時に補助金を活用しないほうがその会社にとってプラスになることがある。
そんなことをお伝えした昨日の相談でした。
どうもkurogenkokuです。
昨日の続きです。「包括担保法制」導入への布石がうたれていますと書きましたが、すでに「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会」が立ち上がっています。以下は、「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会 論点整理」という資料です。これを読むと「包括担保法制」の概要がよく理解できます。
【事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会 論点整理】
https://www.fsa.go.jp/singi/arikataken/rontenseiri.pdf
その中で着目したのが、事業性の金融を前提とした「包括担保法制」の活用イメージです。同資料では「(A)事業を立ち上げる・引き継ぐ局面」「(B)事業の成長を支える局面」「(C)危機時を支える局面」「(D)事業の再生を支える局面」の4つの場面で、10個の事例を紹介しています。以下、ピックアップいたしますのでご覧ください。
(A)事業を立ち上げる・引き継ぐ局面
(事例1)ベンチャー企業に対する融資(ベンチャー・デット)
ベンチャー企業には、研究開発費・人件費・広告宣伝費等の成長資金の需要が生じる。そのすべてをエクイティで調達すると、持ち分が希薄化してしまうため、デットで調達したいと考える場合が多い。しかし、業歴の浅い事業は、将来キャッシュフローが見えにくいなど、事業性の理解が難しく、貸し手にとって貸倒れのリスクが高い。そのため、現状、信用補完としての不動産担保等がない限り、デットでの資金調達は難しい。
このケースでは、包括的な担保権の活用を通じて、事業の理解・継続的な実態把握・貸倒れリスクが軽減されやすくなることにより、ベンチャー企業が創業・成長資金の一部をデットで調達する道を広げられる可能性がある。その際は、ワラントやコベナンツ等も必要に応じて組み合わせることになる。
(事例2)プロジェクト・ファイナンス
プロジェクト・ファイナンスは、主に特定の新規事業を対象に、そのプロジェクトに属するキャッシュフローを裏付けとして資金調達を行う手法である。現在でも、既に蓄積しているノウハウをもとに、精緻にキャッシュフロー分析を行い、すべての主要資産に担保権を設定している。
このケースでは、包括的な担保権の活用により、担保設定に関する手続コストや他の事業者に当該プロジェクトを譲渡する場合の手続コストが軽減されることで、こうした形の融資を受けられる事業者のすそ野が広がる可能性がある。
(事例3)事業承継のファイナンス
事業の買い手(事業承継先)が、承継資金を自己資金で賄えないため、事業の価値に基づき、ノンリコースで調達したいと考える場合がある。しかし、現状、貸し手は、事業の理解にコストをかけるよりも、買い手の資力に応じた与信判断になりがちで、こういった事業の承継者が経営者保証等なしに無担保で融資を受けることは難しい。
このケースでは、包括的な担保権の活用によって、貸し手に事業キャッシュフローへの強い関心を持たせることで、事業キャッシュフローに基づくノンリコースの融資を受けやすくなる可能性がある。買い手のすそ野が広がり、従業員による承継や LBO 等が、より一層進みやすくなることが期待される。
(B)事業の成長を支える局面
(事例4)地域中核企業の成長事業へのファイナンス
地元で様々な事業を展開している事業者が、グループ全体としての信用力は必ずしも高くないものの、グループ中にある成長途上の1事業について、成長資金を調達しようとする場合がある。現状、貸し手の与信判断は、グループ全体として評価しがちで、成長途上の事業を単体として評価することが難しい。
このケースでは、包括的な担保権の活用により、貸し手にとって事業単位の評価が合理的となることから、成長途上の事業者が資金を調達しやすくなる可能性がある。
(事例5)エグジットファイナンス
私的整理や法的整理を経た事業者が、再生計画通り(または再生計画以上)の実績を上げている場合、再生計画の縛りを受けずに、事業を再拡大していくために、成長資金を確保したいと考える可能性がある。現状、貸し手としては、再生計画に沿った資金計画での対応を考えやすく、計画外での融資が難しい。
このケースでは、包括的な担保権の活用により、事業者が、事業価値を共に高められる金融機関を選び、再生時の債務の全額リファイナンスを受け、将来の成長資金を確保しやすくなる可能性がある。
