宮下さんの小説のファンなので、ほとんど全作を読んできていますが、最近の宮下奈都さんの小説の中で、最もガツンと来る部分が多かったです。4つ★半
本作は、賄賂事件に関係してしまった望月という男性繋がりの6つの短編が含まれています。
今まで読んだ宮下さんの作品の中にも何度か出て来たフレーズで、死んでしまうほど、壊れてしまうくらいに辛い事なら、そこから逃げてもいい、という事を、本作では、更にもっと煮詰めて書かれていました。私もその「逃げていい」論というかは、同じ様に思っています。
そして、逃げた人への周りの目(逃げた人をどう思うか?どういう風に思ってあげたらいいか)って点も描かれていて、凄くそこが印象に残りました。
あと、困っていたり、ひどく悲しい状態の人に、どうやって手をさしのべるべきなのか?どういう言葉をかけたら良いのか?という処も書かれています。こういうのは、生きていて、誰でも何度か遭遇するシーンでもあり、とても勉強になりました。
イジメに遭ってる友達、一人ぼっちで途方に暮れている人に、「どうしたの」と一言言うだけでも、何も言わずただ黙って見ているだけとは雲泥の差で違うのですよね。 そもそも1話目で、夏目が望月と交際するきっかけになったのが、落ち込んでいる夏目に、望月が、一言「どうしたの」と声をかけたことが、きっかけだったわけで。たった一言の「だいじょうぶ?」「どうしたの」が、救いになるってこと、ありますよね。
「たった、それだけ」というタイトルの意味が、ハッキリとは解らないのですが、勝手な私の解釈では、たったそれだけの言葉「だいじょうぶ」とか「どうしたの」とかで、人を救えることもある、という風に思ったりもしています。
1では、望月が、蒼井と夏目という2人の社内女性と不倫関係であることがかかれています。
夏目は、望月を逃がして生き延びさせようとする。
夏目は中学時代の同級生で、自殺してしまった加納君という少年のことを、今も思い出す事がある。
加納君が「泣いていた」と取材で言った塾講師に怒り、彼に「どうしたの」と声をかけなかったことを後悔しています。
会社の吉野さんが、「だいじょうぶ?」「どうしたの?」と声をかけてくれた。
そして「よっぽどのことがあったのね」と、責めるわけでもなく、理解を示してくれようとする物言いが優しくて良いと思いました。
2は、望月の妻が主人公。
難産の末産まれた娘の名前をルイと名付けたが、夫が出生届を出す時に「涙」という名前で提出してしまった。
3は、望月の姉から見た、幼い頃の弟と、現在が描かれています。
この章での、高校時代の彼氏とのエピソードは、特に印象に残りました。
姉は、高校時代に岸田君という何でも出来る自慢の彼氏がいたが、彼は熱心にやっていたサッカーを、怪我で辞める事になってしまった。
そんな時、両親は、「ひとつ辞めた子は、辞めることに抵抗がなくなる」「人間、辞めたり逃げたりすると、すぐに慣れて癖がつくんだよ」「今になんでも辞める様になるから」等と言うのだった。
その言葉に抵抗しながらも、結局は自分は、岸田君と別れてしまうのだった。その時「ひとつ辞めたら、どんどん逃げる様になる」と言った時に弟は姉に泣きながら突進したのだった。それが自分が見た最後の弟の涙だった。
それから10年以上経た今、「辞めることと、あきらめること、逃げること、本当はそれぞれ別の事かもしれない。」岸田君に、そして弟に謝りたい。「辞めてもよかった、辞めるのは逃げることじゃない。それはひとつの選択だ。でも、逃げたのだとしても、それでよかったのだ。逃げた先で、いつかもっといいものに出会えるかもしれない。~中略~いくらでもあきらめて、また始めればよかったのだ」
「どんどん逃げたくなるほど、大事なものをあきらめたのだ」となぜ想像できなかったのだろう。にこにこしなくなったんじゃなくて、できなくなったんだと、何故わからなかったのだろう」
4は、ルイが小3になって転校した学校の担任のお話
この話も、すごくガツンと来ましたね・・・。
学校にいる、家庭の事情でキツイ暮らしをしている子供に、どうやって接すればよいのか? 教師として、そういう生徒と、どうかかわれば良いのか? そういった生徒を気にかけ、特定の生徒にかまけることを、周りの人間に、えこひいきだと言われて問題になった過去から、フラットに接しなければならないと自分に言い聞かせる、この先生が、可哀想で読んでいて辛かったです。
小3位の女子って、相当意地悪な子がいるんですよね・・・。このお話の中でも、結構エグかったです・・。
そして自分が何故教師になろうと思ったのか?を、思い出す。そうです、自分もかつて、「そもそも、あの子は父親がアレだから」と言われるのが嫌で、「お前はお前だから」と言われたかったこと、自分が誰かに言ってもらいたかったことを、自分が誰かに言ってあげられれば・・と思ったことを思い出すのだった。
5は高校生になったルイと、やんちゃな同級生トータのお話。
母は、その後もずっと望月を待って、朝から晩まで安い時給で働いていた。
6は、トータの友人が老人施設で働いている。
そこに、訳ありの益田さんという先輩がいた。
★以下ネタバレ 白文字で書いています★
この益田さんは、もしかしたら、望月なのでしょうか・・・・?
