古事記 上つ巻 現代語訳 五十五
古事記 上つ巻
天降り
猿田毘古神
書き下し文
尓して日子番能邇邇芸命、天降りまさむとする時に、天之八衢に居て、上は高天の原を光し、下は葦原中国を光す神是に有り。故尓して天照大御神、高木神の命以ち、天宇受売神に詔りたまはく、「汝は手弱女人には有れども、伊牟迦布神と面勝つ神ぞ。故専ら汝往き問はまくは、『吾が御子天降り為る道に、誰ぞ如此て居る』ととへ」とのりたまふ。故問ひ賜ふ時に、答へ白さく、「僕は国つ神、名は猿田毘古神なり。出で居る所以は、天つ神の御子天降り坐すと聞く。故御前に仕へ奉らむとして、参向へ侍り」とまをす。
現代語訳
尓して、日子番能邇邇芸命(ひこほのににぎのみこと)、天降りなされようとした時に、天之八衢(あめのやちまた)に居て、上は、高天原を照らし、下は葦原中国(あしはらのなかつくに)を照らす神がここに有りました。故に、尓して、天照大御神(あまてらすおおみかみ)、高木神(たかぎのかみ)は命をもって、天宇受売神(あめのうずめのみこと)に詔りなされて、「汝は、手弱女人 ( たわやめ)では有るが、伊牟迦布(いむかふ)神と面勝つ(おもかつ)神ぞ。故に、専ら汝が往き、問い申して、『吾が御子が天降りになる道に、誰ぞ、このように居るのだ』と問え」と仰られました。故に問い賜う時に、答えて、「僕は、国つ神。名は猿田毘古神(さるたびこのかみ)。出で居る所以(ゆえん)は、天つ神の御子が天降りされると聞きいた。故に、御前に仕へ奉ろうと、参向(さんこう)し侍(はべ)り」と申しました。
・天之八衢(あめのやちまた)
高天原(天)にある多くの分かれ道
・手弱女人 ( たわやめ )
しなやかで優美な女性。たおやかな女
・伊牟迦布(いむかふ)
1・向き合う2・敵対する
・面勝つ(おもかつ)
人に面と向かって気おくれしない。人に対して恥じたりおそれたりしない
・所以(ゆえん)
わけ。いわれ。理由
・参向(さんこう)
高位の人の所へ、でむくこと。おもむくこと。参行。参上
現代語訳(ゆる~っと訳)
そして、日子番能邇邇芸命が、天降りなされようとした時に、高天原の分かれ道に、上は、高天原を照らし、下は葦原中国を照らす神がいました。
こう言うわけで、天照大御神と高木は、天宇受売神に、
「お前は、たおやかな女ではあるが、敵対する神と向き合っても、面と向かって気おくれしない神です。
だから、お前がそこへ行き、
『我が御子が天降りになる道にいるのは誰だ。どうして、このように居るのだ』と問いなさい」と命じました。
こういうわけで、この問いに、相手が答えて、
「私は、国津神で、名は猿田毘古神です。ここに出で来た理由は、天つ神の御子が天降りされると聞きました。それならば、先導をお仕えしたいと、参上し控えておりました」といいました。
続きます。
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ありがとうございました。
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