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サクライ上級量子力学〈第2巻〉共変な摂動論:J.J.サクライ

2012年04月08日 17時59分45秒 | 物理学、数学
サクライ上級量子力学〈第2巻〉共変な摂動論

第2巻は相対論的摂動論を駆使して第1巻で紹介したMott散乱、Compton散乱、Mφller散乱などを詳述する。ファインマン・ダイヤグラムを示しながらていねいな説明が繰り返されるので独学している者にとってはうれしい。

1930年代から1940年代に発展したのが相対論的量子論から量子電磁力学である。第2巻では特に場の量子論によるアプローチおよびファインマンによる電子の伝播関数の時空的アプローチによるCompton散乱を紹介しながら両者を比較している。

後者は「量子波のダイナミクス:森藤正人」で紹介されたファインマン流量子力学の相対論バージョンでもある。「物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン」の第2部、「量子電磁力学に対する時空全局的観点の発展(ノーベル賞受賞講演)」に書かれていたことが具体的にどのような式で表されるのかがよくわかった。
結局のところ本書では場の量子論による方法に軍配を上げているのだが、僕にとってはファインマン流に固執しながらも、標準的な方法を学べたのが有益だった。

本編の最後で紹介される電子や光子の自己エネルギー、質量や電荷の繰り込みについては記述が若干省略されていたためか、ついていくことができなかった。計算の結果を見て、そんなものなのだろうと無理やり納得したという程度。それでも非相対論的な理論で電子の自己エネルギーが1次で発散していたのが、相対論的な理論では対数発散することだけでも具体的に理解できたのが収穫だったのかもしれない。もちろん現実には電子の自己エネルギーは発散していないので、これが古典電磁気学以来解決できていない「自己エネルギーの発散問題」である。

本書では「量子のもつれ合い」についても(慎重に)言及されている。翻訳の元になった英語が出版されたのは1967年であるが、ご存知のようにこのもつれ合いは現実のもので、その現象を利用した量子テレポーテーションの実験が成功したのは1998年のことである。(参考記事:「テレポーテーションは実現している。(リンク集)」)

とりあえず第1巻、第2巻を通じて理解度は6~7割には達していると思うので、来週から次の本に進もう。場の量子論の本の中から選ぶことにするつもりだ。


著者の桜井純先生は1933年に東京で生まれ、終戦後の高校時代にアメリカからの留学生招請の選考に合格し、その後アメリカの高校、大学で物理学を学んだ。

先生が渡米されたのは1949年のこと。当時敗戦国日本の高校生が渡米するのは非常にめずらしいことだった。その後、ハーバード大学卒、コーネル大大学院、カリフォルニア大学(UCLA)の教授を歴任、素粒子物理学の分野で幾つかの独創的理論を提出した。1982年にCERNに出張中49才で急逝された。

日本語版は2巻に分かれている。

サクライ上級量子力学〈第1巻〉輻射と粒子


サクライ上級量子力学〈第2巻〉共変な摂動論


第1巻の内容(「BOOK」データベースより)
量子力学上級編の教科書として長年親しまれてきたJ. J. サクライの名著"Advanced Quantum Mechanics"の邦訳。
訳書第1巻には第1章~第3章を収める。古典的なスカラー場やマックスウェル場を扱うラグランジュ形式を紹介。また、輻射(電磁場)の量子化を行い、レイリー散乱(光子‐原子弾性散乱)やトムソン散乱(光子‐電子散乱)などを量子力学的に扱う方法を示す。更に、ディラックによる相対論的電子論とその応用に関する本格的な解説を行うほか、ディラック場にも量子化を施して量子場の相互作用の扱い方を論じ、弱い相互作用による素粒子の崩壊過程に言及する。

第2巻の内容(「BOOK」データベースより)
第2巻には,量子場の共変な摂動論を解説する第4章と付録を収める。相互作用表示とS行列展開の一般論から始めて、具体例としてモット散乱(電子‐クーロン場散乱)やハイペロンの崩壊、電子‐ 陽電子対消滅やコンプトン散乱(光子‐電子散乱)、核子間相互作用やメラー散乱(電子‐電子散乱)などを扱いながら、電子・光子・中間子の伝播関数やファインマン規則、断面積の計算方法などを理解しやすい教育的な形で提示してゆく。また、量子電磁力学における繰り込み理論を概説する。


