「古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆」
内容紹介:
「ニュートン力学」と称される古典力学は、ニュートン以後のヨーロッパの数学者たちによる協同作業で形成されていったものであった。最新の科学史学を踏まえた、近代自然科学理論生成の物語。1997年刊行、372ページ。
著者について:
山本義隆(やまもとよしたか)
1941年大阪生まれ。大阪府出身。大阪市立船場中学校、大阪府立大手前高等学校卒業。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。 東京大学大学院博士課程中退。
1960年代、学生運動が盛んだったころに東大全共闘議長を務める。1969年の安田講堂事件前に警察の指名手配を受け地下に潜伏するが、同年9月の日比谷での全国全共闘連合結成大会の会場で警察当局に逮捕された。日大全共闘議長の秋田明大とともに、全共闘を象徴する存在であった。
学生時代より秀才でならし、大学では物理学科に進んで素粒子論を専攻した。大学院在学中には、京都大学の湯川秀樹研究室に国内留学しており、物理学者としての将来を嘱望されていたが、学生運動の後に大学を去り、大学での研究生活に戻ることはなかった。
その後は予備校教師に転じ、駿台予備学校では「東大物理」などのクラスに出講している。一方で科学史を研究しており、当初エルンスト・カッシーラーの優れた翻訳で知られたが、後に熱学・熱力学や力学など物理学を中心とした自然思想史の研究に従事し今日に至っている。遠隔力概念の発展史についての研究をまとめた『磁力と重力の発見』全3巻は、第1回パピルス賞、第57回毎日出版文化賞、第30回大佛次郎賞を受賞して読書界の話題となった。
山本義隆: ウィキペディアの記事 Amazonで著書を検索
「古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆」という記事では主にNewtonとLeibnizの業績を紹介した。その後100年の古典力学の発展を支えてきたのが微分積分学である。高瀬先生の「微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで」や「微分積分学の誕生 デカルト『幾何学』からオイラー『無限解析序説』まで」を読んで微分積分学の発展史をおさえたので、LeibnizからLagrangeまでの数学者、科学者がどのように古典力学の形成に貢献してきたのか箇条書でまとめておくことにした。
その際にまず知っておくべきことは「Newtonの順問題」と「Newtonの逆問題」である。順問題とは楕円軌道から逆2乗の万有引力を導くプロセス、逆問題とは逆2乗の万有引力から楕円軌道(そして他の円錐曲線)を導くプロセスのことだ。Newtonは順問題は解くことができていたものの、逆問題は解けていなかった。
順問題の解法:
http://wakariyasui.sakura.ne.jp/p/mech/bannyuu/bannyuu.html
逆問題の解法(英語ページ):
http://galileo.phys.virginia.edu/classes/152.mf1i.spring02/KeplersLaws.htm
また高校や大学で学ぶ力学の内容を思い出していただくとわかるように、古典力学で扱う問題は惑星の運動の問題と振子や斜面を転がる物体、回転する物体、物体の投射などの地上の問題、拘束系と非拘束系の問題、動力学と静力学の問題のように分類され、それぞれ数学者や科学者が解法を研究してきた。その最終到達点が解析力学である。
Leibniz(ライプニッツ): 1646-1716
- 微分積分学の創始、微分積分に使う数学記号の考案、微分積分学の定理の導出
- Newtonの順問題、逆問題を証明
- 遠心力の公式を導出した
- 落下速度に比例する抵抗を受ける物体の運動を解いた
- 落下速度の2乗に比例する抵抗を受ける物体の運動を解いた
Varignon(ヴァリニョン): 1654-1722
- 運動の法則を微分学を使って記述することへの貢献
- 力を受けて速度変化をする1次元運動の研究
- 中心力を受けて速度変化する2次元運動の研究
- 2次元調和振動の研究
- Kepler運動と万有引力の導出
Jacob Bernoulli(ヤコブ・ベルヌーイ): 1654-1705
- 拘束問題の設定(斜面を転がる物体、複合振り子)
- 剛体の運動の研究(内力、外力、回転)
Johan Bernoulli(ヨハン・ベルヌーイ): 1667-1748
