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これならわかる理系の電磁気学(高橋真聡著)

2008年10月13日 17時46分43秒 | 物理学、数学
これならわかる理系の電磁気学(高橋真聡著)

相対性理論や量子力学は物理学の花形で、なぜいまさら電磁気学を勉強するのか?物質や時間、空間そして流りのクォークや素粒子物理学のほうが楽しそうではないか?

僕がこのところ電磁気学にハマっているのは、それが他の分野の理解に欠かせないからだ。物質のあり方自体が原子によって説明されるのだから、電子と原子核(陽子と中性子)から原子がつくられていることを考えれば、物質の存在のあり方は電磁気学の理解なくしては得られない。宇宙の法則の理解に電磁気学は基礎教科なのだ。

アインシュタインが最終的に目指した統一場理論は電磁場と重力場の統一だし、量子力学は電磁気学の先に発展した。熱力学や統計力学も電子の粒子としての運動論を当てはめて考えることによって古典電磁気学を説明できるようになるし、量子場の理論や素粒子物理学も電磁気学が出発点だ。

この「これならわかる理系の電磁気学」は先日紹介した「スバラシク実力がつくと評判の電磁気学キャンパスゼミ」と並ぶ「超わかりやすい」電磁気学の入門書だ。帯には「レベルは高いけれど、理系なら理解しておく必要がある基礎の電磁気学を、詳しく丁寧に解説!」とある。「レベルは高いけれど」と書いてあるが心配ご無用。「高校生にとって」レベルが高いという意味だからである。意欲的な高校生に大学レベルの電磁気学を教えようとしているのが「これならわかる理系の電磁気学」である。

これら2つの入門書について「どちらがわかりやすいか?」、「どちらがおすすめか?」という質問には答えがない。前者を「これなら~」、後者を「スバラシク~」と略記した上で違いを説明する。

スバラシク~」のほうは数式による解説、例題が豊富で、大学の試験で「及第点」をとるための速習本である。この本が素晴らしいのは数式のテクニックを教えるだけでなく、物理現象としての電磁気学の法則を理解させようという工夫に満ちていることだ。数式をまる暗記させようという嘆かわしい風潮に果敢に挑戦し、成功している。

これなら~」のほうは、大学レベルで習う電磁気学の現象を高校生でもわかるように文章で説明しているのが大きな特徴だ。特に磁気や磁力の説明がものすごく分かりすく、この部分は他の入門書では省略されていることが多い。「ファインマン物理学第3巻(電磁気学)」を読んでいたころ理解できていなかった磁気や磁力の問題も本書の説明がいちばんわかりやすかった。全体に渡って数式による説明も手を抜いていないが、「スバラシク~」のように数式変形の練習、問題演習を目的とはしていないので、大学での試験対策には使えない。その代わりに高校物理では教えてもらえなかった深いレベルの電磁気現象をかなり具体的にイメージできるようになる。

この本を読めば光の速度でランダムウォークする無数の電子が、その動きの平均値として電流を生み、その変化が磁力を生み出す様子が実感となる。また、無数の電子の動きがそれぞれ磁力を発生させ、その方向が揃うとき磁石になることも理解できるようになる。

特に第6章は「身のまわりの電磁気現象」と題し、かなり踏み込んだ説明をしているので「なるほど~!」と感動することができる。全体を通して電磁気学特有の専門用語の説明も丁寧になされている。他の入門書ではいきなり「分極子」とか「ソレノイド」とかを説明なしに登場させるものだから、初心者には「それ何?」というものが多いものだ。一般用語でないものはすべて丁寧に説明してから、本論がはじまるので前提知識は必要ない。


だから僕としてはどちらか片方ではなく、両方ともお読みになることをお勧めする。あえて読む順番をつけるとしたら「これなら~」、「スバラシク~」の順だ。

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目次:これならわかる理系の電磁気学(高橋真聡著)

第1章:電荷と電流

1)質量と電荷
万有引力 - 互いに引き合う力
静電気力 - 反発し合ったり引き合ったり
引力と斥力のバランス - 電気的な結びつき

2)電荷の保存
電気素量 - 電気の最も小さい単位
電荷保存の法則 - 電荷は不変な量

3)磁荷はない!
磁極 - N極とS極
磁荷? - あくまで仮想的なもの
磁気双極子 - どれだけ小さくしても磁石は磁石

4)電荷の流れ
電流 - 電荷の流れ
電流密度 - ベクトル量で考える
電気的な力と磁気的な力 - お互いに関係し合っている

5)電気力線と磁力線
試験電荷 - 電荷自身の影響を小さくする
電気力線 - 試験電荷が移動する向き
磁力線 - 小磁針の示す向き
右ネジの法則 - 磁力線の向きの決め方
円形電流のまわりの磁場 - 棒磁石による磁場と似ている
コイル・円形・直線 - グローバルはローカルの集まり

