夢の人

心はいつまでも子供のまま。生活感無き こだわり人は、今日も夢を追いかけて多忙です。

春の整形外科

2012-03-25 04:50:03 | Weblog
 春一番が吹かず、荒れ模様の空がとって代わった週末。 近所の公園の梅は遅咲きの気配で、桃と桜と同時に観賞できそうな気配すらしてきた。
 左足親指の先端をがっつり負傷したので、花見の時期は私にとって遅れてくれたほうが良い。
 今は激しい疼痛から少し解放されて、ホッとしているのだが。

 先々週に整形外科を訪れた時は、酷い痛みに青息吐息だった。 足の親指の爪が紫色で、爪の付け根は筋状に赤い。 全体的には漫画でしばしば見る、トンカチで打ったり石が落ちたりして、ブクーッと膨れている図である。
 「あいたたたたた」
 と左足を引きずりながら、家から近い整形外科へ行った。 他にも何軒か電話してみたが見事に予約で埋まっており、其処しか空いていなかったのである。
 初診なので問診票に記入して受付に出し、ソファに腰を下ろすと、そこそこな数の老若男女が座っていた。
 普通ならリハビリ主体の外科なんぞは、爺サマ婆サマばかり居るのだが、ここは流行っているからか何なのか、お年寄り以外に、二十歳ぐらいの男性女性、腕白盛りの小学生男児、ママさん二人連れ、スーツ姿の壮年紳士、豹柄コートを小脇に抱えたおばさん等という人間見本市状態であった。

 ぽつねんと待つこと小一時間もかかったから、痛みを堪えつつ、患者連の様子を観察していたのだったが、最も目を惹いたのは豹柄コートのおばさんで、どこからどう見ても「典型・大阪のオバサン」。
 髪は黄色で大仏のようなパーマ、薔薇の刺繍を施した真っ青なセーターを着て、ワイン色のスパッツとピンク色の紐靴を履き、ゴールドの大ぶりな指輪とネックレスを身につけている。 受付のおねえさんの元へ時折話しに行っては、弓形くっきり眉毛と紅い唇を「くいだおれ人形」のように動かしながらワハワハと笑っていた。
 オバサンがあまりに典型的な人物だったので私は、もしかして隠しカメラなんかがあって、お笑い番組の収録でもしているんじゃないかと疑ったほどだった。

 さて、肝心の治療のほうであるが、先に呼ばれて診察室から出てくる若い女性陣の揃いも揃ってみーんな血の気の失せた顔をしていることが、どうも不気味でならなかった。
 ようやく順番が来た時
「はいっ!」
 と私がやけに威勢よく立っていったのは、単に待ち遠しかっただけではないだろう。
 顔はあくまでも優しそうな中年男性の院長に対し、ひととおりの説明をした。 院長は患部を眺めてから、予想どおりにレントゲンを撮り、そして言った。

「じゃあ、爪にドリルで穴を開けましょう」

「ドリルで穴、ですか?」

 決して怖かったわけではない。 ドリルも穴も、酷い痛みを取り除いてくれるなら大歓迎なところだ。 院長曰くは、爪と皮膚間の血を抜けばすぐに痛みがとれるというから、本来であれば二つ返事で了承する。
 問題は左足にリンパ浮腫という持病がある点だ。 虫刺されですら注意しなければならぬ病なのに、簡単に切開するとかトンデモナイ事なのだ。
 穴を開ける時点でほとんど痛くないですよとか、すぐに処置は済みますよとか、患者が恐怖心から拒否していると勘違いした先生は宥めにかかるけれど、こればっかりは譲れない。 切々と事情を述べて彼に納得して頂くしかない。 そのままで全く痛まずに歩けるには、かなり日数を要するという答えだけをひき出した私に
「ま~、処置した所からばい菌が入ったらいけませんよね……放っておいたら腐って落ちるとかは、あり得ませんから……ゴニョゴニョ……」
 と至極残念そうな様子の院長であった。

 鎮痛剤も家に有るからということで湿布薬のみ貰って退散し、とりあえず専門家に掛かったからいいやと思いつつ今日に至る。
 当地で桜満開の頃には、怪我を気にせず花を見上げたいものだ。


コメント (4)
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