古事記 上つ巻 現代語訳 六十
古事記 上つ巻
木花佐久夜毘売の出産
書き下し文
故後に木花佐久夜毘売、参出て白さく、「妾は妊身めり。今産む時に臨みぬ。是の天つ神の御子、私に産みまつるべくあらず。故請す」とまをす。尓して詔りたまはく、「佐久夜毘売、一宿にや妊める。是れ我が子には非じ。必ず国つ神の子にあらむ」とのりたまふ。尓して答へ白さく、「吾が妊める子、若し国つ神の子にあらば、産む時幸くあらじ。若し天つ神の御子にあらば、幸くあらむ」とまをす。戸無き八尋殿を作り、其の殿の内に入り、土を以ち塗り塞ぎて、方に産む時に、火を以ち其の殿に着けて産みたまひき。故、其の火の盛りに燃る時に、生める子の名は、火照命。此は隼人阿多君の祖。次に生める子の名は、火須勢理命。次に生れませる子の御名は、火遠理命。亦の名は天津日高日子穂穂手見命。三柱。
現代語訳
故後に、木花佐久夜毘売(このはなのさくやびめ)が、参り出て申して、「妾は妊身(にんしん)しました。今から産む時に臨みます。この天つ神の御子を、ひそかに産んでよいものではありません。ですから報告いたします」と申しました。尓して詔りして、「佐久夜毘売(さくやびめ)よ。一夜で妊めるとは。我が子ではあるまい。必ず国つ神の子であろう」とおっしゃられました。尓して答えて言いました。「吾が妊める子が、もし国つ神の子であるなら、産む時は無事に産まれないでしょう。もし天つ神の御子であるなら、無事に生まれるでしょう」と申しました。戸が無い八尋殿(やひろどの)を作り、その殿の内に入り、土を以ち塗り塞いで、方(みざかり)に産む時に、火を以ち、その殿に着けて産みになられました。故に、その火の盛りに燃る時に、生める子の名は、火照命(ほでりのみこと)。これは隼人阿多君の祖です。次に生める子の名は、火須勢理命(ほすせりのみこと)。次に生れませる子の御名は、火遠理命(ほおりのみこと)。亦の名は天津日高日子穂穂手見命(あまつひたかひこほほでみのみこと)。三柱。
・八尋殿(やひろどの)
幾ひろもある広い殿舎。大きな殿舎
・方(みざかり)
ちょうどさかりであること。まっさかり
現代語訳(ゆる~っと訳)
この後、木花佐久夜毘売が、邇邇芸能命の所に参上して、「私は、妊娠し、今にも出産する時になっています。この天津の御子を、ひそかに産んでよいものではありません。ですから報告いたします」と申しました。
すると、邇邇芸能命が、「佐久夜毘売よ。一夜で妊娠したというのか。これは我が子ではあるまい。必ず国津神の子であろう」とおっしゃられました。
これに答えて、「私が妊娠した子が、もし国津神の子であるなら、産む時は無事に産まれないでしょう。もし天津神の御子であるなら、無事に生まれるでしょう」と申しました。
そして、木花佐久夜毘売は、出入り口が無い大きな殿舎を作り、その屋内に入り、土で入口を塗り塞いで、今まさに出産する時に、火をその殿に着けて、火の中で出産されました。
こういうわけで、その火が燃え盛る時に、生んだ子の名は、火照命。これは隼人阿多君の祖です。
次に生んだ子の名は、火須勢理命。
次に生んだ子の御名は、火遠理命。またの名は天津日高日子穂穂手見命。
三柱。
続きます。
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ありがとうございました。