古事記 上つ巻 現代語訳 五十四
古事記 上つ巻
天降り
天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命
書き下し文
尓して天照大御神・高木神の命以もち、太子正勝吾勝勝速日天忍穂耳命に詔りたまはく、「今、葦原中国を平け訖へぬと白す。故、言依さし賜へる隨に、降り坐して知らしめせ」とのりたまふ。尓して其の太子正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命、答へ白さく、「僕は降らむ装束しつる間に、子生れ出でぬ。名は天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命、此の子を降すべし」とまをす。此の御子は、高木神の女、万幡豊秋津師比売命に御合して、生れませる子、天火明命、次に日子番能邇邇芸命二柱なり。是を以ちて白したまふ隨に、日子番能邇邇芸命に詔科せ、「此の豊葦原水穂国は、汝知らさむ国ぞと言依さし賜ふ。故、命の隨に天降るべし」とのりたまふ。
現代語訳
しかして、天照大御神(あまてらすおおみかみ)・高木神(たかぎのかみ)の命をもって、太子(ひつぎのみこ)正勝吾勝勝速日天忍穂耳命(まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと)に詔りして、「今、葦原中国を平(ことむ)け終えたと申す。故に、言依さし賜える隨(まにま)に、降り坐(ま)して知らしめせ」と仰られました。しかして、その太子正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命は、答えて言うことには、「僕は、降りようと装束(よそひ)する間に、子が生れ出ました。名は天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命(あめにきしくににきしあまつひたかひこほのににぎのみこと)、この子を降すべきです」と申しました。この御子は、高木神の娘、万幡豊秋津師比売命(よろづはたとよあきつしひめのみこと)と御合(みあう)して、生れた子で、天火明命(あめのほあかりのみこと)、次に日子番能邇邇芸命(ひこほのににぎのみこと)の二柱です。ここをもちて、もうしたまう隨に、日子番能邇邇芸命に詔科せ、「この豊葦原水穂国は、汝が統治すべき国ぞと言依さし賜う。故に、命の隨に天降るべし」と仰られました。
・太子(ひつぎのみこ)
日の神・天照大神の子孫として葦原中国の継承予定者
・言依さし
お命じになる。委任なさる
・御合(みあう)
肉体関係を結びなさること。結婚なさること。みあわし
現代語訳(ゆる~っと訳)
そこで、天照大御神と高木神の勅命をもって、太子正勝吾勝勝速日天忍穂耳命に、
「今、葦原中国を平定したと報告がありました。こういうわけで、委任した通りに、天降りして葦原中国を統治するように」
といいました。
その太子・正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命が答えて、
「私が天降りしようと装束を整えている間に、子が生まれました。
名は、天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命、この子を降すべきです」
といいました。
この御子は、高木神の娘・万幡豊秋津師比売命と結婚して、生れた子で、天火明命、次に日子番能邇邇芸命の二柱です。
そこで、天之忍穂耳命が申した通りに、日子番能邇邇芸命に命じて、
「この豊葦原の水穂国は、そなたが統治すべき国である、と委任があり授けられました。こういうわけで、命にしたがい天降りしなさい」
、といいました。
続きます。
読んでいただき
ありがとうございました。
前のページ<<<>>>次のページ