「ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス」（文庫版）
～すべてを自分で創りだした天才の物理学人生～
吉田三知世訳
今月のはじめに発売情報としてこの記事で紹介した本書を先ほど読み終えた。終りのほうになってはっと気がついた。今日はファインマン先生の命日だ。。。お亡くなりになったのは1988年2月15日のことである。
先生の自伝はこれまでに何冊も出版され、さらに「他伝」もいくつか出版されている。本書を手にとるような方は、既版の自伝などで先生のことはひととおり知っているのだと思う。また「光と物質のふしぎな理論」など先生が一般市民向けに行った講演をまとめた本で、彼の研究の一部を知っている方もいるかもしれない。
しかし、先生の本来の仕事や業績については少なくとも大学レベルの物理学を終えていないと理解できないし、竹内薫先生がお書きになるような一般書と専門書の中間レベルの本ではおよそのことは伝わってくるが、日ごろ科学に慣れしてしんでいない人にとっては難しいものだ。だからこれまでファインマン先生の物理学上の業績はなかなか一般の方には理解することができなかった。
本書は先生が生涯に渡ってどのような発想でものを考え、数々の成果を生み出してきたのか、どのような物理学者と関わり合いながら物理学発展の流れの中でどのような位置にいらっしゃったのかを紹介する一般向けとしてはじめての本である。
先生の人生を順にたどりながら私生活のエピソードも欠かしていない。これまでの自伝と重複しているところもあるが、物理学の難しい話の合間に一息つけるので本書を読みやすくしている。
とはいえ後半は難しくなる。量子電磁気学（QED)あたりまではよかったが、場の量子論、素粒子物理学、量子色力学(QCD)、標準理論あたりになると何度か読み返したページがあった。彼の考案した経路積分やファインマン・ダイヤグラム、くりこみ理論などが彼以降の数々の理論や発見に果たした役割を知ることができたのが僕にとっていちばんよかった。
本書を読むと彼が物理現象のうち何に関心を示し、どのようなアプローチで考えていたか、そして何に無関心あったか、どのような考え方をする学者をバカにしていたかがよくわかる。それは自分のやり方でのみで自然を理解しようとする彼の流儀を貫き通したゆえのことである。特に晩年クォークの存在をめぐるマレー・ゲルマンとの間の対照的な関係について興味深く読むことができた。
物理学以外の事柄への関心事についても紹介されている。恋愛ともいえない女性たちとの関係や、不倫関係から生じたトラブル、彼の性格が災いしたエピソードも含めて。この点、ファインマンの大ファンであるにも関わらず、著者は公平な視点で書いているなと思えた。
1970年以降、彼が強い関心をもち予測した未来のテクノロジーについての紹介は特に目新しかった。現在でこそ真面目に研究されるようになったナノテクノロジーやゲノムの解析、量子コンピュータなどのことだ。あの時代にこれらのことを思い描けるだけでなく、具体的に考えて設計していたということに心を打たれた。夢を追い続けるエネルギーは死の直前まで衰えることなく、彼の死後それらは華開くことになった。
一般の方にとっては難しい物理学の話が多いので、ファインマン本としての１冊目として本書はふさわしくないと思う。「ご冗談でしょう、ファインマンさん」や「困ります、ファインマンさん」などの本で先生のことを大好きになってからお読みになることをお勧めする。
以下はアマゾンに掲載されている紹介文。
内容（「BOOK」データベースより）
ファインマンに心酔し、自らも卓越した研究者となった著者が、物理学者としての「ファインマンさん」の業績を軸にその学者人生をわかりやすく解説する、出色の科学ノンフィクション。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
クラウス,ローレンス・M.
