アンネ・フランクの記憶
旅が苦手な小川洋子さんが、4歳の息子を母に預けて、ドイツ、ポーランドへとアンネ・フランクを辿る旅行記です。
この当時、息子さんが4歳だったんですね。息子さんは既にこの頃には、母とのしばしの別れについて、泣いてもしょうがない事を解っていて、黙って母の留守を受け入れていた、という一節がありました。
私がアンネの日記を一部読んだのは、たぶん小学校の低学年の頃だったと思うのですが、教科書でだったかな・・・。当時は、アンネが可哀想、大変な暮らしをしていたんだ、ナチスって酷いという印象が強く、アンネを匿ってくれた勇気のある人達にまで意識が行ってなかったんですよね。
今は、アンネの苦労はもちろんですが、それよりも自分の身の危険もあるのにもかかわらず、匿ってくれた人達がどんな人だったのか?どうしてそこまで危険を冒してまで助けようとしてくれたのか?という処が気になっています。
そういう点では、この小川さんの小説は、そういう部分にもかなり焦点が当たっていたので(実際の生存者に会いに行ってお話を聞いています)興味深かったです。
助けた女性の一人で存命中のミープさんは、助けた理由について、「人間として当然のことをしただけです。なさねばならないことをしたのです。自分が考える処の当たり前の事をしただけです」と言うのでした。立派です。凄いです。
彼女が現在住んでいるお家は、非常に急な階段があって、そこをご高齢な人が登り降りするだけでも危険で大変で、お家の中も綺麗に暮らされているものの、非常に質素なお家であるそうなんですよ。
小川さんや通訳さんなどは、彼女がした功績を考えれば、もっと彼女に暮らしやすい部屋などを、アンネフランク財団が用意してあげても良いのではないか?等と話すんですよね(解る)
でも、きっとミープさんは、そういうのを一切断っているんではないか?等と話すシーンがあって、私も混ざって語りたい気持ちになっちゃいました。
他の一緒に助けた(匿ってあげた)メンバーのその後等も語られていますが、ナチスに捕まって命を落とした人がいなかったのは救いでした。でもストレスや不安が大きかったのか胃をやられて手術受ける様になったクレイマン氏や、クーフレル氏は強制労働キャンプを転々とさせられ、途中で脱走して戻って来たそうです・・・。
また、アウシュビッツに送られていたアンネの父親がソ連軍に開放されたのが1945年1月で一番早く解放され、アウシュビッツから違う処に移動させられていたアンネや、他のメンバーは、その時点では、まだ生きていて、もしアウシュビッツに移動せずにいたなら助かったであろうこと。そして移動先で、そのわずか数か月に亡くなっており、それも後数日後に終戦になっていたんですね・・・。
私はてっきり、アウシュビッツ開放が最後だと思い込んでいましたが、そうじゃなくて逆に早かったのですね・・・。
先日「密やかな結晶」を読んだばかりなので、そのストーリーが、まさにこの「アンネ・フランクの記憶」とかぶる部分が沢山あって、相乗効果で印象により一層残る様になりました。
密やかな結晶では、主人公のわたしが、危険を承知で小部屋に人を匿ってあげて物を差し入れする側の人で、彼女の視点でお話が進んで行くのです。
アンネ・フランクの記憶 1995/9/1 小川洋子
内容(「BOOK」データベースより)
10代の頃からずっと「アンネの日記」に深い関心を寄せてきた著者が、そのゆかりの人と土地をたずねて書き下ろした、初めてのノンフィクション作品。
小川洋子さんの他の本の感想
「密やかな結晶」
「小箱」
「約束された移動」
「あとは切手を、一枚貼るだけ」
「口笛の上手な白雪姫」
「シュガータイム」
「不時着する流星たち」
「琥珀のまたたき」
「注文の多い注文書」
「いつも彼らはどこかに」
「ことり」「とにかく散歩いたしましょう」 感想
「最果てアーケード」「余白の愛」小川洋子
刺繍をする少女
人質の朗読会
妄想気分
原稿零枚日記」
「ホテル・アイリス」「まぶた」「やさしい訴え」
「カラーひよことコーヒー豆」
小川洋子の偏愛短篇箱
猫を抱いて象と泳ぐ
「偶然の祝福」「博士の本棚」感想
妊娠カレンダー、貴婦人Aの蘇生、寡黙な死骸 みだらな弔い
薬指の標本 5つ☆ +ブラフマンの埋葬
「おとぎ話の忘れ物」と、「凍りついた香り」、「海」
「ミーナの行進」「完璧な病室・冷めない紅茶」感想
すっかり記憶の彼方でしたが少しずつ思い出してきました。
もう少し、ほんの些細な偶然でも重なっていればアンネも姉も生きて父と再会できたかも、と思うととても切なくなります。
どうしてホロコーストのような悲劇が起こってしまったのか。人の持つ誤った差別意識や偏見は形を変えて今も蔓延っているんですよね…。
確かに9年前だと、記憶も薄くなっていて当然ですよ、
差別や偏見って、いつまでたっても消えないんでしょうね・・・。
動物でも、ハトとかでも色が違うってだけで、仲間外れにされたりしてますし・・難しいですね・・・。
「アンネ・フランクの記憶」を読まれたんですね。これを読んでいた時は、ちょっと辛くなったりしました。小川さんの小説を読むと、どこかにアンネを感じたりするようにもなりました。それは、マイナスのイメージばかりではないんですけどね。
存在する音楽さんは、これと「密やかな結晶」とほぼ同時期に読まれたとのことで、私も同じ様にしてみたのですが、とても良かったです。相乗効果がありました
アンネについては、知ってるしなあ・・と(教科書知識程度で、そんなに知ってるわけでは無かったのに)、改めて深く読んでみようとまでは思わなかった為、小川さんのアンネ関連本も後回しになって、読まずに何年も経ってしまったのですが、今更ですが、これら2冊読んで良かったです!