- 逆2乗の引力に対して運動方程式の積分を極座標の方程式により逆Newton問題を解いた
- Kepler運動と万有引力の導出(極座標)
- 惑星の運動が円錐曲線(楕円、放物線、双曲線)になることを導出
Hermann(ヘルマン): 1678-1733
- 逆2乗の引力に対して運動方程式の積分を初めて実行して逆Newton問題を解いた
Maupertuis(モーペルテュイ): 1698-1759
- Fermatの最小作用の原理を研究し、運動量や運動エネルギーが保存することから最小作用の原理が導かれることを確認した
- 静力学における仮想速度(変位)の原理を提唱、釣り合いの力学
- 「作用」という力学概念を作り出した
Daniel Bernoulli(ダニエル・ベルヌーイ): 1700-1782
- Kepler問題に対して積極的にエネルギー積分を導入して解を求めた
- 拘束問題の設定(斜面を転がる物体、複合振り子)
- 剛体の運動の研究(内力、外力、回転)
- 二重振り子の運動の研究
Euler(オイラー): 1707-1783
- Keplerの法則に代数学的表現を与えたこと。(楕円軌道の極座標表示)
- 極座標による運動方程式の立式と積分による解法によってKeplerの法則、万有引力を証明
- 力学原理をめぐる概念の整備と論理を明確化し、力学問題の汎用化、解析化への道を開いた
- 仕事関数の導入
- Maupertuisと同時期に力学における最小作用の原理を定式化し、連続的に変化する運動に適用できるように一般化した
- 変分法の提唱(Euler-Lagrange方程式)、静力学と動力学の統一
D'Alembert(ダランベール): 1717-1783
- D'Alembertの原理(運動の問題を力のつり合い(平衡)の問題に帰着させる原理)
- この原理により動力学の問題を静力学の問題に還元したこと
Lagrange(ラグランジュ): 1736-1813
- 変分法においてEulerの幾何学的な方法を代数的な方法に改良した(演算子としてのdやδの導入)
- 解析力学により力学問題に対する万能な方法を編み出したこと
- Lagrange方程式
- 複数個の物体の系の力学問題の解法を解析力学で示したこと
- D'Alembert-Lagrangeの原理によりD'Alembertの原理に新しい表現を与えた、つまりD'Alembert原理における「釣り合い」を仮想速度の原理であらわしたこと
- 拘束系に対して未定定数法を考案したこと
- 仮想仕事の原理
- 力学のマニュアル化により古典力学を一般の技術者にも学習、教育可能なレベルにまで引き下げたこと
このようにまとめてしまうとあっけないが、問題や解法をたどりながら本書を読むとどれだけ大変なことだったか実感できるのだ。
私たちが大学程度の学力で古典力学、解析力学を学べるようになったのも、100年におよぶ数学者、科学者の努力の賜物であることがわかる。古典力学の教科書が300ページ近くあるからといって嘆いてばかりはいられない。これだけ長い間の研究で得られた成果をいっぺんに学べるのだからありがたいことだと僕は思ってしまうわけである。
関連記事: これまでに紹介した山本義隆先生の本
古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e808487b7e9d668967f703396e32d80a
新・物理入門(増補改訂版):山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8ea0ef12c20ef703b81afe2752b4c3a2
熱学思想の史的展開〈1〉:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d1b18caf10c0e9a10baff20434eb9ffc
熱学思想の史的展開〈2〉:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f852e9510c040c23ae18c4da6df2dcbf
熱学思想の史的展開〈3〉:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c4f5c84e9854ddd2e60a1300044c9efc
福島の原発事故をめぐって― いくつか学び考えたこと:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7940dcbcf9929b45269dc9efae303848
