リートリンの覚書

古事記 上つ巻 現代語訳 五十八 猿田毘古神と猿女君


古事記 上つ巻 現代語訳 五十八


古事記 上つ巻

猿田毘古神と猿女君


書き下し文


 故尓して天宇受売命に詔りたまはく、「此の、御前に立ちて仕へ奉れる猿田毘古大神は、専ら顕し申せる汝送り奉れ。また其の神の御名は、汝負ひて仕へ奉れ」とのりたまふ。是を以ち猿女君等、其の猿田毘古の男神の名を負ひて、女を猿女君と呼ぶ事是なり。
故、其の猿田毘古神、阿邪訶に坐す時に、漁為て、比良夫貝に其の手を咋ひ合さえて海塩に沈み溺れき。故其の底に沈み居る時の名は、底度久御魂と謂ひ、其の海水の都夫多都時の名を、都夫多都御魂と謂ひ、其の阿和佐久時の名は、阿和佐久御魂と謂ふ。
 是に猿田毘古神を送りて、還り到る、乃ち悉に鰭の広物、鰭の狭物を追ひ聚めて、問ひて言はく、「汝は天つ神の御子に仕え奉らむや」いふ時に、諸の魚皆「仕へ奉らむ」と白す中に、海鼠白さず。 尓して天宇受売命、海鼠に謂ひて云はく、「此の口や答へぬ口」といひて、紐小刀以ちて其の口を拆く。故、今に海鼠の口拆くるなり。是を以ち、御世、島の速贄献る時に、猿女君等に給ふなり。


現代語訳


 しかるがゆえに、天宇受売命(あめのうずめのみこと)に仰せになられて、「この、御前に立って仕え奉れる猿田毘古大神(さるたびこのおおかみ)は、専ら顕し申せる汝が送り奉れ。またその神の御名は、汝が負いて仕へ奉れ」とおっしゃられました。ここをもちて猿女君等は、その猿田毘古の男神の名を負って、女を猿女君と呼ぶ事となりました。
 故に、その猿田毘古神は、阿邪訶(あさか)に坐す時に、漁をもって、比良夫貝(ひらぶがい)にその手を喰い合わされて、海塩に沈み溺れてしまいました。故に、その底に沈み居る時の名は、底度久御魂(そこどくみたま)と謂い、その海水の都夫多都(つぶたつ)時の名を、都夫多都御魂(つぶたつみたま)と謂い、その阿和佐久(あわさく)時の名は、阿和佐久御魂(あわさくみたま)と謂う。
 ここに猿田毘古神を送って、還り到る、すなわち悉に鰭(はた)の広物(ひろもの)、鰭の狭物(さもの)を追ひ聚(あつ)めて、問いて、「お前は天つ神の御子にお仕えするか」という時に、諸(もろもろ)の魚が皆、「お仕えいたします」ともうす中に、海鼠(なまこ)は言いませんでした。 しかして、天宇受売命は、海鼠に謂いて、「この口は答へぬ口」といって、紐小刀(ひもがたな)もってその口を拆(さ)きました。故に、今、海鼠の口が拆(さ)けているのです。ここをもって、御世(みよ)に、島の速贄(はやにえ)を献る時に、猿女君等に奉ります。



・都夫多都(つぶたつ)
泡の粒が立つこと
・阿和佐久(あわさく)
泡粒が水面で割れること
・広物(ひろもの)
幅の広い物。 大型の物。 多く、「鰭(はた)の広物」の形で用いられ、大きい魚をさす
・狭物(さもの)
狭く小さいもの。多く「鰭(はた)の狭物」の形で用いられ小さい魚の意を表わす
・紐小刀(ひもがたな)
細紐をつけてさげるようにした小刀。匕首(ひしゅ)
・速贄(はやにえ)
初物の供え物。一説に、急ぎの供え物の意図も


現代語訳(ゆる~っと訳)


 天降りした瓊瓊杵尊は、天宇受売命に、
「この、天降りの先導をつとめ仕えた猿田毘古大神は、全てをあきらかにしたお前がお送りするように。また、その神の御名を、お前が受け継いでお仕えしなさい」といいました。

こういうわけで、猿女君等は、その猿田毘古の男神の名を継いで、女を猿女君と呼ぶ事となった縁起です。

 その猿田毘古神ですが、阿邪訶においでになった時に、漁をして、ひらぶ貝にその手を喰い挟まれて、海水に沈み溺れてしまいました。こういうわけで、その底に沈み居る時の名は、底度久御魂といい、その海水の泡の粒が立った時の名を、都夫多都御魂といい、その泡粒が水面で割れた時の名は、阿和佐久御魂といいます。

 猿田毘古神を送り届けた天宇受売命は、戻って来て、すぐに鰭の大きい魚、鰭の小さい魚を追ひ集めて、問い尋ねて、「お前は、天津神の御子にお仕えするか?」という時に、多くの魚が皆、「お仕えいたします」と答える中、ナマコは答えませんでした。そこで、天宇受売命は、ナマコに、「この口は、答えない口か」といって、紐小刀でその口を裂きました。こういうわけで、今でも、ナマコの口が裂けているのです。

 こういうわけで、天皇の御世に至っても、志摩国の初物の供え物を献上する時に、猿女君等に下賜するのです。



続きます。

読んでいただき
ありがとうございました。







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