第2章:荷電粒子が受ける力

1)ローレンツ力
ローレンツ力・電場・磁場 - まずは基本式から
"x"の意味 - 内積?外積?
電磁場 - 電場と磁場はまとめて扱う

2)電場による力
クーロン力 - 2つの電荷の間に働く力
クーロン力はベクトル量 - 力の方向も考えよう
電場の導入 - 電気的な性質をもつ空間
重ね合わせの原理 - 各電場・各磁場の足し算
電場のまとめ - 「場」という考え方

3)静電ポテンシャル(電位)
静電ポテンシャル - 電荷が電場中を動くときの仕事
電場E(r) - ポテンシャルφ(r)がわかっているとき
静電ポテンシャル - 表現の拡張と思え

4)磁場による力
ローレンツ力の磁場成分 - 磁力線には沿わない力
荷電粒子の"らせん"運動 - 円運動+並進運動
電流が磁場から受ける力 - 同じ向きなら寄り添う

第3章:マックスウェル方程式

1)4つの方程式
基本方程式 - まずは慣れよう

2)ガウスの法則
湧き出しと吸い込み - 正電荷と負電荷
ガウスの法則の積分形 - 式で考えてみよう
ガウスの法則の微分形 - 発散定理を適用

3)磁場に関するガウスの法則
磁場の発散はゼロ - 磁荷が存在しない

4)ファラデーの法則
電磁誘導 - 起電力が発生する力
磁場の時間変化 - 誰にとって?
磁束 - 磁力線の束
誘導起電力 - 磁場の影響も考える
ローレンツ力による説明 - 磁場の変化で生じる起電力

5)アンペール・マックスウェルの法則
ビオ・サバールの法則 - 電流分布がつくる磁場
アンペールの法則 - 電流分布と電流密度の関係
変位電流 - これも磁場を発生させます。

6)電場と磁場の変換:ローレンツ変換
ローレンツ変換 - 運動する観測者にとって電場と磁場はどうなる?
電場と磁場 - 電磁場の"切り口"

7)電荷の保存
電流 - 電荷は保存される
電荷密度・電流密度 - 観測者に依存する

8)場の方程式について
ポアッソン方程式 - 静電ポテンシャルに対する方程式
境界条件 - ポテンシャルが満たすべき条件
重力場 - ポアッソン方程式で求まる

9)ベクトル・ポテンシャルと磁場
ベクトル・ポテンシャル - 磁場は別のベクトル場で書き表せる
ベクトル・ポテンシャルを求める - アンペールの法則を用いる

第4章:電磁波

1)電磁波の発生
ヘルツの実験 - 電磁波の発見

2)電磁波の伝播
波動方程式 - 電場と磁場の波
波動方程式の解 - 解の特徴について
波の伝播 - 光速で伝わる
電磁波の性質 - 今後の学習のために

3)電磁波の種類
γ線(ガンマ線) - 非常にエネルギーが高い
X線 - 物質を透過する
X線のつくり方 - 「制動放射」+「輝線」
紫外線 - 化学変化を起こさせやすい
可視光線 - 目に見える電磁波
赤外線 - 物を温めます
電波(マイクロ波) - 携帯電話で使われている
電波(ラジオ波) - ラジオ・テレビでおなじみ

4)複写の発生機構
黒体輻射(熱的放射)- あらゆる物質から放出される
シンクロトロン輻射 - 光速の電子が放つ電磁波

第5章:電気・磁気と物質

1)帯電・静電誘導・誘電分極
導体 - よく電気を通す物体
不導体 - 電気を通さない物体
半導体 - エネルギーバンド

2)磁化と磁性体
強磁性 - 物質の磁気的性質
反磁性 - 逆向きに磁化

3)オームの法則とジュール熱
オームの法則 - 電流の大きさは電圧に比例
電圧降下 - 抵抗によって静電ポテンシャルが低くなる
ジュール熱 - 電流が流れると発熱する
ミクロな視点 - 熱運動 = 発熱する
電気抵抗の直列接続 - 流れる電流が同じ
電気抵抗の並列接続 - 電圧は同じ