1954年生まれ。理論物理学者としてアリゾナ州立大学“オリジンズ”プロジェクト長を務めるが、一般市民を対象にした科学教育にも熱心で、ポピュラー・サイエンスの著書も多く、先端科学のわかりやすい解説と読者の興味を巧みにそそる筆致には定評がある
翻訳：吉田 三知世
京都大学理学部物理系卒業。英日・日英の翻訳業
原書はこちら。ハードカバー版とペーパーバック版がでている。副題は「Richard Feynman's Life in Science」とある。
「Quantum Man: Richard Feynman's Life in Science (Hardcover): Lawrence M. Krauss」
「Quantum Man: Richard Feynman's Life in Science (Paperback): Lawrence M. Krauss」
松岡正剛氏はファインマン先生と直接お話になったことがあるという。
『ご冗談でしょう、ファインマンさん』１・２（松岡正剛 千夜千冊）
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0284.html
次のサイトではファインマン先生の講義やインタビューの動画がたくさん見れる。お気に入りサイトだ。
Richard Feynman Physics Lectures:
http://www.feynmanphysicslectures.com/
次はビル・ゲイツが権利を買い取り、マイクロソフト社のサイトから無料公開しているコーネル大学で行われた一般人向けの講義ビデオ。英語の字幕付きなので理解しやすい。日本語訳は「物理法則はいかにして発見されたか」として出版されている。再生にはSilverlight（無料）のインストールが必要だ。
Project Tuva
http://research.microsoft.com/apps/tools/tuva/index.html
Lecture 1: Laws of Gravitation - An Example of Physical Law（重力の法則-物理法則の一例として）
Lecture 2: The Relation of Mathematics and Physics（数学の物理学に対する関係）
Lecture 3: The Great Conservation Principles（保存という名の大法則）
Lecture 4: Symmetry in Physical Law（物理法則のもつ対称性）
Lecture 5: The Distinction of Past and Future（過去と未来の区別）
Lecture 6: Probability and Uncertainty - The Quantum Mechanical View of Nature（確率と不確定性 - 量子力学的な自然観）
Lecture 7: Seeking New Laws（新しい法則を求めて）
関連記事：
発売情報：ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5b294546a8e314450a447ea023e4c756
ファインマン物理学
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072
The Feynman Lectures on Physics: The New Millennium Edition
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cb58141ade509fb63952d49ef57c70c7
ファインマンの経路積分に入門しよう！
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8
光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76
量子力学と経路積分：R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2b9d934a542cf04be54cbede8b16ecde
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「ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス」（文庫版）
第1部 偉大さへの道
- 光、カメラ、作用
- 量子的な宇宙
- 新しい考え方
- 量子の国のアリス
- 終わりと始まり
- 無垢の喪失
- 偉大さへの道
- ここより無限に
- 無限を馴らす
- 鏡におぼろに映ったもの
第2部 宇宙の残りの部分
- 心の問題と問題の核心
- 宇宙を整理しなおす
- 鏡に映った像に隠されているもの
- 気晴らしと楽しみ・喜び
- 宇宙の尻尾をねじり回す
- 上から下まで
- 真実、美、そして自由
～すべてを自分で創りだした天才の物理学人生～
吉田三知世訳
今月のはじめに発売情報としてこの記事で紹介した本書を先ほど読み終えた。終りのほうになってはっと気がついた。今日はファインマン先生の命日だ。。。お亡くなりになったのは1988年2月15日のことである。
先生の自伝はこれまでに何冊も出版され、さらに「他伝」もいくつか出版されている。本書を手にとるような方は、既版の自伝などで先生のことはひととおり知っているのだと思う。また「光と物質のふしぎな理論」など先生が一般市民向けに行った講演をまとめた本で、彼の研究の一部を知っている方もいるかもしれない。
しかし、先生の本来の仕事や業績については少なくとも大学レベルの物理学を終えていないと理解できないし、竹内薫先生がお書きになるような一般書と専門書の中間レベルの本ではおよそのことは伝わってくるが、日ごろ科学に慣れしてしんでいない人にとっては難しいものだ。だからこれまでファインマン先生の物理学上の業績はなかなか一般の方には理解することができなかった。
本書は先生が生涯に渡ってどのような発想でものを考え、数々の成果を生み出してきたのか、どのような物理学者と関わり合いながら物理学発展の流れの中でどのような位置にいらっしゃったのかを紹介する一般向けとしてはじめての本である。
先生の人生を順にたどりながら私生活のエピソードも欠かしていない。これまでの自伝と重複しているところもあるが、物理学の難しい話の合間に一息つけるので本書を読みやすくしている。
とはいえ後半は難しくなる。量子電磁気学（QED)あたりまではよかったが、場の量子論、素粒子物理学、量子色力学(QCD)、標準理論あたりになると何度か読み返したページがあった。彼の考案した経路積分やファインマン・ダイヤグラム、くりこみ理論などが彼以降の数々の理論や発見に果たした役割を知ることができたのが僕にとっていちばんよかった。
本書を読むと彼が物理現象のうち何に関心を示し、どのようなアプローチで考えていたか、そして何に無関心あったか、どのような考え方をする学者をバカにしていたかがよくわかる。それは自分のやり方でのみで自然を理解しようとする彼の流儀を貫き通したゆえのことである。特に晩年クォークの存在をめぐるマレー・ゲルマンとの間の対照的な関係について興味深く読むことができた。
物理学以外の事柄への関心事についても紹介されている。恋愛ともいえない女性たちとの関係や、不倫関係から生じたトラブル、彼の性格が災いしたエピソードも含めて。この点、ファインマンの大ファンであるにも関わらず、著者は公平な視点で書いているなと思えた。
1970年以降、彼が強い関心をもち予測した未来のテクノロジーについての紹介は特に目新しかった。現在でこそ真面目に研究されるようになったナノテクノロジーやゲノムの解析、量子コンピュータなどのことだ。あの時代にこれらのことを思い描けるだけでなく、具体的に考えて設計していたということに心を打たれた。夢を追い続けるエネルギーは死の直前まで衰えることなく、彼の死後それらは華開くことになった。
一般の方にとっては難しい物理学の話が多いので、ファインマン本としての１冊目として本書はふさわしくないと思う。「ご冗談でしょう、ファインマンさん」や「困ります、ファインマンさん」などの本で先生のことを大好きになってからお読みになることをお勧めする。
以下はアマゾンに掲載されている紹介文。
内容（「BOOK」データベースより）
ファインマンに心酔し、自らも卓越した研究者となった著者が、物理学者としての「ファインマンさん」の業績を軸にその学者人生をわかりやすく解説する、出色の科学ノンフィクション。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
クラウス,ローレンス・M.