原子・原子核・原子力―わたしが講義で伝えたかったこと:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/605f519af238e6b41871e81829f46e43
古典力学史の本:
力学の誕生―オイラーと「力」概念の革新―: 有賀暢迪
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/39015937594a6282316377ae34a6a240
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「古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆」
序:「Newtonの力学」と「Newton力学」
●●●第1部:Kepler問題
1.『プリンキピア』の問題設定と論理構成
- 発端
- 『プリンキピア』の問題設定
- 『プリンキピア』の運動法則
- 運動法則の吟味
2.「順Newton問題」の解法と重力の導出
- 面積定理の証明
- 中心力を求める基本方程式
- 一つの例:2次元調和振動
- Kepler運動の場合
- 順Newton問題の別解
- Keplerの第3法則
- 議論の再検討
3.「逆Newton問題」の解法と『プリンキピア』の限界
- 『プリンキピア』をめぐる神話
- Newtonは「逆問題」を解いたか
- 『プリンキピア』の「命題17」
- 微分法と『プリンキピア』
- 一直線上の降下
- 任意の曲線上の運動
- 若干の書き直し
4.『プリンキピア』第2篇の解読
- 『プリンキピア』第2篇の歴史的意義
- 第2篇の今日的意義
- 速度に比例する抵抗のもとでの運動--極限移行の問題
- 速度に比例する抵抗--Newtonの限界性
- 一定の駆動力のあるとき
- 速度の2乗に比例する抵抗のあるとき
- 『プリンキピア』という書物
5.Leibnizと微分方程式の導入
- Leibnizの『試論(1689)』をめぐって
- Leibnizの前提と方法--「調和回転」
- 遠心力の公式の導出
- 動径方向の運動方程式
- 楕円軌道と万有引力--順Newton問題
6.Leibnizと『プリンキピア』
- Leibnizの手になる書き込みの発見
- 速度に比例する抵抗中の落下
- 『プリンキピア』の微分法に関する補題
- 速度の2乗に比例する抵抗中の落下--I
- 速度の2乗に比例する抵抗中の落下--II
- Leibnizによる解
7.Varignonと「順Newton問題」
- Varignonの評価について
- 1次元運動とエネルギー積分
- 中心力の新しい表式
- 例--2次元調和
- Kepler運動と万有引力の導出
- 「逆Newton問題」の必要性
8.「逆Newton問題」の初めての解析解
- 問題の設定--方程式の導出
- 方程式の積分--Hermannの解
- Riccatiによる補注と若干のコメント
- Bernoulliの別解--極座標の方程式
- Kepler問題の解
9.Kepler問題の完成
- 楕円軌道の極座標表示
- Kepler運動の運動学
- 極座標による運動方程式の表現
- 運動方程式の第1積分
- 万有引力のもとでの運動
- D.Bernoulliとエネルギー積分の導入
●●●第2部:力学原理をめぐって
10.Eulerによる力学原理の整備
- 1740年前後の状況:Newtonと力学原理
- Eulerの出発点
- 力学原理としての運動方程式
- 慣性原理について
- 力の尺度をめぐる議論
- 見掛けの運動と見掛けの力
- 仕事関数の導入
11.新しい問題--拘束運動とその解法
- はじめに--新しい問題
- Jacob Bernoulliによる問題設定
- 梃子の釣り合いの条件
- 問題の解
12.Daniel Bernoulliと非剛体的拘束運動
- 一般的な問題設定と方針
- 一つの例--動く斜面上の落下
- 二重振子にたいする問題設定
- mにたいする拘束の効果
- 固有振動と相当単子
13.D'Alembertの原理
- D'Alembertとその力学
- 力学の原理
- 力概念への翻訳
- いくつかの具体例
- 二重振子
- D'Alembertの時代的制約
14.最小作用の原理とその周辺
- Maupertuis
- 最小作用の原理
- Eulerによる定式化
- Eulerによる見解
- 静力学と動力学の統一
15.Lagrangeと変分法
- Lagrangeの出発点
- 最小作用の原理
- 複数個の物体系
