときにポアッソンの方程式は
△ψ=4πKρ
であるから、これに対応するものを一般相対性理論における重力場の方程式として求めればよいことになる。ポアッソンの方程式は電磁気学の静電場についての基本方程式である。あえてこれに重力場を対比させたのがアインシュタインの独創だ。重力場が中心から離れるにしたがって弱くなる重力ポテンシャルの減衰曲線と、点電荷から離れるにしたがって弱くなる静電ポテンシャルの減衰曲線が同じということ、そして物質密度を電荷密度に対応させて考えたわけである。
僕のコメント: 重力場を静電場と対比せたことはアインシュタインが重力の発生するメカニズムを解明していないことを同時に物語っていることに注意すべきだ。また一般相対性理論を構築するにあたって前提とした「重力と慣性力は区別できない。」とする等価原理についても、重力と慣性力の間の関係を示しただけで重力の発生メカニズムについては何ら解き明かしてはいない。
ところで特殊相対性理論によれば、E=mc^2であるから慣性質量はエネルギーと同一である。つまり一般相対性理論におけるポアッソンの方程式は数学的にはひとつの対称2階テンソルであるエネルギー・テンソルによって表現されることを意味している。
物質が存在する場合、エネルギー・テンソルが重力場の方程式にどのような形で入るべきかは前のセクション「物質が存在しない場合のエネルギー・テンソルの方程式」によって類推することができる。これがわざわざ「物質が存在しな場合」を最初に考えた理由なのだ。
物質が存在する場合の代表例として太陽系のような「完全系」を考えたとき、その全重力的な作用、つまりこの物理系の全エネルギーは物質によるエネルギーと重力場のエネルギーの総和である。だから前のセクションにおけるエネルギー成分 t というテンソルのかわりに物質と重力場の両方のエネルギー成分の和 t+T を導入すればよい。
アインシュタインはこのようにして物質が存在する場合の重力場の方程式をエネルギー・テンソル(混合テンソル)、クリストッフェルの記号Γ(接続係数)、計量テンソルg(u,v)を使って表すことに成功した。(以下の式のRとTはΓとg(u,v)から導かれる。)
けれどもこのような物質のエネルギー・テンソルの導入の仕方は単に相対性の要請からでは正当化されないことに注意しなければならない。ここでは重力場のエネルギーは他のどのようなエネルギーとも同じ形の重力的作用を持つべきであるという要請を用いたにすぎないからだ。導かれた方程式が正当なものであるという根拠はむしろ全エネルギー成分に対してエネルギーおよび運動量保存則が成立することであると言ったほうがいいだろう。
§17 一般の場合の保存則
前のセクションで求めた重力場の方程式をアインシュタインはさらに変形して、よりシンプルな形で運動量およびエネルギーの保存則を求めた。
§18 物質の運動量・エネルギーの法則
これまでに導いてきた運動量・エネルギー保存則は、実は時空の4次元を含めた意味で4元運動量や4元エネルギーが保存されていることを意味している。つまり一般相対性理論では普通の3次元空間での運動量やエネルギーの保存法則は成り立っていない。
アインシュタインはこれまでに導いた方程式を変形して重力場から物質へのエネルギー的影響を数式で示した。
さらなる計算により求めた4つの方程式は重力場の方程式は同時に物理現象が従わなければならない4つの条件を与える。したがって物理現象が4個の互いに独立な微分方程式によって記述されるのならば、重力場の方程式は物理現象を記述する方程式を完全に与えることになるのである。
ここに至って一般相対性理論はひとまず完成したことになる。この後に発表されるのはこの理論の応用と(完成することのなかった)統一場理論についての論文だ。アインシュタインにおける統一場理論とは重力場と電磁場の統一を目指す理論のことである。
関連リンク:
アインシュタイン選集(1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559
アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e
時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e
少年の頃の夢(の続き)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a6e4b9271cd56b2e85c3bdaa0b8b7cae
とね書店:
アインシュタイン選集(1)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030192/503-5691539-3879144
アインシュタイン選集(2)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030206/503-5691539-3879144