偶然、ルイと再会することがあるのかな・・・
益田さんって、異様にモテますね。でも、奥さんやその後のルイを見ていると、可哀想過ぎるし、ゆるせんって気持ちになるけれど。
こういう人って、直接の家族や身内以外の人には、凄く優しくて良い人って評価高いと思うんですよね・・。ただ、誰にでも優しい人っていうのは、注意が必要ですなあ・・・。以上
「たった、それだけ」 2014/11/12 宮下奈都
内容紹介 海外営業部長、望月正幸は、贈賄行為に携わっていた。
それに気づいた浮気相手の夏目は、告発するとともに「逃げて」と正幸に懇願する。
結果、行方をくらました正幸の妻、娘、姉……残された者たちのその後は。
正幸とはどんな人間だったのか、なぜ逃げなければならなかったのか。
宮下奈都
たった、それだけ
終わらない歌
つむじダブル
誰かが足りない
メロディ・フェア
「田舎の紳士服店のモデルの妻」
「太陽のパスタ、豆のスープ」
よろこびの歌
宮下奈都「新しい星」、恒川光太郎「夜行の冬」
「遠くの声に耳を澄ませて」
「スコーレNO.4」ネタバレ感想
>死んでしまうほど、壊れてしまうくらいに辛い事なら、そこから逃げてもいい
これは私もlatifaさんと同じように思いました。
そしてlatifaさんの「たった、それだけ」の解釈、とても良いですね
何だかそんな気がしてきました。
4はルイに意地悪なことばかり言っていた女の子の性根の悪さがすごく印象に残りました。
何とかして不快な思いをさせてやるんだという底意地の悪さが描かれていて、最悪な子だなと思いました
宮下さんの作品の中でも屈指のガツンとくる物語だったなと思います。
芥川賞か本屋大賞を取ってほしい作家さんです
4番の意地悪な子、恐るべしですね・・。
大きくなったら、もっと加速するのかな・・・
末恐ろしいです・・・。
はまかぜさんも、本作は屈指のガツンと来たお話だったのですね。
宮下さん、コンスタントに新作を出し続けていて、すごいですよね。
これからも、応援したい作家さんです。
PS 昨日、偶然なのですが、また椿屋カフェに行ってきました。椿屋珈琲、椿屋カフェ、ちょっとづつ名前も違う処もあって、結構チェーン店が多いですよね。
メニューや、コーヒー、お店によって、微妙に値段が違うようです。
宮下さんの作品はいつもほんわかとしていて読み終えた後に温かい気持ちになれる作品が多いので今回はホントがつんと来ましたね~。
男性にまつわるいろんな人たちが主人公となりましたけど、その生きている人の立場が違うと当たり前ですけど周りを取り巻く環境も違って、容疑者の家族という立場もリアルに描かれていたなと思います。
ルイちゃんは強い子でしたね。その強さが痛々しかったです。でも、助けてくれる人がちゃんといて、安心しました。
読んでよかったです。
椿屋をネットで見てみたら、コーヒーの他のメニューもなかなか魅力的ですね
「コーヒーゼリーとアイスクリーム」とか、コーヒーがあの美味しさならかなり美味しいのではと思いました。
特製ビーフカレーというのもちょっと食べてみたいです
そうなんですよね、普段割と宮下さんの作品って、ほんわかしていたり、温かい気持ちになるものが多いので、本作は他とはちょっと違った雰囲気のお話でした。
ルイちゃん、可哀想だったな・・・。
ルイ父が、長年ぱったりと、彼女らの前に姿を表わさずに、暮らしている事ですが、やっぱり、酷いな・・・と思ってしまいます・・・。
ルイちゃんも可哀想だけれど、ルイ母も・・・。
これから、どうなるのか・・・
続編などあったら、読んでみたいです。
そうそう、言い忘れてしまいましたが、苗坊さんの今年のベスト、1位の伊坂作品は、順番待ち中です。
他の作品も、今後読む本の参考にさせていただきますね。
あっ!偶然、先日行った時、その「コーヒーゼリーパフェ?」を食べました。
サイズはSで普通サイズ、MとかLだと、かなり大きい様な予感です。
ゼリーは甘くないちゃんとしたコーヒーゼリーで、バニラソフトと合って、大人向けの美味しい味でした。
ビーフカレーも人気あるようですね!