そもそも、この本が読めるレベルに達していらっしゃる方は、英語版でも構わないかもしれない。

Advanced Quantum Mechanics: J.J.Sakurai




サクライ先生による量子力学への入門書は以下のものである。入門書とは言っても量子力学の教科書の中では「中級レベル」なのだが。

現代の量子力学〈上〉J.J.サクライ」(第2版


現代の量子力学〈下〉J.J.サクライ」(第2版


演習現代の量子力学―J.J.サクライの問題解説


サクライ先生が独自に量子力学全体を考えなおして論理を再構築しようとしたものでシュレーディンガー方程式も、微分演算子も本書では与えられた仮定ではない。よく見かける通常の教科書とは異なり、全ては明確に提示された基礎概念から、極めて自然に導き出されている。サクライ先生がいかに量子力学をよく理解し、奇才だったかがうかがい知れる教科書である。

「現代の量子力学: J.J.サクライ」については2009年に読み、理解不足のつたない記事として投稿しているので、よろしければお読みいただきたい。

現代の量子力学〈上〉J.J.サクライ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/24fd19db8b5e2169820606e076972fed

現代の量子力学〈下〉J.J.サクライ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a6ce1bc17d265ec766198418965a2c37

「現代の量子力学: J.J.サクライ」は英語の初版を邦訳したものだが、英語版のほうは2010年7月に第2版が出版された。初版との違いは「This revised edition retains the original material, but adds topics that extend its usefulness into the 21st century. Students will still find such classic developments as neutron interferometer experiments, Feyman path integrals, correlation measurements, and Bell's inequality. Updated material includes time independent perturbation theory for The Degenerate Case which can be found in 5. New supplementary material is at the end of the text. 」ということだそうである。

Modern Quantum Mechanics (2nd Edition):J.J.Sakurai, Jim J. Napolitano



関連記事:

サクライ上級量子力学〈第1巻〉輻射と粒子:J.J.サクライ
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f54547be0138322c412050725ce489c2

相対論的量子力学:森田正人、森田玲子
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1002e77ccbe4253f35e97138164f1640

相対論的量子力学:西島和彦
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/7faabe0bcdf04c05bccf0aa129a1fba1

古典場から量子場への道: 高橋康著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/9315c8336e6b582d7e8a7af63640bdc8

量子場を学ぶための場の解析力学入門: 高橋康著
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e5ebbd29d17ffac8ce95d0ca8cc5e099


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サクライ上級量子力学〈第2巻〉共変な摂動論




第4章:共変な摂動論
- 自然単位系と次元
- 相互作用表示によるS行列展開
(相互作用表示、U行列とS行列、ユニタリー性)
- 1次の過程;Mott散乱とハイペロンの崩壊
(電子散乱の行列要素、スピンの和と電子-射影演算子、Mott散乱(電子-Coulomb場散乱)の断面積、有限範囲の電荷分布、ヘリシティの変化;スピン-射影
演算子、対消滅と対生成、Λハイペロンの崩壊
- 2光子放射型e-e+対消滅とCompton散乱;電子の伝播関数
(2光子放射型e-e+対消滅のS行列、電子の伝播関数、2光子放射型e-e+対消滅を表すM行列、Compton散乱(光子-電子散乱)の行列要素、Feynman規則、2光子放射型e-e+対消滅の断面積、対称性に関する考察、2光子系に対する偏光測定の逆理、ポジトロニウムの寿命、Compton散乱の断面積、制動放射と対生成)
- 伝播関数に対するFeynmanの時空アプローチ
(Green関数、K_FとK_ret、FeynmanによるCompton散乱の取り扱い)
- Mφller散乱と光子の伝播関数;中間子交換相互作用
(共変な光子の伝播関数、Mφller散乱(電子-電子散乱)の行列要素、共変な光子の伝播関数、Mφller散乱の断面積、電子間の有効ポテンシャル、ベクトル中間子の交換)
- 質量と電荷の繰り込み;輻射補正
(電子の自己エネルギー、光子の自己エネルギー;真空偏極、輻射補正、Lambシフト、展望
- 練習問題

付録A:輻射ゲージ(Coulombゲージ)の電磁力学

付録B:ガンマ行列
- 本書の表示(計量テンソルを併用しないDirac-Pauli標準表示)
- 計量テンソルを併用する場合のDirac-Pauli標準表示
- ガンマ行列の有用な公式
- Dirac-Pauli標準表示における自由な粒子の波動関数

付録C:Pauliの基本定理

付録D:共変な摂動論における公式と規則
- M行列の定義
- M_fiと遷移頻度の関係('共変な'黄金律)および断面積
- ダイヤグラムから-iMを求める規則
- 自由粒子スピノルの性質

付録E:Feynman積分:電子の自己エネルギーと異常磁気能率
(有用な積分公式、電子の自己エネルギー、結節点補正;電子の異常磁気能率)

参考文献

訳者あとがき
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