アインシュタイン選集(3)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030214/503-5691539-3879144
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C: 重力場の理論
§13 重力場内にある質点の運動方程式、重力の数式的表現
曲がった時空の幾何学を記述するためにテンソルをはじめとしたいくつかの数学の道具を得たアインシュタインは、次にそのような時空に存在する質点や重力を数式で表現することを試みた。
特殊相対性理論によれば、質点は外から力を受けない限り直線上を一定の速度で運動する。4次元時空でも同様に運動は直線となる。そして、そのときその領域内で計量テンソルg(u,v)を構成する10個の値(一般には関数)は特別な定数となるような座標系K0を選ぶことができる。
この運動を任意に選ばれた他の座標系K1を基準にして考えると、「§2任意の重力場における質点の運動方程式および重力場の表現法」で考察したように、あたかも1つの重力場内で運動しているように見える。
つまりこの運動は座標系K0から見たときは直線かつ測地線になっていて、測地線というものは基準となる座標系に無関係に定義されるから測地線の方程式は座標系K1から見たときにの質点の運動方程式にもなっているのである。
このような考察のもとアインシュタインはクリストッフェルの記号Γ(接続係数)を使って座標系K1から見た測地線の方程式=質点の運動方程式を求めた。もしクリストッフェルの記号Γ(接続係数)の値が0であれば、質点は等速直線運動をする。つまりこの記号の値は運動が直線的であるということからの「ずれ」を意味していて、つまりこの記号(テンソル)を構成する成分は重力場の成分(力の成分)ということになる。
§14 物質が存在しないときの重力場の方程式
宇宙には天体などの「物質」があるのにアインシュタインはどうして物質が存在しない場合を考えたのか不思議に思うのは当然だ。この疑問は後に「物質が存在する場合の重力場の方程式」を導く過程で明らかになる。
アインシュタインの理論では「重力場」と「物質」を次のように区別する。つまり重力場以外のものはすべて「物質」と呼ぶ。普通の意味での物質ばかりでなく電磁場も物質の中に含めて考えるのだ。
物質が存在しないときの重力場の方程式を求めるためには前のセクションで質点の運動方程式を求めたのと同じ方法を使う。つまり特殊相対性理論が成り立つ座標系K0でももちろん成り立つ。数式は紹介できないが、アインシュタインはクリストッフェルの記号Γ(接続係数)と計量テンソルg(u,v)を用いた方程式を導いた。
この運動方程式は第1近似ではニュートンの引力の法則を表している。また第2近似まで考えると水星の近日点の移動(他の惑星による摂動を起源とする修正を行ったあとに残る移動量)を説明することができる。これらによりこの運動方程式が物理的に正しいことが保証されるのである。
§15 重力場に対するハミルトン関数、運動量・エネルギー保存則
前のセクションで求められた重力場の方程式から4次元の時空でも運動量・エネルギー保存側が導かれるのは僕には驚きであった。けれどもニュートン力学でも重力方程式から運動量やエネルギー保存則が導かれることに思い至ると一般相対性理論でも当然そうなるべきだ。
解析力学の手法を使ってアインシュタインは物質が存在しないときの重力場の方程式をハミルトン関数を使って表現した。
1ページほどの数式変形の後、彼は運動量・エネルギー保存則を示す方程式にたどり着く。
具体的な式を示さないので理解できないと思うが、彼はこの運動量・エネルギー保存則の式を3次元体積Vにわたって積分し、エネルギーを成分にもつテンソルを使った方程式に書き直しておく。次のセクションの準備のためだ。
§16 重力場の方程式の一般形式
物質が存在する一般の場合の重力場の方程式を導くことがこのセクションだ。前のセクションで求めた「物質が存在しない場合の重力場の方程式」とは、いわばニュートン力学における「物質密度ρを0においたポアッソンの方程式」
△ψ=0(△=ラプラシアン)
に対応するものだ。物質が存在するときにポアッソンの方程式は
△ψ=4πKρ
であるから、これに対応するものを一般相対性理論における重力場の方程式として求めればよいことになる。ポアッソンの方程式は電磁気学の静電場についての基本方程式である。あえてこれに重力場を対比させたのがアインシュタインの独創だ。重力場が中心から離れるにしたがって弱くなる重力ポテンシャルの減衰曲線と、点電荷から離れるにしたがって弱くなる静電ポテンシャルの減衰曲線が同じということ、そして物質密度を電荷密度に対応させて考えたわけである。
僕のコメント: 重力場を静電場と対比せたことはアインシュタインが重力の発生するメカニズムを解明していないことを同時に物語っていることに注意すべきだ。また一般相対性理論を構築するにあたって前提とした「重力と慣性力は区別できない。」とする等価原理についても、重力と慣性力の間の関係を示しただけで重力の発生メカニズムについては何ら解き明かしてはいない。