- D'Alembert-Lagrangeの原理
16.『解析力学』第1部・静力学
- 『解析力学』の出現前後
- 『解析力学』の特徴と意図
- 静力学と仮想速度の原理
- 拘束系と未定乗数法
17.『解析力学』第2部・動力学
- D'Alembertの原理をめぐって
- 動力学の基本方程式の導出:『解析力学(初版)』より
- 動力学の基本方程式の導出:『解析力学(第2版)』
- 諸「原理」の導出
- Lagrange方程式
- 『解析力学』の切り開いたもの
- 力学のマニュアル化
注
あとがきにかえて
人名索引
事項索引
内容紹介:
「ニュートン力学」と称される古典力学は、ニュートン以後のヨーロッパの数学者たちによる協同作業で形成されていったものであった。最新の科学史学を踏まえた、近代自然科学理論生成の物語。1997年刊行、372ページ。
著者について:
山本義隆(やまもとよしたか)
1941年大阪生まれ。大阪府出身。大阪市立船場中学校、大阪府立大手前高等学校卒業。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。 東京大学大学院博士課程中退。
1960年代、学生運動が盛んだったころに東大全共闘議長を務める。1969年の安田講堂事件前に警察の指名手配を受け地下に潜伏するが、同年9月の日比谷での全国全共闘連合結成大会の会場で警察当局に逮捕された。日大全共闘議長の秋田明大とともに、全共闘を象徴する存在であった。
学生時代より秀才でならし、大学では物理学科に進んで素粒子論を専攻した。大学院在学中には、京都大学の湯川秀樹研究室に国内留学しており、物理学者としての将来を嘱望されていたが、学生運動の後に大学を去り、大学での研究生活に戻ることはなかった。
その後は予備校教師に転じ、駿台予備学校では「東大物理」などのクラスに出講している。一方で科学史を研究しており、当初エルンスト・カッシーラーの優れた翻訳で知られたが、後に熱学・熱力学や力学など物理学を中心とした自然思想史の研究に従事し今日に至っている。遠隔力概念の発展史についての研究をまとめた『磁力と重力の発見』全3巻は、第1回パピルス賞、第57回毎日出版文化賞、第30回大佛次郎賞を受賞して読書界の話題となった。
山本義隆: ウィキペディアの記事 Amazonで著書を検索
「古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆」という記事では主にNewtonとLeibnizの業績を紹介した。その後100年の古典力学の発展を支えてきたのが微分積分学である。高瀬先生の「微分積分学の史的展開 ライプニッツから高木貞治まで」や「微分積分学の誕生 デカルト『幾何学』からオイラー『無限解析序説』まで」を読んで微分積分学の発展史をおさえたので、LeibnizからLagrangeまでの数学者、科学者がどのように古典力学の形成に貢献してきたのか箇条書でまとめておくことにした。
その際にまず知っておくべきことは「Newtonの順問題」と「Newtonの逆問題」である。順問題とは楕円軌道から逆2乗の万有引力を導くプロセス、逆問題とは逆2乗の万有引力から楕円軌道(そして他の円錐曲線)を導くプロセスのことだ。Newtonは順問題は解くことができていたものの、逆問題は解けていなかった。
順問題の解法:
http://wakariyasui.sakura.ne.jp/p/mech/bannyuu/bannyuu.html
逆問題の解法(英語ページ):
http://galileo.phys.virginia.edu/classes/152.mf1i.spring02/KeplersLaws.htm
また高校や大学で学ぶ力学の内容を思い出していただくとわかるように、古典力学で扱う問題は惑星の運動の問題と振子や斜面を転がる物体、回転する物体、物体の投射などの地上の問題、拘束系と非拘束系の問題、動力学と静力学の問題のように分類され、それぞれ数学者や科学者が解法を研究してきた。その最終到達点が解析力学である。
Leibniz(ライプニッツ): 1646-1716
- 微分積分学の創始、微分積分に使う数学記号の考案、微分積分学の定理の導出
- Newtonの順問題、逆問題を証明
- 遠心力の公式を導出した
- 落下速度に比例する抵抗を受ける物体の運動を解いた
- 落下速度の2乗に比例する抵抗を受ける物体の運動を解いた
Varignon(ヴァリニョン): 1654-1722
- 運動の法則を微分学を使って記述することへの貢献
- 力を受けて速度変化をする1次元運動の研究
