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「空の拳」感想 角田光代

2012-12-26 | 小説・漫画他
かなり分厚い本。
新聞に連続掲載されていたお話なので、長くて当然なのですが。
今までの角田さんとは、ちょっと違った雰囲気、スポコン?系のお話。新たなジャンルに果敢に挑戦していらっしゃいますね!
以前運動不足解消のために、角田さんがボクシングをやっている・・と何かで見たので、実際にボクシングの世界に入り込んで、実体験的に知った事などを含めて、一生懸命書き上げたという感じがビシバシ伝わって来る熱の入った小説でした。

世間にボクシングのお話は結構ありますが、主人公が出版社の男性で、運動が苦手で、人とのつき合いも上手くない・・・という設定は初めて読んだ気がします。他には無い視点での小説ですよね。

主人公の空也は、昔から大の小説好き。全ての経験を、小説上で疑似体験してきた様な人生を送って来ています。しかし、突然ボクシング雑誌に仕事の部署が移動になってしまい、ボクシングについて全然知らない彼は、やむを得なくボクシングジムに行ったり、ボクシングについて調べる様になります。
そうこうしているうちに、段々ボクシングがらみの知人が増え、ボクシングにも興味が涌いて、自分もボクシングをやるようになります(ここで他の作品のように自分もそこそこ行ける様に腕が上がることが無いのはナイス^^)

★以下ネタバレ 白文字で書いています★
最終的には、立花と友達、になっていた。というシーン、良かったです。この2,3年で、空也の生き方にも、前とは少なからず変化が現れたし、担当していたボクシング誌が休刊になってしまうのを悲しく思う様にまでになりました。その間、坂本や中神や立花も、それぞれが以前とは違った立ち位置になったし、空也も結果的に長年の夢だった文芸の仕事に移動も出来、そこで良い仕事をすることが出来、かつ彼女までget出来ている!というラストでした。ハッピーエンドで良かったー。以上

最初はショックで泣く程イヤだった仕事だけど、そこで出来る限り頑張っていたら、今までの自分では絶対見る事や知る事がなかったであろう事を学べて、知らず知らずのうちに、自分が成長していた。そして現在の自分があるのも、その経験があったからこそ。という流れで、こういう流れのお話は凄く好きです!
この小説の根っこの部分は、いかにも角田さんらしいと思いました。

硬派に恋愛モードとかをそぎ落としている分(そういうのは個人的に、好感度大だけど)、ボクシングの試合のシーンの描写部分の割合が多いです。しかしながら、私は、登場する人物それぞれの、ボクシング以外の、幼い頃から現在に至るまでの家族や回りの人間との関係とか、出来事とか、そういう事の方に興味がわいてしまうので(いや、そういう事にも、ちゃんと触れていたし、説明もされていましたが)それでも、そういう処を、もっと多い割合で読みたかったかな~。

あと、普通の家庭で育って来た立花を、わざと育ちが悪い様な捏造をして、人気が出てから、それがバレて、世間から叩かれるという処とかは、ハラハラしながら読みました。
ボクシングって最終的には、メンタルな部分が非常に影響してくるんですね。

ボクシングをやったことで、今まで自分も知らなかった自分の事を(意外と俺キモが座ってるのかも・・とか・・)、発見出来る、という処とか、私は無理だけど、ちょっとボクシングとかやってみたいな~なんて頭で思いました。

読んでいて、空也が友人とか恋愛とか縁の無い人生だったと言うけれど、それほど凄いコミュ障な人間じゃないので(時々無神経な行動や発言は少々あったけど・・。)空也を特別な人間じゃなく、ボクシングを知らない一般人の普通のそのへんの人として読み手が感情移入出来て、読みやすかったです。

レコード屋さんの萬羽さんは、いい感じだったな~。彼のお店とか渋い。

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