(事例6)従来の担保となる個別資産を持たない事業者へのファイナンス
かつては、不動産価値が上昇する中で、一部の総合スーパーや百貨店は、店舗不動産を購入し、これを担保に資金を調達することで事業を拡大する戦略をとっていた。しかし、バブル崩壊後はそのビジネスモデルは崩壊した。これらに代わり、専門的な小売業やサービス業が台頭してきた。出店先は賃貸物件が主流であり、担保となる不動産は保有していない場合が多い。一部の金融機関においては、こうした急成長の専門業者に対して、事業 DD を実施し、事業性を確認した上で、無担保で出店資金を支援したという事例も聞かれる。
このケースでは、包括的な担保権の活用により、成長意欲の高い事業者が、伴走支援を行う貸し手との間に、共通利益を持ちやすくなる。事業者としては、必要資金の融資や適切な経営改善支援を受けやすく、資金調達コストを抑えることができる可能性がある。他方、貸し手としても、事業者の成長の壁を予見し改善を支援することで、貸倒れリスクを軽減しやすくなる可能性がある。
(C)危機時を支える局面
(事例7)安定したキャッシュフローが見込まれる事業者へのファイナンス
今回のコロナ禍のような危機時において、外部環境の影響を受けて赤字を計上するなど一時的に業績が低迷する中、事業者は、資金繰りを安定させるために、手元流動性を低利で調達したいと考える場合がある。現状、貸し手としては、今般のコロナ対応のように、事業継続のために必要な融資を無担保でも行う可能性があるものの、赤字が拡大・長期化してくると、その後も無担保で融資を続けることは難しくなってくる。
このケースでは、包括的な担保権の活用により、事業者としては、危機対応資金の調達コストを抑えつつ、経営改善支援を受けられる可能性がある。他方、貸し手としても、無担保に比べてリスクを軽減できるとともに、経営改善のための実態が把握しやすくなる可能性がある。
(D)事業の再生を支える局面
(事例8)私的整理時におけるファイナンス
私的整理に入る段階では、収益性が改善するまでの当面の運転資金・設備資金等のために資金需要が増加する。しかし、現状、貸し手としては、貸倒れ時の背任のリスク等も踏まえ、慎重な与信判断になりがちで、メインバンク以外は債権回収の動きが生じやすい。
このケースのうち、平時から包括的な担保権を活用している場合、事業者は、事業を深く理解している金融機関から、事業計画の内容に応じ、新規融資を受けやすくなる可能性がある。また、包括的な担保権が設定されていない場合であっても、現状の ABL よりも手続コスト等を低く抑えられるため、事業計画の内容に応じ、新規融資を受けやすくなる可能性もある。事業者が窮境に陥っても、新規の再生資金を調達して資金繰りを安定させることができれば、本業に集中できるようになる、あるいはV字回復のための必要な設備投資等も可能となる。
(事例9)私的整理時の第二会社方式における新会社へのファイナンス
第二会社方式を用いて新会社に事業を譲渡する場合、担保となるような個別資産を持たない新会社は、当面必要な資金を調達し、旧会社から引き継いだ債務等を、事業キャッシュフローで弁済していく必要がある。しかし、現状、貸し手が二次ロスの懸念等を理由に再生資金のファイナンスを躊躇する結果、再生計画が承認されない場合がある。
このケースでは、包括的な担保権の活用により、貸し手の関心を、再生計画の中で見通した事業キャッシュフローに向けることで、事業者が、再生資金を調達しやすくなる可能性がある。
(事例 10)法的整理時における DIP ファイナンス
民事再生手続や会社更生手続を申し立てる段階では、当面の資金繰り計画が必要となる。このうち、手元現預金や売掛債権の回収等で資金繰りを繋ぐことができない場合には、別途、資金調達枠を確保しておく必要がある。しかし、法的整理時における新規融資は、現状、共益債権とされるのみにとどまり、貸し手にとって貸倒れリスクが高い。そのため、事業者としては、必要な資金の調達が難しい。
このケースでは、包括的な担保権の活用により、現状の ABL よりも手続コストを低減できることから、再生資金の調達が容易になる可能性がある。また、裁判所の許可のもと、他の担保権(不動産担保権を除く)に優先する特別の担保権(Priming Lien)の設定を認めることで、再生資金の調達がより一層容易になる可能性がある。
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