- 中心力を受けて速度変化する2次元運動の研究
- 2次元調和振動の研究
- Kepler運動と万有引力の導出
Jacob Bernoulli(ヤコブ・ベルヌーイ): 1654-1705
- 拘束問題の設定(斜面を転がる物体、複合振り子)
- 剛体の運動の研究(内力、外力、回転)
Johan Bernoulli(ヨハン・ベルヌーイ): 1667-1748
- 逆2乗の引力に対して運動方程式の積分を極座標の方程式により逆Newton問題を解いた
- Kepler運動と万有引力の導出(極座標)
- 惑星の運動が円錐曲線(楕円、放物線、双曲線)になることを導出
Hermann(ヘルマン): 1678-1733
- 逆2乗の引力に対して運動方程式の積分を初めて実行して逆Newton問題を解いた
Maupertuis(モーペルテュイ): 1698-1759
- Fermatの最小作用の原理を研究し、運動量や運動エネルギーが保存することから最小作用の原理が導かれることを確認した
- 静力学における仮想速度(変位)の原理を提唱、釣り合いの力学
- 「作用」という力学概念を作り出した
Daniel Bernoulli(ダニエル・ベルヌーイ): 1700-1782
- Kepler問題に対して積極的にエネルギー積分を導入して解を求めた
- 拘束問題の設定(斜面を転がる物体、複合振り子)
- 剛体の運動の研究(内力、外力、回転)
- 二重振り子の運動の研究
Euler(オイラー): 1707-1783
- Keplerの法則に代数学的表現を与えたこと。(楕円軌道の極座標表示)
- 極座標による運動方程式の立式と積分による解法によってKeplerの法則、万有引力を証明
- 力学原理をめぐる概念の整備と論理を明確化し、力学問題の汎用化、解析化への道を開いた
- 仕事関数の導入
- Maupertuisと同時期に力学における最小作用の原理を定式化し、連続的に変化する運動に適用できるように一般化した
- 変分法の提唱(Euler-Lagrange方程式)、静力学と動力学の統一
D'Alembert(ダランベール): 1717-1783
- D'Alembertの原理(運動の問題を力のつり合い(平衡)の問題に帰着させる原理)
- この原理により動力学の問題を静力学の問題に還元したこと
Lagrange(ラグランジュ): 1736-1813
- 変分法においてEulerの幾何学的な方法を代数的な方法に改良した(演算子としてのdやδの導入)
- 解析力学により力学問題に対する万能な方法を編み出したこと
- Lagrange方程式
- 複数個の物体の系の力学問題の解法を解析力学で示したこと
- D'Alembert-Lagrangeの原理によりD'Alembertの原理に新しい表現を与えた、つまりD'Alembert原理における「釣り合い」を仮想速度の原理であらわしたこと
- 拘束系に対して未定定数法を考案したこと
- 仮想仕事の原理
- 力学のマニュアル化により古典力学を一般の技術者にも学習、教育可能なレベルにまで引き下げたこと
このようにまとめてしまうとあっけないが、問題や解法をたどりながら本書を読むとどれだけ大変なことだったか実感できるのだ。
私たちが大学程度の学力で古典力学、解析力学を学べるようになったのも、100年におよぶ数学者、科学者の努力の賜物であることがわかる。古典力学の教科書が300ページ近くあるからといって嘆いてばかりはいられない。これだけ長い間の研究で得られた成果をいっぺんに学べるのだからありがたいことだと僕は思ってしまうわけである。
関連記事: これまでに紹介した山本義隆先生の本
古典力学の形成―ニュートンからラグランジュへ:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e808487b7e9d668967f703396e32d80a
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熱学思想の史的展開〈1〉:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d1b18caf10c0e9a10baff20434eb9ffc
熱学思想の史的展開〈2〉:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f852e9510c040c23ae18c4da6df2dcbf
熱学思想の史的展開〈3〉:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/c4f5c84e9854ddd2e60a1300044c9efc