ところで特殊相対性理論によれば、E=mc^2であるから慣性質量はエネルギーと同一である。つまり一般相対性理論におけるポアッソンの方程式は数学的にはひとつの対称2階テンソルであるエネルギー・テンソルによって表現されることを意味している。
物質が存在する場合、エネルギー・テンソルが重力場の方程式にどのような形で入るべきかは前のセクション「物質が存在しない場合のエネルギー・テンソルの方程式」によって類推することができる。これがわざわざ「物質が存在しな場合」を最初に考えた理由なのだ。
物質が存在する場合の代表例として太陽系のような「完全系」を考えたとき、その全重力的な作用、つまりこの物理系の全エネルギーは物質によるエネルギーと重力場のエネルギーの総和である。だから前のセクションにおけるエネルギー成分 t というテンソルのかわりに物質と重力場の両方のエネルギー成分の和 t+T を導入すればよい。
アインシュタインはこのようにして物質が存在する場合の重力場の方程式をエネルギー・テンソル(混合テンソル)、クリストッフェルの記号Γ(接続係数)、計量テンソルg(u,v)を使って表すことに成功した。(以下の式のRとTはΓとg(u,v)から導かれる。)
けれどもこのような物質のエネルギー・テンソルの導入の仕方は単に相対性の要請からでは正当化されないことに注意しなければならない。ここでは重力場のエネルギーは他のどのようなエネルギーとも同じ形の重力的作用を持つべきであるという要請を用いたにすぎないからだ。導かれた方程式が正当なものであるという根拠はむしろ全エネルギー成分に対してエネルギーおよび運動量保存則が成立することであると言ったほうがいいだろう。
§17 一般の場合の保存則
前のセクションで求めた重力場の方程式をアインシュタインはさらに変形して、よりシンプルな形で運動量およびエネルギーの保存則を求めた。
§18 物質の運動量・エネルギーの法則
これまでに導いてきた運動量・エネルギー保存則は、実は時空の4次元を含めた意味で4元運動量や4元エネルギーが保存されていることを意味している。つまり一般相対性理論では普通の3次元空間での運動量やエネルギーの保存法則は成り立っていない。
アインシュタインはこれまでに導いた方程式を変形して重力場から物質へのエネルギー的影響を数式で示した。
さらなる計算により求めた4つの方程式は重力場の方程式は同時に物理現象が従わなければならない4つの条件を与える。したがって物理現象が4個の互いに独立な微分方程式によって記述されるのならば、重力場の方程式は物理現象を記述する方程式を完全に与えることになるのである。
ここに至って一般相対性理論はひとまず完成したことになる。この後に発表されるのはこの理論の応用と(完成することのなかった)統一場理論についての論文だ。アインシュタインにおける統一場理論とは重力場と電磁場の統一を目指す理論のことである。
関連リンク:
アインシュタイン選集(1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559
アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e
時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e
少年の頃の夢(の続き)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a6e4b9271cd56b2e85c3bdaa0b8b7cae
とね書店:
アインシュタイン選集(1)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030192/503-5691539-3879144
アインシュタイン選集(2)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030206/503-5691539-3879144
アインシュタイン選集(3)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030214/503-5691539-3879144
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コメントと励ましをありがとうございます。
以下のページで「選集(2)」の目次をご覧になっていただければわかると思いますが、統一場理論はまだまだ先なのですよ。でも、頑張ってこの本全部を同じような調子で解説してきます!
アインシュタイン選集(2)の目次
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e
最近の最先端の物理論文にくらべて、アインシュタインの論文は文章が多くて読みやすいです。(笑)
勉強は着々と進んでいますね。
次は統一場理論ですか?
カルツァ・クライン理論も
確かアインシュタイン選集に
入っていたような。
超ひもにも絡んできますね。
期待しております。