1954年生まれ。理論物理学者としてアリゾナ州立大学“オリジンズ”プロジェクト長を務めるが、一般市民を対象にした科学教育にも熱心で、ポピュラー・サイエンスの著書も多く、先端科学のわかりやすい解説と読者の興味を巧みにそそる筆致には定評がある
翻訳：吉田 三知世
京都大学理学部物理系卒業。英日・日英の翻訳業
原書はこちら。ハードカバー版とペーパーバック版がでている。副題は「Richard Feynman's Life in Science」とある。
「Quantum Man: Richard Feynman's Life in Science (Hardcover): Lawrence M. Krauss」
「Quantum Man: Richard Feynman's Life in Science (Paperback): Lawrence M. Krauss」
松岡正剛氏はファインマン先生と直接お話になったことがあるという。
『ご冗談でしょう、ファインマンさん』１・２（松岡正剛 千夜千冊）
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0284.html
次のサイトではファインマン先生の講義やインタビューの動画がたくさん見れる。お気に入りサイトだ。
Richard Feynman Physics Lectures:
http://www.feynmanphysicslectures.com/
次はビル・ゲイツが権利を買い取り、マイクロソフト社のサイトから無料公開しているコーネル大学で行われた一般人向けの講義ビデオ。英語の字幕付きなので理解しやすい。日本語訳は「物理法則はいかにして発見されたか」として出版されている。再生にはSilverlight（無料）のインストールが必要だ。
Project Tuva
http://research.microsoft.com/apps/tools/tuva/index.html
Lecture 1: Laws of Gravitation - An Example of Physical Law（重力の法則-物理法則の一例として）
Lecture 2: The Relation of Mathematics and Physics（数学の物理学に対する関係）
Lecture 3: The Great Conservation Principles（保存という名の大法則）
Lecture 4: Symmetry in Physical Law（物理法則のもつ対称性）
Lecture 5: The Distinction of Past and Future（過去と未来の区別）
Lecture 6: Probability and Uncertainty - The Quantum Mechanical View of Nature（確率と不確定性 - 量子力学的な自然観）
Lecture 7: Seeking New Laws（新しい法則を求めて）
関連記事：
発売情報：ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/5b294546a8e314450a447ea023e4c756
ファインマン物理学
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1dbcd1e1b02616ef1363ced99a912072
The Feynman Lectures on Physics: The New Millennium Edition
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cb58141ade509fb63952d49ef57c70c7
ファインマンの経路積分に入門しよう！
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0f47de5854daf4eb38339a73791544a8
光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学: R.P.ファインマン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4b34cd4e7d077d037022e62734d1ee76
量子力学と経路積分：R.P.ファインマン、A.R.ヒッブス
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「ファインマンさんの流儀:ローレンス M.クラウス」（文庫版）
第1部 偉大さへの道
- 光、カメラ、作用
- 量子的な宇宙
- 新しい考え方
- 量子の国のアリス
- 終わりと始まり
- 無垢の喪失
- 偉大さへの道
- ここより無限に
- 無限を馴らす
- 鏡におぼろに映ったもの
第2部 宇宙の残りの部分
- 心の問題と問題の核心
- 宇宙を整理しなおす
- 鏡に映った像に隠されているもの
- 気晴らしと楽しみ・喜び
- 宇宙の尻尾をねじり回す
- 上から下まで
- 真実、美、そして自由
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