福島の原発事故をめぐって― いくつか学び考えたこと:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7940dcbcf9929b45269dc9efae303848
原子・原子核・原子力―わたしが講義で伝えたかったこと:山本義隆
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/605f519af238e6b41871e81829f46e43
古典力学史の本:
力学の誕生―オイラーと「力」概念の革新―: 有賀暢迪
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序:「Newtonの力学」と「Newton力学」
●●●第1部:Kepler問題
1.『プリンキピア』の問題設定と論理構成
- 発端
- 『プリンキピア』の問題設定
- 『プリンキピア』の運動法則
- 運動法則の吟味
2.「順Newton問題」の解法と重力の導出
- 面積定理の証明
- 中心力を求める基本方程式
- 一つの例:2次元調和振動
- Kepler運動の場合
- 順Newton問題の別解
- Keplerの第3法則
- 議論の再検討
3.「逆Newton問題」の解法と『プリンキピア』の限界
- 『プリンキピア』をめぐる神話
- Newtonは「逆問題」を解いたか
- 『プリンキピア』の「命題17」
- 微分法と『プリンキピア』
- 一直線上の降下
- 任意の曲線上の運動
- 若干の書き直し
4.『プリンキピア』第2篇の解読
- 『プリンキピア』第2篇の歴史的意義
- 第2篇の今日的意義
- 速度に比例する抵抗のもとでの運動--極限移行の問題
- 速度に比例する抵抗--Newtonの限界性
- 一定の駆動力のあるとき
- 速度の2乗に比例する抵抗のあるとき
- 『プリンキピア』という書物
5.Leibnizと微分方程式の導入
- Leibnizの『試論(1689)』をめぐって
- Leibnizの前提と方法--「調和回転」
- 遠心力の公式の導出
- 動径方向の運動方程式
- 楕円軌道と万有引力--順Newton問題
6.Leibnizと『プリンキピア』
- Leibnizの手になる書き込みの発見
- 速度に比例する抵抗中の落下
- 『プリンキピア』の微分法に関する補題
- 速度の2乗に比例する抵抗中の落下--I
- 速度の2乗に比例する抵抗中の落下--II
- Leibnizによる解
7.Varignonと「順Newton問題」
- Varignonの評価について
- 1次元運動とエネルギー積分
- 中心力の新しい表式
- 例--2次元調和
- Kepler運動と万有引力の導出
- 「逆Newton問題」の必要性
8.「逆Newton問題」の初めての解析解
- 問題の設定--方程式の導出
- 方程式の積分--Hermannの解
- Riccatiによる補注と若干のコメント
- Bernoulliの別解--極座標の方程式
- Kepler問題の解
9.Kepler問題の完成
- 楕円軌道の極座標表示
- Kepler運動の運動学
- 極座標による運動方程式の表現
- 運動方程式の第1積分
- 万有引力のもとでの運動
- D.Bernoulliとエネルギー積分の導入
●●●第2部:力学原理をめぐって
10.Eulerによる力学原理の整備
- 1740年前後の状況:Newtonと力学原理
- Eulerの出発点
- 力学原理としての運動方程式
- 慣性原理について
- 力の尺度をめぐる議論
- 見掛けの運動と見掛けの力
- 仕事関数の導入
11.新しい問題--拘束運動とその解法
- はじめに--新しい問題
- Jacob Bernoulliによる問題設定
- 梃子の釣り合いの条件
- 問題の解
12.Daniel Bernoulliと非剛体的拘束運動
- 一般的な問題設定と方針
- 一つの例--動く斜面上の落下
- 二重振子にたいする問題設定
- mにたいする拘束の効果
- 固有振動と相当単子
13.D'Alembertの原理
- D'Alembertとその力学
- 力学の原理
- 力概念への翻訳
- いくつかの具体例
- 二重振子
- D'Alembertの時代的制約
14.最小作用の原理とその周辺
- Maupertuis
- 最小作用の原理
- Eulerによる定式化
- Eulerによる見解
- 静力学と動力学の統一
15.Lagrangeと変分法
- Lagrangeの出発点
- 最小作用の原理