4)コンデンサー
平行板コンデンサー - 2枚の金属板で電荷をためる
静電エネルギー - コンデンサーに蓄えられるエネルギー
コンデンサーの並列接続 - 電荷の分配
コンデンサーの直列接続 - 蓄える電荷量は同じ

5)コイル
自己誘導 - 磁束の変化を打ち消す
コイルに蓄えられるエネルギー - 磁場のエネルギー
相互誘導 - 隣のコイルに影響します。
変圧器 - 相互誘導を利用する

6)この章を終えるにあたり
回路として - まだまだ奥が深い!
天然のコンデンサー・コイル - 身のまわりの電磁気現象

第6章:身のまわりの電磁気現象

1)台所・リビングの電磁気現象
電子レンジ - マイクロ波が水分子を振動させる
電磁調理器(IH調理器) - 熱くならない調理台
電気コンロ - 熱くなる調理台
電球 - 効率の悪い照明器具
蛍光灯 - 効率の良い照明器具
スピーカー - 電気エネルギーを音エネルギーに変える
マイク - 音エネルギーを電気エネルギーに変える

2)地球・宇宙の電磁気現象
地磁気 - 地球は磁石
磁気圏 - 宇宙線から守ってくれている
オーロラ - 太陽がふる里
プレートテクトニクス - 古地磁気からわかること
パルサー - 光速で自転する強大な磁石
ブラックホール - 強重力場による"曲がった時空"領域

3)生物の電磁気現象
MRI - 磁場と電波で体内を撮影
感電 - 濡れていると危険


関連記事:

スバラシク実力がつくと評判の電磁気学キャンパスゼミ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/21e8b60e9abfab1cf10a077182c6f2c6

電磁気学の基礎I、II(大田浩一著)
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趣味で物理学(EMANの物理学)
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ファインマン物理学第3巻(電磁気学)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3fc48d873ba7127fe8cf17778bfa7f90

ファインマン物理学第4巻(電磁波と物性)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/eb0f3497da15e38a1bb063bce826be0c

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5 コメント

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買いました! (ミネルヴァ)
2008-10-14 22:11:33
こんばんわ

電磁気は、高校の課程だと例えば、直線電流の周りの磁界の強さを表す公式H=I/2πrなどは全くの「天下り」公式で「はぁ?なんでそうなるんだよ?」と腑に落ちずにいて、やっぱりマックスウェル方程式を学びたいな~と思ったり、また力学と違ってイメージし辛いこともあり電磁気の感覚が体に馴染んでなかったりしていたので、こんな本を待ってました!そして今日すかさず買いました(笑)

明日で中間試験が終わるんで明日からじっくり読みたいと思いま~す
返信する
ミネルヴァさんへ (とね)
2008-10-15 00:55:35
さっそく買っちゃいましたか!(笑)

この本は全然天下りなところはないからお勧めです!高校の物理は、特に電磁気学の箇所は天下りばかりですから、この本を読めばイメージがはっきりつかめるはずです。たぶんミネルヴァさんの学力ならばついていけるでしょう。

偏微分は習っていないので最初は驚くかもしれませんが、∂/∂xは「x軸方向の傾き」と覚えておくだけで大丈夫です。(大雑把ですけど)偏微分については解説も載っているので大丈夫でしょう。マックスウェルの方程式はこの本だけで十分マスターできるはずです。

明日も中間試験頑張ってください!
返信する
Unknown (みぃ)
2008-10-19 00:10:40
電磁気と言えば、江沢洋の日本評論社のヤツが個人的にはオススメです。大分ノンビリしてますが手抜きは無い。未だ完結していないのが残念ですが。
返信する
みぃさんへ (とね)
2008-10-19 00:43:29
みぃさん
はじめまして。コメントありがとうございます!
本を紹介いただきありがとうございます。
お勧めいただいた本を書店に行く前にアマゾンで検索してみたところ「電磁気学」というタイトルではヒットしませんね。「江沢洋 日本評論社」というキーワードで検索すると以下のような感じでした。
http://www.amazon.co.jp/s/ref=nb_ss_b?__mk_ja_JP=%83J%83%5E%83J%83i&url=search-alias%3Dstripbooks&field-keywords=%8D%5D%91%F2%97m%81%40%93%FA%96%7B%95%5D%98_%8E%D0&x=0&y=0

おそらく「物理は自由だ〈2〉静電磁場の物理」のことのようですね。この本はまだ手に取って見たことがありませんので、近いうちの書店に行ってきます。
返信する
 (アルキメデス)
2015-09-30 00:30:02
電磁気学が

肝なんですね

了解です

ありがとうございました
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