古事記 上つ巻 現代語訳 六十六
古事記 上つ巻
佐比持神
書き下し文
悉く和邇魚を召び集め、問ひて曰く、「今、天津日高の御子、虚空津日高、上つ国に出幸でまさむと為。誰は幾日に送り奉りて、覆奏さむ」といふ。故、各己が身の尋長の隨に、日を限りて白す中に、一尋和邇白さく、「僕は一日に送る即ち還り来む」とまをす。故尓して其の一尋和邇に告らさく、「然らば汝送り奉れ。若し海中を渡る時、な惶畏せまつりそ」とのる。其の和邇の頸に載せ、送り出しまつる。故、期りしが如く、一日の内に送り奉る。其の和邇返らむとせし時、佩かせる紐小刀を解き、其の頸に著けて返したまふ。故、其の一尋和邇は、今に佐比持神と謂ふ。
現代語訳
悉く和邇魚(わに)を召び集め、問いていうことには、「今、天津日高の御子・虚空津日高(そらつひたか)が、上つ国(うわつくに)に出幸(い)でになられる。誰か、幾日でお送りして、覆奏(ふくそう)できるか」といいました。故に、各々が身の尋長(たけ)の隨に、日を限ってもうす中に、一尋(ひとひろ)の和邇がいうことには、「僕は、一日で送り、即ち還り来ることができます」と申しました。故に尓して、その一尋和邇に告げて、「然らば、汝がお送りするように。もし、海中を渡る時、惶畏(かしこま)せないように」といいました。その和邇の頸に載せ、送り出しました。故に、くぎりの日時の通りに、一日の内にお送りしました。その和邇が返ろうとした時、佩(は)かせる紐小刀を解き、その頸に著けて返しました。故に、その一尋和邇は、今に佐比持神(さひもちのかみ)と謂います。
・和邇魚(わに)
記紀の日本神話や風土記等に登場する海の怪物
・上つ国(うわつくに)
(海底の国、または地下にあるとされる黄泉の国に対して)地上の国。現世
・覆奏(ふくそう)
繰り返し調べて天子に奏上すること
・一尋(ひとひろ)
長さの単位。人が両手を広げた長さ
現代語訳(ゆる~っと訳)
綿津見大神は、すべてのワニを召び集め、問い尋ねて、
「今、天津日高の御子・火遠理命が、地上の国に帰ろうとしている。誰か、何日でお送りして帰り、報告できるか?」といいました。
そこで、各々が身長にあわせて、日を限ってもうす中に、一尋のワニが、「私は、一日でお送りして、すぐに帰って来ることができます」と申しました。
そこで、その一尋のワニに、「それでは、お前がお送りするように。もし、海中を渡る時、恐い思いをせないように」といいました。
火遠理命をそのワニの首に載せ、送り出しました。
よって、約束の通り、一日の内に送りました。
その和邇が帰ろうとした時、火遠理命は、身につけた紐小刀を解き、その首に着けて帰しました。
こういうわけで、その一尋ワニは、今に佐比持神と言います。
続きます。
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ありがとうございました。
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