- 複数個の物体系
- D'Alembert-Lagrangeの原理
16.『解析力学』第1部・静力学
- 『解析力学』の出現前後
- 『解析力学』の特徴と意図
- 静力学と仮想速度の原理
- 拘束系と未定乗数法
17.『解析力学』第2部・動力学
- D'Alembertの原理をめぐって
- 動力学の基本方程式の導出:『解析力学(初版)』より
- 動力学の基本方程式の導出:『解析力学(第2版)』
- 諸「原理」の導出
- Lagrange方程式
- 『解析力学』の切り開いたもの
- 力学のマニュアル化
注
あとがきにかえて
人名索引
事項索引
おっしゃるように、本や教科書の書き方が悪かったり、情報不足でわからないという場合もありますね。
「後少しで…」という時のイライラもよくわかります。
僕の場合は情報不足に気が付かずに、もやもやとわからない状態が継続しているわけです。
むしろ「後少しで…」という時のイライラもどかしい感じがキツイです。
長々とやってきて完成寸前には、意識して落ち着かせないと手が震えて字が乱れたりします。
「鋼鉄の壁が降りてきて頭がオーバーヒートしてグニャリとなってしまいます。」という状態に僕はなったことがないので、人それぞれなのだなぁと思います。そういう状態になると相当のストレスですよね。
仕事では僕も新しいチャレンジを課されていますが、年齢とは何系なく見通しが立つまでは苦しいものですよね。
とねさんは、「霧がかかって見えない」という頭の働きなのですね。私の場合は、新しいことを学習する最初の頃は1つが分からないと全部分からない...といった症状を呈するので、鋼鉄の壁が降りてきて頭がオーバーヒートしてグニャリとなってしまいます。
全てにおいてそうなんですが、逆に理解が深まると理解のスピードが速くなってきます。おそらく一度の複数のことを繋げてて、それらの関係性が見えないと納得できない頭の働きなんだろうと...小学生の頃からそうなんです。
チープな遅いCPUでパイプライン処理をやろうとする感じでしょうか?だから理解が進むにつれて学習は有利になります。
霧が晴れてゆくように理解できるとねさんがうらやましいです。
私は、分かったと言うときは、一気に先まで見通せる感じになりますが、そうなるまでは結構苦しいのです。この歳になっても、仕事上新しいことを勉強する機会が多くて、苦しんでからパッと見通しが得られることを繰り返しています...
今は、まぁこまかい事は専門家に任せるとしても、全体を俯瞰できる程度の知識は必要なので、今となってはこの頭の癖は役立っています。
やすさんにとってわからないことは「グニャリ」なのですね。僕にとってわからないことは「霧のように見えない感じ」のような表現になります。
人によってわからないと思う問題や局面はさまざまですけど、理解を阻害している原因は外からは見えませんから、やすさんのように的確にアドバイスする人がいたり、時間がたって別の視点からとらえられるようになると「霧が晴れるようにわかる」ことが多いです。
科学史も一緒に教えたらよいというご意見に僕も賛成です。けれど、現実にはなかなかそこまでの余裕がとれないのですよね。
解析力学は単位のために通り一遍しか勉強していないのですが、最小作用の法則で頭がグニャリとなってそれ以上受け付けない経験をしました。
同じ下宿にいた理学部の先輩と飲んでいる時、頭がグニャリとなって先へ進めない...と打ち明けたら、先輩はニコリとして「それは、極小作用の法則と読み替えればええで...」とのこと。
私からみればご神託でした。グニャリが解消されチョットだけ先へ進めました。
言葉の掛け違いというか、分かった人(先生)から見るとどうしてそうなるか?といった躓きの典型だろうと思います。
かなり前ですが、大学生に熱力学(化屋向けの熱力学)を教える機会があって、そもそも基礎的なところがなんで分からんのやろ?と思って話を聞いていて分かったことがあります。
気体の運動速度論と熱力学がゴッチャになってて、躓いていたんですね。高校ではなにやら一緒くたに教えるせいなのだと思ったのですが、蒸気機関が発明された当時はまだ速度論は無かったので、勉強するときは一旦忘れると良いとアドバイスしたら、目から鱗が落ちたと喜ばれました。
その後の同様の症状を呈する大学生に多く出会ったものですが、科学史も一緒に教えると良いのだろうと、今ではそんなふうに思っています。
この本には「仮想速度」と記述してあるのでそのまま書きました。この用語は現在では使われませんが「仮想変位」という意味合いだそうです。
モーペルテュイやラグランジュが書いた本には「仮想速度」という用語が使われているそうです。